DXニュースまとめ(2026-08-21〜2026-08-27)

2026年8月21日から8月27日に公開されたDX関連のニュースから、中小企業の経営に関わりの深い5本を取り上げます。国の調達方針が変わる話、自治体の実態が無料で見えるようになった話、従業員約80人の町工場が生産性を24%高めた話、大企業がAIをどの順番で広げたかという話、そして原料の量が決まっている中で利益を最大にする話です。いずれも規模の大小に関係なく、考え方だけを取り出して自社に当てはめられる内容になっています。数字や日付、注意すべき点もあわせて整理しました。

目次

1. デジタル庁、アジャイル開発・オープンソース化の有識者検討会 最終報告書を公開

概要

デジタル庁は2026年8月27日、「情報システム調達におけるアジャイル開発やオープンソース化等に係る有識者検討会」の最終報告書を掲載したページを更新しました。報告書は令和8年3月31日付で、詳細版と概要版の2種類のPDFが公開されています。検討会はアジャイル開発とOSS利活用の2つの会議体で構成され、アジャイル側は令和7年10月から令和8年2月まで全8回、OSS側は令和7年10月から全5回開催されました。報告書には「アジャイル開発採用チェックリスト(案)」と「アジャイル開発採用基準ガイドブック(案)」が盛り込まれ、どの事業でアジャイル開発を使うべきかを判断する物差しが示されました。令和8年度に1件以上のパイロット事業を実施し、知見を蓄積してから段階的に広げる方針です。OSSを扱う専門組織OSPOの設置やアジャイルCoEの組成も提言されています。

中小企業への影響

調達改革の5本柱の1つに「中小・スタートアップ企業の参入機会拡大」が明記されています。これまで大手SIerが取りやすかった官公庁案件に、中小企業が入り込む余地が広がる方向です。報告書ではアジャイル開発の実績を持つ企業をまとめた「ベンダープール」の作成・運用も提言されており、ここに登録できるかどうかが今後の公共案件の入口になる可能性があります。IT企業でない中小企業にとっても、行政システムがOSS化・標準化されれば、電子申請や行政手続きまわりの対応コストは下がる方向に働きます。国がOSS活用を正式に後押しした事実は、「無料のソフトは不安だ」という社内の抵抗を崩す材料にもなります。地方自治体の調達は国の方針に追随する傾向が強いため、地元自治体と取引のある企業には少し遅れて同じ流れが届くと見ておくとよいでしょう。逆に、ウォーターフォール開発(最初に仕様を全部固める進め方)前提の見積もりと契約しか用意していない受託企業は、公共案件で不利になるおそれがあります。

経営者の視点

まずは概要版PDFを社内で読み合わせることから始めます。分量が多いため、経営層は概要版、実務担当は詳細版という分担が現実的です。官公庁・自治体の案件を持つ企業なら、アジャイル開発の実績を案件名・期間・体制・成果の形で1枚にまとめておくと、そのままベンダープール登録の準備になります。あわせて自社が使っているOSSの一覧(ソフト名・バージョン・ライセンス・使用システム)を作り、ライセンス確認の最終判断をする責任者を1人決めてください。専門組織まで作らなくても、誰が決めるかを明確にするだけでリスクは大きく下がります。ただしこれは検討会の報告書であり、法令として確定したものではありません。パイロット事業も令和8年度に1件以上という規模感で、公共案件が一斉に変わるわけではない点は、社内説明で誤解のないようにしたいところです。報告書自身がアジャイル経験者の確保を極めて重要と明記しており、人がいないまま形だけ導入するのは危険です。

