2026年8月5日から8月11日までに公開された、マーケティング分野のニュースを5本お届けします。取り上げるのは、経営者が納得できる報告の作り方、広告運用の作業だけを外に出す新しいサービス、EC担当者が施策を諦めている実態調査、ChatGPT広告の運用をAIが支援する動き、そして国のセキュリティ評価制度への対応支援です。いずれも、社員数の限られた会社ほど判断が結果を左右するテーマです。専門用語はそのつど言い換えを添えながら、明日から動ける形で整理します。
1. マーケティング部門の報告に経営者が納得できない理由とROI改善策
概要
Web担当者Forumが2026年8月5日に公開した連載記事です。筆者はデータドリブン・コンサルティング代表取締役の堀内公博氏です。経営者がマーケティング部門の報告に納得しない最大の理由は、その活動で売上がいくら上がるのかに答えられない点にあると指摘しています。ブランド認知度や好意度は報告されても、売上との連動が示されず経営判断に使えないという構造です。記事では人材紹介業を例に、バリューチェーンを「登録」「ヒアリング」「求人提案」「面接設定」「入職」の5段階に分解しています。売上に直結するのは登録数ではなく入職者数であり、入職者数は登録数と入職転換率(=次の段階に進んだ人の割合)の掛け算で表されます。自部門の活動範囲だけで目標を設定し、影響範囲を無視することが、ROI(=使ったお金に対していくら返ってきたかの割合)を説明できない原因だとされています。ROI推計の手法としては、期間差分分析、エリア別比較、クローズドループデータの活用の3つが挙げられています。
中小企業への影響
中小企業は広告予算が限られるため、効果のわからない投資を続ける余裕がありません。ROI視点の欠如は、大企業以上に重い問題になります。リード数や問い合わせ件数だけを追いかけると、成約しない見込み客が増え、営業の工数だけが膨らみます。社長が広告費に見合う売上が出ているかを判断できず、投資の継続や停止を勘で決めてしまう状態も起こりがちです。一方で、小さな組織には有利な面もあります。マーケティング担当が1〜2名の会社では、活動範囲と影響範囲が事実上ひとつになっており、むしろ全体最適の指標を置きやすい環境です。チラシや地域広告など、オフライン施策の比重が高い会社ほど、期間差分やエリア比較といった簡易な検証の恩恵は大きくなります。顧客数が少ない分、1件ごとの成約経路をたどれるため、低コストでも精度の高い検証が可能です。
経営者の視点
まず、自社の売上を「集客数 × 転換率 × 単価」の掛け算に分解し、どこが詰まっているかを1枚の紙で見えるようにしてください。次に、マーケティングの評価指標を問い合わせ件数から成約件数や成約金額へ置き換え、量だけでなく質を含めた形にします。検証は難しく考える必要はありません。広告を出す月と出さない月をつくって売上の差を比べる、エリアを2つに分けて片方だけ広告を出すといった方法で十分に始められます。マーケティング担当と営業担当が同席する月次の会議を設け、直近の見込み客の質を必ず議題にしてください。報告の形式も変え、実施した施策ではなく売上への貢献見込み額を最初に書かせる運用が効きます。ただし、期間差分やエリア比較は季節要因や競合の動きに左右されるため、単純な比較は誤った結論を招きます。成約数だけを指標にすると担当者が営業側の要因まで背負い、疲弊や部門対立につながる点にも配慮が必要です。
参考リンク
Web担当者Forum:マーケティング部門の報告に経営者が納得できない理由とROI改善策
2. オプト、インハウス化時代の新たな広告運用モデル「アド・インフラパック(TM)」の提供を開始
概要
株式会社オプトが2026年8月6日に、新サービス「アド・インフラパック(TM)」の提供を開始したと発表しました。広告運用のうち、入稿(=広告の文章や画像、リンク先、予算を広告システムに登録する作業)やレポート作成といったオペレーション業務を代行するサービスです。全部を代理店に任せるのでも完全に自社で行うのでもない、ハイブリッド・インハウスというモデルです。入稿に関連する業務を27工程に細分化して標準化しており、年間27,000件以上の入稿実績と、入稿正確率99.95%を実績値として掲げています。50名以上の自社専任スタッフが対応し、対応媒体はGoogle、Yahoo!、Microsoft、Meta、LINE、TikTok、X、Criteoの主要8媒体です。自社開発のAIによる自動検知と人によるチェックを組み合わせた多層防御の仕組みで品質を担保するとしています。各媒体との直通の連絡手段を持ち、トラブル時の解決を早める体制もあります。
