2026年2月6日から2月12日にかけて発表されたDX(デジタルトランスフォーメーション)関連のニュースをまとめました。村田製作所が提唱するBtoBマーケティングの新たな考え方、AIエージェントによる在庫最適化の実績、IPAによるDX注目企業の追加、国の補助金制度の最新情報、そして建設業界向けAIサービスの動向まで、中小企業の経営判断に役立つ情報を厳選してお届けします。
1. 村田製作所が語るAI時代のBtoBマーケティング再設計
概要
村田製作所のITビジネスエンジニアリング統括部デマンドチェーンDX推進部部長である原田良介氏が、生成AI時代におけるBtoBマーケティングの抜本的な見直しについて提言しました。同氏は、生成AIが製品選定に関与する時代が到来したことで、従来の個人単位や法人単位でのターゲティングから、プロジェクト・商談単位への転換が必要だと指摘しています。例えばパソコン開発案件では、村田製作所の複数製品が同時に採用されるケースがあり、1つのプロジェクトに対して複数の商談が同時進行する状況が生まれています。このような環境では、顧客企業内の設計者や購買担当者など複数部門への統一的なアプローチが不可欠となります。同社では現在、オンライン施策とオフライン施策を統合したデジタルプラットフォームの推進を進めています。
中小企業への影響
この動向は中小企業にも大きな示唆を与えています。まず、営業担当者が長年培ってきた暗黙知を可視化・データ化する必要性は、企業規模を問わず発生しています。顧客企業内の組織図を把握し、複数の担当者へアプローチできる体制を構築することが、今後の競争力に直結します。また、デジタル基盤への投資判断は避けられない状況になりつつあり、AI時代にふさわしい情報発信方法を検討しなければ、顧客接点を失うリスクがあります。村田製作所のような大企業の動向を参考にしながら、自社のマーケティング戦略を見直す好機と捉えるべきでしょう。
経営者の視点
経営者として取り組むべきアクションは複数あります。第一に、営業組織が保持するノウハウの棚卸しと可視化への着手です。属人化した情報を組織知に変えることで、担当者の異動や退職による知識流出を防げます。第二に、顧客企業の組織図や意思決定プロセスを把握できる体制の構築が重要です。第三に、デジタルマーケティング部門と営業部門の統合連携を推進し、CRMやSFAツールの導入または活用方法の見直しを検討してください。ただし、複数ステークホルダーの管理は業務負荷を増大させる可能性があり、顧客データ管理におけるセキュリティやプライバシーの課題にも注意が必要です。ABM(Account Based Marketing)とは、特定の企業アカウントを対象に営業・マーケティング活動を最適化する手法であり、この考え方を自社に適した形で取り入れることを検討してみてください。
参考リンク
Japan Innovation Review (JBpress):AI時代、製造業の法人ビジネスはどう変わるのか? 村田製作所のDX推進リーダーが語るBtoBマーケティングの再設計
2. AIエージェント導入で4カ月300万円の在庫削減を達成
概要
エスマット社が提供するSmartMat Cloudに在庫最適化AIエージェント機能が追加され、照明器具メーカーのMARUWA SHOMEIが導入した結果、4カ月で約300万円分の在庫削減を達成しました。在庫金額ベースで13%の削減率を記録したこの成果は、2026年1月29日に発表されています。このシステムはIoT重量計で収集した在庫データをAIが分析し、発注点や在庫量の見直しを自動的に提案するものです。注目すべきは、AIが見直し理由を文章とグラフで説明する設計になっている点です。最終的な判断は人間が承認または却下するプロセスを経るため、継続的な改善が可能な仕組みとなっています。
中小企業への影響
この事例は中小企業の経営改善に直結する内容を含んでいます。在庫削減による運転資本の最適化は、資金繰りの改善に大きく貢献します。また、保管費用や廃棄損の削減によって利益率の向上も期待できます。ROIC(投下資本利益率)などの経営指標が改善されれば、金融機関からの評価向上にもつながる可能性があります。一方で、IoTやAIの導入コストと削減効果のバランスを慎重に検討する必要があります。人手不足対策としての業務自動化効果も見込めるため、複合的な視点での投資判断が求められます。4カ月という比較的短期間で成果が出た事例は、同様の課題を抱える企業にとって導入判断の重要な参考材料となるでしょう。