参考リンク

デジタル庁:情報システム調達におけるアジャイル開発やオープンソース化等に係る有識者検討会の最終報告書を掲載しました

2. デジタル庁、地方自治体の事務の共同処理に関するダッシュボードを開設

概要

デジタル庁は2026年8月26日、「地方自治体の事務の共同処理に関するダッシュボード」を開設し、データを更新しました。約50,000件の自治体事務を分類し、全国の共同処理の実施状況を誰でも見える形にしたものです。事務は大分類8・中分類32・小分類179の階層で整理され、どの分野の事務が共同処理されやすいかを構造的に確認できます。共同処理の方式は7類型に整理されており、法人を作らない5方式(連携協約、協議会、機関等の共同設置、事務の委託、事務の代替執行)と、法人を作る2方式(一部事務組合、広域連合)に分かれます。機能は事務分類別の実施状況表示、全国比較、他団体との比較、処理方式別の内訳表示、都道府県地図による可視化、事務一覧検索です。データの出典は総務省の「地方公共団体の事務の共同処理の状況調」、地図は国土数値情報の行政区域データを使用しています。更新は四半期ごとで、構造化データのテーブルとしても公開されています。

中小企業への影響

自治体を顧客に持つ中小企業にとって、営業先の実態を無料で調べられる新しい情報源になります。どの自治体がどの事務を共同処理しているかによって、提案の切り口は変わります。共同処理が進むと、発注の単位が1市町村から複数自治体まとめてに変わり、案件の規模は大きくなる一方で入札の窓口は減ります。早く動いた企業ほど有利になる構造です。一部事務組合や広域連合が発注主体になる場合、契約先の名称が市町村名ではなくなるため、営業リストを組合・連合まで含めて作り直す必要があります。一方でチャンスもあります。共同処理の立ち上げ時には業務フローの統一やシステム統合の実務支援が必ず必要になり、中小の業務コンサルやIT企業が入り込む余地が生まれます。構造化データが公開されているので、自社で加工して「共同処理が進んでいない事務」を洗い出し、提案営業に使うこともできます。

経営者の視点

まずは自社の営業エリアの自治体をダッシュボードで検索し、共同処理の実施状況と方式を確認するところからです。費用はかからず、今日から始められます。自治体向けの商材があるなら、まだ共同処理されていない事務をリストにして、そこを共同化する提案として持ち込めないか検討してください。既存の取引先が一部事務組合や広域連合に事務を移した場合は、契約の継続性を早めに確認します。担当窓口が変わると、知らないうちに競合へ切り替わることがあるためです。更新は四半期ごとなので、年4回チェックする担当者を決めて定点観測にすると、変化を早く掴めます。ただしデータは総務省の調査に基づく過去の実態であり、直近の動きは反映されていない可能性があります。正誤情報のページも用意されているため、重要な判断に使う前に確認してください。自治体の意思決定は議会の議決を伴うことが多く、半年から数年の時間軸で見る必要があります。

参考リンク

デジタル庁:地方自治体の事務の共同処理に関するダッシュボードを開設しました

3. 「生産性24%アップ」を実現した自動車部品メーカーのDX推進

概要

愛知県小牧市の自動車部品メーカー「オーテック」が、労働生産性を24%高めました。1959年創業、従業員約80人の中小企業で、エンジン・排気系などの部品を手がけています。生産性の向上は2023年から2026年にかけての成果で、事務作業全体は2019年比で27%削減されました(2023年時点)。受注処理業務は1日あたり約90分かかっていたものが30分以内に短縮され、担当者が実際に手を動かす時間は数秒程度になったといいます。中心にあるのは社内で開発した内製ツール「AutoMatu(おとまつ)くん」で、データ収集と資料作成の自動化を担います。設備の稼働状況をリアルタイムで見るIoTシステム「iXacs」も導入し、全工程のセンサーデータを集めています。DX前はExcel・PDF・FAXが混在した状態でデータを管理し、1件ずつ人が突き合わせていました。推進の中心は、元アマゾンジャパン勤務で2024年8月に入社した経営企画課長の小川広佑氏です。

