2026年8月12日から8月18日までに公開されたマーケティング関連のニュースから、5本を取り上げます。大手小売の決算とブランド戦略、顧客サポートの調査結果、若年層に広がる新しいSNS、広告への人物起用の調査まで話題は幅広いのですが、いずれも中小企業の日々の判断に置き換えられる内容です。各ニュースは「概要」「中小企業への影響」「経営者の視点」の3つに分けて整理しました。気になるものから読み進めてください。
1. 中国客頼みから脱却したドンキ、免税売上が過去最高 新業態「ロビン・フッド」は5店から最大300店へ
概要
ドン・キホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の2026年6月期は、売上高2兆4452億円(前期比8.8%増)、営業利益1748億円(同7.7%増)、純利益1100億円(同21.6%増)の増収増益でした。うち国内事業が売上高2兆681億円、営業利益1658億円を占め、稼ぎ頭が国内であることが数字で示されています。免税売上は過去最高を更新しましたが、けん引したのは中国人客の大量購入ではなく国内既存店の客数増加でした。新業態「ロビン・フッド」は2026年4月に1号店を開業し、6月末で5店舗。2035年までに200〜300店舗規模へ広げる計画です。ユニーの生鮮調達力とドン・キホーテの非食品の商品編集力、「驚安」の価格訴求を掛け合わせた食品強化型の業態と説明されています。2026年7月1日付でオリンピックグループを完全子会社化し、その店舗網を出店基盤に使う方針も示しました。
中小企業への影響
この決算が示すのは、変動の大きい売上を主役に据えず、安定した日常の売上で土台をつくるという優先順位です。特定の大口取引先や特定の客層に売上の大半を頼っている会社ほど、この視点が効きます。まず上位1社、上位3社で売上の何%を占めるかを出すだけでも、打ち手の順番は変わります。「一番おいしい売上」と「一番安定している売上」は別物である場合が多く、安定側を土台に置き、変動の大きい売上は上乗せとして扱う設計に切り替えられます。既存の店舗や設備を新しい売り方に転換する手法も中小規模で応用でき、新しく借りるより費用を抑えつつ、いまの立地と常連のお客様を活かせます。物価高が続く局面では価格に敏感なお客様が明確に動くため、安さで勝負できないなら「その価格である理由」を言葉にしておかないと選ばれにくくなります。
経営者の視点
今月中に、直近12カ月の売上を顧客区分(大口と小口、法人と個人、国内と海外、リピートと新規)で分解し、構成比と前年比を1枚にまとめてください。依存度が見えないと手が打てません。上位3社の合計が50%を超えるなら経営リスクとして明記し、次の期の目標に「依存度を◯ポイント下げる」を入れます。単発の大型案件や流行商材のような変動の大きい売上は業績目標から切り離し、固定費は安定売上だけでまかなえる状態を目指します。あわせて、使いきれていない店舗・倉庫・時間帯・設備を棚卸しし、そのまま転用できないか3案考えます。ただし依存からの脱却は数年がかりで、途中で売上が一時的に落ちる局面があります。単年の減収を失敗と誤認しない説明を、社内と取引先に先に用意しておいてください。
参考リンク
AdverTimes.(アドタイ):中国客頼みから脱却したドンキ、免税売上が過去最高 新業態「ロビン・フッド」は5店から最大300店へ
2. 「目の付けどころが、シャープでしょ。」のDNAは死なず 経営危機から約10年、”シャープらしさ”を加速させる「デザイン先行型」の戦略とは
概要
シャープは2025年12月、商品デザインを担う「総合デザインセンター」をブランド戦略本部の下に組み入れる組織再編を実施しました。デザイン機能を経営に近い位置へ移す狙いです。2026年8月17日からは東京・千代田で「シャープデザインのまなざし展」を開き、自社のデザイン思想を社外へ発信し始めています。同社は2011年ごろからテレビ需要の減少と価格競争で業績が悪化し、2016年に台湾・鴻海精密工業の傘下に入りました。この時期はデザイン部門の挑戦的な活動が一時的に減っていたと記事は指摘しています。2024年に沖津雅浩氏が社長CEOに就任し、2026年4月に河村哲治氏へ引き継がれた改革の流れの中に今回の戦略があります。「デザイン先行型」の中身は、若手デザイナーの提案を起点に商品開発を進める仕組みです。使ったときの気持ちよさという情緒的価値の発信も進め、1990年代からの「目の付けどころが、シャープでしょ。」をブランドDNAとして置き直そうとしています。