中小企業への影響
インハウス化(=これまで外部の代理店に任せていた広告運用を、自社の社員で行うようにすること)は企業規模を問わず広がっていますが、中小企業では広告運用の担当が兼務1名というケースが多く、入稿作業の負荷がそのまま施策の停滞につながります。担当者が退職すると広告が止まるという属人化のリスクは、中小企業ほど致命的で、売上に直撃します。単純作業だけを切り出して外に出せれば、少人数でも複数の媒体に出稿できるようになります。運用ノウハウは自社に残したまま作業だけを預ける形なら、代理店に丸投げして費用の相場感を失うリスクも避けられます。入稿正確率のような品質指標が数値で示されることには、外注先を選ぶときの比較軸ができるという効果もあります。ただし、この種のサービスは一定以上の出稿量が前提になりやすく、月額の広告費が小さい会社には割高になる可能性があります。
経営者の視点
最初にやることは、自社の広告運用業務を「戦略を考える仕事」と「手を動かす作業」に紙の上で仕分けすることです。そのうえで担当者に1か月間、作業内容と所要時間を記録してもらい、単純作業が何割を占めるかを把握してください。あわせて、広告運用のマニュアルと媒体アカウントの管理権限を、担当者以外も見られる場所に集約し、属人化を解消します。外注を検討する場合は、入稿正確率、対応媒体、対応スピードを比較項目にして複数社から見積もりを取ってください。広告アカウントの所有権は必ず自社に置くことを社内ルールにしてください。契約が終わったときにデータやノウハウを持ち出せなくなる事態を防げます。なお、記事の実績数値は自社発表であり第三者の検証を経たものではない点、料金体系の記載がない点にも留意が必要です。作業を外に出した結果、社内に実務スキルが育たず別の依存に置き換わる可能性も想定しておきましょう。
参考リンク
エキサイトニュース(PR TIMES/株式会社オプト):オプト、インハウス化時代の新たな広告運用モデル「アド・インフラパック(TM)」の提供を開始
3. EC現場の実態。担当者の8割「ノンコア業務のために実施したかった施策や顧客対応を諦めた」
概要
ネットショップ担当者フォーラムが2026年8月7日に公開した調査記事です。調査主体はEC Intelligenceを開発するシナブルで、EC・D2C事業者の顧客データ分析と業務リソースを調べたものです。2026年7月1日から3日にインターネットで実施され、有効回答は1,006人でした。ノンコア業務(=売上に直接つながらないけれど、誰かがやらないと回らない裏方の作業)が理由で、実施したかった施策や顧客対応を諦めた経験がある人は81.6%にのぼります。業務時間の4割以上をデータ前処理(=バラバラの形式で集まった数字を、使える形にそろえる下準備)に費やしている人は68.8%でした。ツールの課題は、管理画面が複雑が37.0%、専門知識の不足が35.6%でした。データが手元に届くまでの時間は翌日程度が35.5%、2〜3日が29.5%で、即時は17.3%にとどまります。諦めた施策の内訳はUI/UX改善が51.5%、パーソナライズ配信が45.0%、キャンペーン企画が32.6%でした。
中小企業への影響
中小のEC事業者は担当者数が少なく、1人が受注処理、データ整理、販促を兼務しています。ノンコア業務の圧迫は、そのまま売上機会の損失になります。表計算ソフトでの手作業集計に頼っている会社ほど、担当者が休むと数字が出せなくなります。データが翌日以降にしか出ない状態では、セール期間中の在庫や広告予算の調整が間に合いません。ただし、扱うデータ量が小さい中小企業ほど、シンプルなツールや自動連携で前処理をほぼゼロにできる余地は大きいと言えます。高機能な顧客データ基盤を導入するより、ノーコード(=プログラムを書かずに画面の操作だけで設定できること)で扱える軽いツールを選ぶほうが、投資の回収は早いかもしれません。外部ベンダーの活用を検討する企業が38.8%あり、少人数体制でも外の力で施策を回す選択肢は一般化しつつあります。