経営者の視点
経営者が検討すべきアクションとして、まず自社の在庫管理の現状を棚卸しし、改善余地を定量的に把握することから始めてください。次に、IoT在庫管理システムの導入可否を検討し、AI活用による意思決定支援の導入を視野に入れましょう。重要なのは、在庫削減を単なる現場効率化ではなく、経営指標改善のテーマとして位置づけることです。投資対効果のシミュレーションを実施したうえで、まずは段階的導入による小規模な実証から開始することをお勧めします。なお、AIの提案が常に正しいとは限らないため、人間による判断と監視の体制は必須です。SmartMat Cloudとは、重量計型IoTセンサーで在庫量を自動計測しクラウドで一元管理するシステムであり、残量に応じた自動発注も可能な仕組みです。
参考リンク
日経クロステック ACTIVE:4カ月で300万円分の在庫削減、AIエージェントを導入した照明器具メーカーの成果
3. 清水建設がDX注目企業に選定、IPAデータベースに事例掲載
概要
2026年2月12日、IPA(情報処理推進機構)がDX注目企業として清水建設を追加し、IPAデジタル事例データベースに同社のDX取組事例を掲載しました。清水建設は長期ビジョン「SHIMZ VISION 2030」においてデジタル化を戦略の柱に位置づけ、デジタルの力とものづくりの力を掛け合わせる方針を掲げています。具体的な取り組みとして、重要インフラのひび割れ点検にAIとデジタルツインを活用しているほか、大規模集客施設の設計初期段階で人流予測システムを導入しています。さらに、山岳トンネルの巡回にはau Starlink Stationとドローンポートを活用した実証実験も行っています。
中小企業への影響
この動きは建設業に限らず、幅広い業種の中小企業に影響を与えます。IPAのデジタル事例データベースでは大手企業の事例を無料で参照でき、DX計画策定の参考資料として活用できます。建設業の協力会社にとっては、元請企業からのDX対応要求に備える必要性が高まっています。デジタルツールの習熟度が下請け選定の基準になる可能性もあるため、早期の対応が望まれます。また、AI・ドローンなどの技術導入コストは低下傾向にあり、参入障壁は下がりつつあります。自社でも小規模から始められるデジタル化領域を特定することが重要です。他業種においても、大手企業のDX動向をウォッチして自社戦略に反映する習慣をつけることで、変化への対応力を高められます。
経営者の視点
経営者として実行すべきことは、まずIPAデジタル事例データベースで同業他社の取り組みを調査することです。無料でアクセスできるこのリソースは、DX推進の参考資料として非常に有用です。次に、自社の業務プロセスでデジタル化可能な領域を洗い出し、段階的なDX計画を策定して優先順位をつけてください。社員のデジタルリテラシー向上施策の検討も欠かせません。取引先や元請企業のDX動向を把握し、対応を準備することも重要です。補助金や支援制度の活用可能性も調査しておきましょう。ただし、大手事例をそのまま模倣しても中小企業の規模には合わない場合があります。デジタルツインとは、現実世界の建物やインフラをデジタル空間に再現し、シミュレーションや監視に活用する技術のことで、点検や保守の効率化に有効です。
参考リンク
IPA DX SQUARE:DX注目企業に清水建設を追加、デジタル事例データベースに掲載
4. デジタル化・AI導入補助金2026の申請受付が3月30日開始
概要
中小企業基盤整備機構は、従来のIT導入補助金から名称を変更した「デジタル化・AI導入補助金2026」について、2026年1月30日から事前登録受付を開始し、公募要領を公開しました。申請枠は通常枠、インボイス枠(インボイス対応類型・電子取引類型)、セキュリティ対策推進枠、複数者連携デジタル化AI導入枠の4種類が設けられています。問い合わせ窓口はナビダイヤル0570-666-376(IP電話は050-3133-3272)で、受付時間は平日9時30分から17時30分までです。不正対策として自主返還制度が設置され、厳格な調査が実施されることも明示されています。名称にAI導入が明記されたことで、国のDX推進に対する姿勢がより明確になりました。