中小企業への影響
核心は、組織図のどこにデザインを置くかがブランド戦略を決めるという点です。開発の下流に置けば見た目の仕上げ役になり、経営の近くに置けば何を作るかを決める側になります。中小企業では、デザインや企画の担当者が「言われたものを作る係」になっていないかという問いに置き換わります。規模が小さい会社ほど、担当者を意思決定の場に呼ぶだけで企画の質が変わります。あわせて、自社に「らしさ」を判断する共通の言葉があるかも問われます。良し悪しを社長の感覚だけで決めている会社は、社長がいない場面で判断が止まります。昔のキャッチコピーや創業時の理念が、いまも通用する資産として残っている場合もあり、作り直すより掘り起こすほうが早く済みます。「使ったときの気持ち」を語る発信は、写真や短い動画、店頭の一言でも伝わり、低コストで実行できます。
経営者の視点
まず自社の「らしさ」を1文で書き出し、同じ問いを幹部と担当者にも投げて回答を集めてください。ずれの大きさが、共通言語の不足度合いを示します。次に、過去のキャッチコピー、創業理念、初期のパンフレットを今月中に掘り起こし、いまも使えるフレーズを棚卸しします。デザインや企画の担当者は月1回の経営会議に同席させます。決定の場にいるかどうかで案の射程が変わるためです。若手からの提案を受ける枠も月1回設け、採否と理由を必ず本人に返します。返答がないと提案は2回目で止まります。商品の紹介文は「何ができるか」から「使うとどんな気持ちになるか」へ書き換え、主要3商品で試して反応を1カ月で測ります。注意点は、組織図を変えただけで満足すると形骸化することです。情緒的価値は測りにくいため、何をもって成功とするかの指標を先に決めておいてください。
参考リンク
AdverTimes.(アドタイ):「目の付けどころが、シャープでしょ。」のDNAは死なず 経営危機から約10年、”シャープらしさ”を加速させる「デザイン先行型」の戦略とは
3. 企業のデジタルサポート評価、ヤマト運輸が首位! JALは32位→4位に大躍進【トライベック調べ】
概要
トライベック・ブランド戦略研究所が「顧客サポート調査2026」の結果を公表しました。調査期間は2026年5月29日から6月29日、インターネットアンケート方式で有効回答は9,978人です。過去1年以内に対象企業のデジタルメディアまたはコールセンターを利用した20歳から69歳が対象で、23分野・123の企業やサービスを調べています。評価対象は公式サイト、公式アプリ、LINE公式アカウントに加えてコールセンターまで含む点が特徴です。デジタルサポート評価指数の1位はヤマト運輸(前年2位)、2位は第一三共ヘルスケア(前年10位)、3位は任天堂(前年1位)でした。4位のJALは前年32位からの躍進で、JMBアプリとJALアプリを刷新し、利用者の状況に応じた情報提供を行った点が評価されたと説明されています。「問題解決率」ではヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の宅配3社がトップ3を独占。受取日時の変更や再配達、集荷依頼がデジタル上で完結する点が理由とされています。「有用度」では第一三共ヘルスケアが首位でした。
中小企業への影響
評価が高い企業に共通するのは、お客様が自分で完結できる手続きがデジタル上に用意されている点です。情報を見せるだけでなく、その場で操作を終えられるかが分かれ目になっています。中小企業に来る問い合わせも、たいてい上位5種類で全体の大半を占めます。その5種類を自己解決できる形にするだけで、電話やメール対応の負担は目に見えて減ります。対応が特定の社員に集中し、その人が休むと業務が止まる会社も多いため、よくある質問の整理は属人化の解消策としても効きます。LINE公式アカウントは低コストで導入でき、この調査でも正式な評価対象です。「電話がつながらない」「返事が遅い」は、商品や価格に関係なく離反の理由になります。予約変更や見積依頼など電話でしか受けていない手続きをWeb化すれば、営業時間外の受付ができて機会損失も減ります。