経営者の視点
担当者に、やりたかったのに諦めた施策を3つ書き出してもらってください。そのうえで、理由が時間なのかスキルなのかを切り分けます。次に、データ集計にかかっている時間を5営業日分だけ記録し、全業務時間に占める割合を出します。毎月手作業で作っている定例レポートを1つ選び、自動化できないかベンダーに相談するのも早い一手です。注文データ、顧客データ、広告データのうち、どれとどれをつなげれば判断が早くなるかを1つに絞って着手してください。新しいツールを検討する際は、管理画面を担当者自身が触って操作できるかを無料トライアルで必ず試します。なお、この調査はツール提供企業が実施したもので、自社サービスの必要性を裏づける方向にバイアスがかかる可能性があります。ツールを入れても運用する人がいなければ、課題は複雑な管理画面に置き換わるだけです。顧客情報を扱う以上、取得の同意と保管ルールの整備も前提になります。
参考リンク
ネットショップ担当者フォーラム:EC現場の実態。担当者の8割「ノンコア業務のために実施したかった施策や顧客対応を諦めた」
4. 広告運用の自動化支援AIエージェント「Advertising Flow」が「ChatGPT」の広告に対応
概要
Web担当者Forumが2026年8月10日に掲載した記事です。Hakuhodo DY ONEと博報堂テクノロジーズが、広告運用の自動化を支援するAIエージェント(=人の代わりに状況を見て、次にやるべきことを考えて教えてくれるAIの仕組み)「Advertising Flow」について、ChatGPT広告への対応を2026年8月7日に発表しました。ChatGPTの広告は2026年6月に日本で開始されています。今回追加された機能は2つです。1つはAIによる自動モニタリング機能で、ChatGPT広告の配信実績をAIが自動で分析し、案件単位で状況を通知します。通知の内容は、予算の進捗、着地見込み(=このペースで進むと月末に予算がいくら使われるかの予測)、早期停止の兆候などです。もう1つは入札(=広告を表示してもらうために1クリックいくらまで払うかを決める競り)の自動化機能で、分析結果に基づいてAIが推奨されるアクションを提示します。最終的な判断は人が担う設計で、記事に価格や導入社数の記載はありません。
中小企業への影響
ChatGPT広告という新しい集客の入口が日本でも本格化し、中小企業にとっても選択肢が増えました。検索広告で大手に競り負けていた会社にとって、参入者がまだ少ない初期段階は、相対的に取りやすい枠になる可能性があります。一方で運用のノウハウは業界全体に蓄積されておらず、いきなり大きな予算を入れると失敗しやすい状況です。AIが予算の進捗や着地見込みを通知する仕組みは、毎日管理画面を見る余裕のない少人数の会社と相性が良いと言えます。予算を使い切ってしまった、途中で配信が止まっていたといった典型的な事故を減らせるためです。こうした支援サービスは大手代理店の提供が中心で、小規模な予算では利用条件に届かない可能性がある点も押さえておきたいところです。
経営者の視点
いますぐ出稿するかを考える前に、自社のお客様がAIに相談する場面があるかを担当者と話し合ってください。試すのであれば、月に数万円など上限を決めた小さな予算から始め、3か月は学習期間と割り切るのが現実的です。広告の予算進捗と着地見込みは、頻度を落としてもよいので必ず確認する運用ルールを決めてください。いま使っている広告媒体で成果が出ているかを先に確認し、新しい媒体はあくまで追加であって乗り換えではないと社内で整理しておくことも大切です。自社サイトのサービス説明、価格、対応エリアなどの情報を、AIが読み取りやすい形に整えておく準備も効いてきます。そして、AIの推奨アクションをそのまま自動で実行しないことです。想定外の入札上昇や予算の超過を招く可能性があるため、最終判断は必ず社内の誰かが行うルールにしてください。AI経由の流入は従来の計測ツールで正確に追えない場合があり、効果測定の前提も確認が必要です。