中小企業への影響

従業員約80人という規模で生産性24%増が実現できた事実は、「うちは小さいからDXは無理」という言い訳を崩します。高価なパッケージシステムではなく、生成AIを使った内製ツールで成果を出している点も重要です。初期投資が小さく、同規模の企業がそのまま真似できます。生成AI活用の研修はTENHOと組んで約6カ月実施され、参加者16人(管理・事務系9人、現場リーダー7人)が全員チャットボットやツールを自作し、うち5つが現在も実運用されています。主力ツールの開発者は、工業高校卒業後10年間現場一筋だった社員でした。つまりIT人材を新規に採用しなくても、今いる社員に道具を渡せば戦力になり得るということです。Excel・PDF・FAXが混在する業務は多くの中小企業に共通しており、自社にも同じ構造の無駄が眠っている可能性が高いといえます。事務作業27%削減という数字は、そのまま人手不足への対策にもなります。

経営者の視点

まず自社の事務作業のうち、毎日発生して90分以上かかっているものを1つ特定します。次に、その業務の担当者本人に生成AIの研修を受けさせます。外部に委託するより、現場を知る人に道具を渡す方が定着します。研修は6カ月程度、10〜20人規模で予算を組むのが目安です。作ったツールの多くは使われなくなる前提で始めてください。16個作って5個残ったという歩留まりを、経営層が最初から受け入れておくことが大切です。効果測定の指標も先に決めます。オーテックは労働生産性(付加価値額÷従業員数)と事務作業時間の削減率を使いました。ただし24%は労働生産性の伸びであり、売上や利益が24%増えたわけではありません。比較期間も指標ごとに異なるため、引用するときは期間とセットで示してください。内製ツールには、作った本人しか中身が分からなくなる属人化のリスクもあります。

参考リンク

ITmedia ビジネスオンライン:「生産性24%アップ」実現した、自動車部品メーカーのDX推進

4. アフラック生命保険、顧客の声から「なぜ」を解き明かし顧客接点を再創造

概要

アフラック生命保険の執行役員・松尾栄一氏が、2026年6月19日開催の「CX Day 2026」で語った内容をまとめた記事です。同社の顧客基盤は契約者数1,381万人、保有契約件数2,218万件で国内トップクラスにあります。VoC(顧客の声)の管理は2010年に導入した苦情対応マネジメントシステムが土台で、国際規格ISO 10002に準拠しています。2025年に寄せられた声は、苦情が5万4,000件超、相談・要望が約10万件、感謝の声が1万件超でした。2026年4月からはVoCの分類にAIを本格導入しています。組織面の特徴は「デジタル部門」が存在しないことで、IT部門と契約部・保全部・保険金部などのバックオフィスを一体化した「ITデジタルオペレーション部門」として運営しています。AI導入は2023年に社内向け、2024年に代理店向け、2025年から顧客向けと3段階で広げてきました。同社は2026年を「AX元年」と位置づけています。

中小企業への影響

最も真似しやすいのは「AIを社内→パートナー→顧客の順で広げる」という段階の切り方です。いきなり顧客向けに出さない設計は、リスクも予算も抑えられます。「デジタル部門を作らない」という発想も中小企業と相性がよく、専任のDX部署を置く余裕がなくても、既存の業務部門にデジタルの役割を溶かし込めばよいという実例になります。VoCの起点は、全役職員が顧客の声をデータベースに登録するというシンプルな運用です。高価なツールが必須なわけではなく、共有スプレッドシート1枚からでも始められます。そして「顧客に電話をかけさせずに済む」という目標設定は、少人数で電話対応に追われている企業にこそ効きます。問い合わせの削減は、そのまま人件費の削減につながるからです。苦情を処理するものではなく商品改善の材料として扱う発想の転換も、費用をかけずに今日から始められます。

経営者の視点

まず自社に届く問い合わせや苦情を1カ所に集める仕組みを作り、登録を任意ではなく必須にします。アフラックが全役職員に登録を義務づけている点が、データが集まる最大の理由です。次に問い合わせの多い上位5項目を出し、「そもそもなぜ聞かれるのか」を1つずつ潰します。よくある質問への回答を増やすのではなく、聞かれない状態を作るのが狙いです。AI利用のルールはA4一枚にまとめてください。何を入力してよいか、著作権をどう扱うか、誤答が出たら誰に報告するか。これがないまま使わせるのが一番危険です。ただし同社のAI分類は2026年4月からの導入で、記事でも試行錯誤の段階と明言されています。顧客向けAIも住所変更などの一部本番化にとどまります。完成した成功事例として断定的に語るのは正確ではありません。松尾氏自身も「AIを入れればいいわけではない」と繰り返し強調しています。