経営者の視点
直近3カ月の問い合わせを内容別に集計し、件数の多い順に並べてください。集計がなければ今月から記録を始めます。上位5種類それぞれについて、答えを自社サイトの分かりやすい場所に1ページずつ用意します。長い文章ではなく、手順を番号で示す形が向いています。電話でしか受け付けていない手続きを1つ選び、Webフォームかネット予約に置き換えて効果を測ります。LINE公式アカウントを開設し、よくある質問への自動応答をまず5件だけ設定するのも有効です。サイトは「購入前の人」「購入後の人」「困っている人」の3つの入口に分け、最初に見るべき情報を出し分けます。毎月、問い合わせ件数と1件あたりの対応時間を記録し、前後で比較してください。ただしデジタル化を進めすぎて電話窓口を絞ると、デジタルが苦手な層を切り捨てることになる点には注意が要ります。
参考リンク
Web担当者Forum:企業のデジタルサポート評価、ヤマト運輸が首位! JALは32位→4位に大躍進【トライベック調べ】
4. Z世代の新SNS「Setlog(セットログ)」 学生の9割が認知! 直近3カ月で利用急拡大【学割アプリ調べ】
概要
パレンテが運営する「学割アプリ」が学生向け調査を実施しました。調査期間は2026年7月14日から7月28日、有効回答は479名です。内訳は大学生223人、高校生183人、専門学校生36人、中学生27人、短大生10人で、女性414人、男性56人、その他9人となっています。韓国発の動画日記アプリ「Setlog(セットログ)」は、1時間ごとに2秒の動画を撮影し、1日の記録を短いVlogとしてまとめて友達と共有できるサービスです。認知率は91.4%、利用率は合計73.7%に達しました。利用頻度は「1日に数回」が62.1%で、毎日複数回使う層が78.6%を占めます。利用開始は「2〜3カ月前」が64.3%、「1カ月以内」が28.8%と、直近3カ月以内に始めた人が93.1%です。きっかけは「友達の誘い」が70.9%と圧倒的でした。つながる相手は「学校の親しい友達」が75.9%で、「自分だけの記録用」は4.7%。一方で今後は「一時的なブームで終わる」が51.0%と、利用者自身が定着を確信していません。
中小企業への影響
新しいSNSが出るたびに参入するのは、中小企業には負担の大きい選択です。今回のように利用者の半数が「一時的なブームで終わる」と見ているサービスは、様子見が合理的な判断になります。有効回答479名のうち女性が414名と偏りも大きく、学生全体の傾向としてそのまま一般化すると判断を誤ります。一方で、お客様が10代から20代であれば、社員や店舗スタッフが実際に使って肌感覚を持つこと自体には価値があります。導入判断より先に理解が要るという順番です。また「友達の誘い」で広がる構造は自社商品にも当てはまり、紹介特典や友達と一緒に使える設計は業種を問わず効きます。若年層向けの商材では、「毎日使ってもらう」より「無理なく続けられる」設計のほうが支持されるという示唆も得られます。負担感のある会員制度やスタンプカードは見直しの対象です。
経営者の視点
まず自社の主要顧客の年齢層を確認し、10代から20代が中心でなければ、この種の新しいSNSへの参入は当面見送ると決めてしまってください。判断を先に済ませれば迷う時間が減ります。若年層が顧客なら、20代の社員やアルバイトに実際に使ってもらい、「何が楽しいのか」を15分でヒアリングします。目的は導入判断ではなく理解です。運用中のSNSアカウントごとに、フォロワー数ではなく問い合わせ・来店・購入につながった数を3カ月分集計し、成果の出ていないアカウントを1つ止めます。紹介が起きる仕組みも1つ作ります。友達と一緒に来店すると特典がある、紹介した側にも還元される、といった形です。あわせて、新しいSNSが話題になったときの判断基準(例:自社の顧客層の利用率が5割を超え、かつ半年以上継続したら検討)を先に決めておくと、都度悩まずに済みます。