参考リンク
Web担当者Forum:広告運用の自動化支援AIエージェント「Advertising Flow」が「ChatGPT」の広告に対応
5. キヤノンMJグループが「SCS評価制度」対応サービス拡充、評価取得から運用・改善まで支援
概要
Web担当者Forumが2026年8月10日に掲載した記事です。キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)グループが、SCS評価制度への対応を支援するサービスを拡充すると2026年8月7日に発表しました。SCS評価制度の正式名称は「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」で、会社のセキュリティ対策がどれくらいできているかを国の基準で評価し、見えるようにする仕組みです。推進しているのは経済産業省と内閣官房国家サイバー統括室です。支援の内容は、現状診断、計画策定、実装支援、申請・更新支援の4段階です。加えて、情報セキュリティのルール整備と、従業員向けの教育・訓練も提供されます。窓口は企業規模で分かれ、大手・中堅はキヤノンITソリューションズ、中小企業はキヤノンシステムアンドサポートが担当します。評価の取得だけで終わらせず、その後の運用や改善までを継続して支援する体制としています。
中小企業への影響
サプライチェーン(=原材料の調達から製造・販売までの、取引先の連なり全体)を狙う攻撃は、防御の手薄な中小の取引先を踏み台にする手口が中心です。そのため、大手企業のサプライヤーである中小企業は、取引を続ける条件としてセキュリティ評価の取得を求められる可能性が高まります。評価を持っていること自体が、新規の取引獲得や競合との差別化の材料にもなりえます。逆に対応が遅れれば、既存の取引を失うリスクが現実的な経営課題になります。社内にIT担当がいない会社でも、中小企業専用の窓口を通じて相談できる体制が用意されています。ルールの整備と従業員教育は、評価制度と関係なく情報漏えい事故の予防そのものに効くため、取り組む価値は制度対応だけにとどまりません。マーケティング部門も顧客の個人情報を扱うため、無関係な話ではなく、自部門の運用を見直す必要があります。
経営者の視点
まず、主要な取引先に、今後セキュリティ評価の取得を求める予定があるかを営業経由で確認してください。並行して、自社が保有している顧客情報や取引先情報が、どのパソコンやクラウドに入っているかを一覧にします。パスワードの使い回し、私物端末での業務利用、退職者アカウントの放置がないかも点検してください。情報の取り扱いルールは1枚の紙にまとめ、全従業員に配って周知します。不審メールへの対応訓練は、年1回でよいので実施してください。マーケティングで使う顧客リストやツールについても、担当者ごとにアクセス権限を棚卸しします。支援サービスを検討する場合は、診断、整備、教育それぞれの費用と、取得後の維持費用を分けて見積もってください。注意したいのは、取得を外部に丸投げすると書類は整っても現場の運用が伴わず、実際の事故を防げない点です。制度対応は一度取れば終わりではなく、継続的な維持と更新が前提である点も見込んでおきましょう。
参考リンク
Web担当者Forum:キヤノンMJグループが「SCS評価制度」対応サービス拡充、評価取得から運用・改善まで支援
まとめ
今回の5本には、共通する1本の線があります。それは「限られた人手と時間を、どこに使うか」という問いです。1本目は、売上に響く指標で報告しないと投資判断ができないという話でした。2本目と3本目は、担当者の時間が入稿やデータ整理といった裏方の作業に消えている実態です。4本目は、新しい広告の入口をAIの監視で低コストに試す方法、5本目は、取引を続けるために避けて通れなくなりつつあるセキュリティ対応です。いずれも、まず記録することから始められます。作業時間を測る、諦めた施策を書き出す、入稿ミスの件数を残す、顧客情報の置き場所を一覧にする。どれも費用はかかりません。数字が見えて初めて、外に出す作業と社内に残す判断の線引きができます。少人数の会社ほど、この線引きが成果を分けます。