参考リンク

DIGITAL X:アフラック生命保険、VoCから顧客の「なぜ」を解き明かし顧客接点を再創造

5. カルビーが挑むジャガイモ収量の限界、自社開発AIでサプライチェーン最適化

概要

カルビーが自社開発した「C-BOSS(Calbee Business Optimization Simulation System)」が、2026年7月に本格稼働しました。営業・生産・物流・調達のデータを横断的に統合し、バリューチェーン全体の収益性を可視化してシミュレーションする仕組みです。背景には原料の制約があります。国産ばれいしょの約8割が北海道産で、秋に収穫して翌年5月まで保管して使うため、その年に収穫できた量以上は製造できません。猛暑や日照不足といった気候変動の影響を直接受ける原料です。さらに扱うSKU(商品の種類)は1,000を超え、在庫の保有基準は「製造から9日以内」と極めて厳しい設定になっています。推進部門は「DX・S&OP本部」で、2023年にS&OP推進チームを立ち上げてから約3年かけて稼働に至りました。開発は当初パッケージソフトを検討したものの不採用とし、自社で要件を確定させたうえでパートナー企業に発注する共同開発の形をとっています。

中小企業への影響

原材料の量を自社でコントロールできない業種、たとえば食品、飲食、農産物加工、水産加工などの中小企業には、構造がそのまま重なります。「取れる分しか作れない」制約の下では、需要予測の精度を上げるより、限られた原料をどの商品に配分すると利益が最大になるかを考える方が効きます。この視点は規模を問わずすぐ使えます。部門データの統合も同じです。営業の受注見込みと工場の生産計画を同じ表で見るだけでも、部門ごとの最適化が生む無駄が見つかります。カルビーが一度パッケージソフトを検討して見送っている点も参考になります。まず既製品で足りるかを検証するという順番は中小企業でも同じで、安易な自社開発を避ける教訓です。要件定義を自社で握り、開発だけを外部に出す形なら、社内にIT人材が少なくても取りやすい進め方になります。3年かかったという事実も、期間の見立てを誤らないための参考値です。

経営者の視点

まず自社の事業で「量を自分で決められないもの」を書き出してください。原材料、人手、設備の稼働時間などが該当し、そこが本当のボトルネックになります。次に、営業の受注見込みと生産・仕入れ計画を同じ1枚の表で確認する定例の場を作ります。S&OPも突き詰めれば、これを経営レベルで制度化したものです。在庫の保有基準は日数で決め、超えたものは異常として扱います。基準がないと、在庫が滞留しても誰も気づけません。ただし9日という数字はスナック菓子だからこそ成立するもので、そのまま持ち込んではいけません。取り組みの期間は3年で見積もることをおすすめします。半年から1年で全社の仕組みが変わる前提で予算と評価を組むと、途中で頓挫します。なおC-BOSSは稼働したばかりで成果を示す数値は公表されておらず、効果が実証された事例として語るのは時期尚早です。

参考リンク

MONOist:カルビーが挑むジャガイモ収量の限界――自社開発AIでサプライチェーン最適化

まとめ

今回の5本を貫くのは、「仕組みを買う」より「型を決めて人に道具を渡す」という流れです。国はアジャイル開発とOSS活用の判断基準を文章にし、自治体の実態を誰でも見られるデータとして開きました。企業側では、従業員約80人の町工場が現場社員の内製ツールで成果を出し、大企業は社内から顧客へと順番を守ってAIを広げ、原料の制約を前提に何をどれだけ作るかを解こうとしています。共通するのは、まず現状を数字で見える状態にし、判断の基準を決め、小さく試して残ったものを育てるという順番です。どれも規模に関係なく持ち帰れます。まずは自社で「毎日90分以上かかっている作業」と「顧客から繰り返し聞かれること」を1つずつ書き出すところから始めてみてください。

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