参考リンク
Web担当者Forum:Z世代の新SNS「Setlog(セットログ)」 学生の9割が認知! 直近3カ月で利用急拡大【学割アプリ調べ】
5. 総合1位は大谷翔平 「かっこいい」は中村敬斗 「華やか」は三浦璃来 CM起用で見えるアスリートの”総合力”と”個性”
概要
博報堂と博報堂スポーツマーケティングが「アスリートイメージ評価調査」2026年6月調査の結果を公表しました。調査は2026年6月26日から29日に実施し、結果発表は8月6日です。対象は首都圏・京阪神圏の15歳から69歳の男女600人で、認知度と好意度に加えて29項目のイメージで評価する設計です。総合ランキングは1位・大谷翔平、2位・井上尚弥、3位・長友佑都、4位・三笘薫、5位・小田凱人でした。フィギュアスケートの三浦璃来が6位、木原龍一が8位と、ペア競技の2人がそろって上位に入っています。項目別では「かっこいい」で中村敬斗、「華やかな」で三浦璃来が1位。大谷翔平は「爽やかな」「存在感がある」など複数項目で1位を占め、「リーダーシップがある」では森保一監督が1位でした。博報堂は、競技のイメージと重なる「相乗」と、その選手だけが持つ「固有」を区別する枠組みを示しています。活用例には、伊藤園が大谷翔平を起用し、2025年シーズンの成績をパッケージとCMに反映した事例が挙げられました。
中小企業への影響
起用判断で見るべきは「有名かどうか」ではなく「借りたいイメージを持っているか」です。総合1位が全項目で1位ではなく、「かっこいい」は中村敬斗、「華やかな」は三浦璃来と分散している点がそれを示しています。目的が違えば最適な人選も変わるということです。この考え方は、地域のスポーツ選手や地元の有名人、自社の従業員を起用する場合にもそのまま応用できます。全国区のタレントは費用が高くても、地域で活動する選手やチームなら現実的な金額で協賛や起用ができる場合があります。前提として、顧客に伝えたいイメージを1語に絞る作業自体に価値があります。それが決まらないと、誰を起用しても効果が散ります。起用を広告だけで終わらせず、商品パッケージや店頭、イベントまで使い切るほうが費用対効果は上がります。
経営者の視点
まず、自社が顧客に持ってほしいイメージを1語で決めてください(例:安心、丁寧、速い、先進的)。決まるまで起用や広告の話は進めません。次に、その1語に合う人物を、有名人・地域の選手・自社スタッフの3階層でそれぞれ2名ずつ挙げ、費用とリスクを並べて比較します。地元のスポーツチームや選手の協賛メニューと金額を問い合わせるのも早い一手で、想像より安い枠がある場合が多いところです。起用が決まったら、広告以外の使い道(パッケージ、店頭、名刺、イベント、SNS)を最低3つ書き出し、契約期間中に使い切る計画を作ります。有名人を使わない場合は、社長や現場スタッフを主役にした紹介コンテンツを3本作ります。契約前には、不祥事などで起用を停止する場合の条件、費用負担、広告物の差し替え手順を書面で確認してください。効果を測る指標も先に決めておきます。
参考リンク
AdverTimes.(アドタイ):総合1位は大谷翔平 「かっこいい」は中村敬斗 「華やか」は三浦璃来 CM起用で見えるアスリートの”総合力”と”個性”
まとめ
今回の5本には、共通する筋が1本通っています。外から来る追い風や話題に頼らず、自社の中にある資産と、いま目の前にいるお客様で土台を作るという考え方です。PPIHは免税売上が最高でも国内の日常客を主役に据え、シャープは過去の言葉と若手の提案という手元の資産を掘り起こしました。顧客サポートの調査は、新規獲得より問い合わせ対応の改善が売上を守ることを示し、新しいSNSの数字は、話題性だけで動くことの危うさを教えてくれます。アスリート起用の調査も、知名度ではなく伝えたい価値との一致が出発点だと語っています。まずは自社の売上構成を1枚にまとめる、問い合わせの多い5種類を書き出す、伝えたいイメージを1語に絞る。どれも今月中に手を付けられる作業です。小さく始めて、数字で確かめながら続けていきましょう。