中小企業への影響
この補助金制度は中小企業のデジタル化を強力に後押しするものです。デジタル化やAI導入にかかる初期費用の負担を補助金で軽減できるため、投資のハードルが下がります。インボイス対応システムの導入費用も補助対象となっており、制度対応が遅れている企業にとっては活用の好機です。セキュリティ対策への投資も支援を受けられるため、サイバー攻撃対策の強化にも役立ちます。さらに、複数社で連携したデジタル化プロジェクトも申請可能です。補助金シミュレーター機能で事前に支援額を試算でき、ITツール検索機能で導入候補のシステムを事前検討できます。活用事例セクションでは同業他社の成功例も参照できるため、計画立案の参考になります。
経営者の視点
経営者は早急に行動を起こすべき段階にあります。まず事前登録手続きを早期に実施し、公募要領をダウンロードして要件を精査してください。自社に適した申請枠を選定し、導入予定のITツールやAI製品を検索機能で確認しましょう。法人番号など必要書類の準備にも着手してください。IT導入支援事業者との連携も検討が必要です。IT導入支援事業者とは、補助金対象企業に対してITツール導入の技術支援や申請サポートを提供する認定事業者のことで、申請には支援事業者との連携が必要な場合があります。注意点として、不正が発覚した場合は交付決定の取消と補助金返還の対象となります。申請締切前は電話窓口が混雑するため早めの相談をお勧めします。
参考リンク
中小企業基盤整備機構:デジタル化・AI導入補助金2026の申請受付開始予定を発表、3月30日から受付開始
5. 建設DXの最初の一手、設計特化型AIサービスの可能性
概要
HEROZ(ヒーローズ)が建築DX向けAI SaaS「HEROZ ASK」を展開しています。同社は第10回JAPAN BUILD TOKYO(2025年12月10日から12日、東京ビッグサイト)の建築DX分野に出展しました。このサービスは設計フェーズにおける過去案検索を効率化するもので、5件中1件または8件中1件程度まで絞り込みが可能との実績があります。BIMデータや仕様書など多層的な情報の統合検索が可能で、将棋AIで培った技術を建築分野に応用しています。建設業界ではAI活用は進行中であるものの、どう使えばよいか分からないという課題が存在します。
中小企業への影響
設計事務所や中小施工会社にとって、過去案の検索効率化は生産性向上の有力な手段となります。自社が蓄積してきたプロジェクト情報をデータとして整備することが、将来の競争力に直結します。AI導入はPoC(実証実験)を小規模から始められるため、大きな投資リスクを取らずに効果を検証できます。業界展示会での情報収集は先端動向を把握する良い機会です。大手ゼネコンとの協業を通じてAIサービスを利用するという選択肢もあります。設計段階でのミス削減は手戻りコストの低減につながるため、品質とコストの両面でメリットが期待できます。まずは自社の情報資産を見直し、デジタル活用の可能性を探ることから始めてみてください。
経営者の視点
経営者が取るべきアクションとして、まず自社の過去プロジェクト情報のデータ化・整理状況を確認してください。情報が紙やバラバラのファイルで管理されている場合、AIを導入しても効果は限定的です。AI導入のPoC実施を検討し、業界展示会やセミナーで先端技術動向を把握することも重要です。BIM導入済みの場合はデータ活用の高度化を検討しましょう。設計業務のボトルネックを分析し、改善の優先度を設定することで、投資対効果の高い領域から着手できます。AIベンダーとの情報交換や試用機会を探索することもお勧めします。PoC(Proof of Concept)とは、本格導入前に小規模で実証実験を行い技術やサービスの有効性を検証するプロセスです。注意点として、データ品質への依存度が高いこと、AI導入だけでは効果が出ず業務プロセス変革とのセットが必要なことを認識しておいてください。
参考リンク
ITmedia BUILT:建設DXの「最初の一手」をどう始める? HEROZが示す設計に特化したAIサービス
まとめ
今回取り上げた5つのニュースは、いずれも中小企業のDX推進に具体的な示唆を与えるものです。村田製作所の事例からは、AI時代における営業・マーケティングの考え方の転換が求められていることが分かります。照明器具メーカーの在庫削減事例は、AIエージェントによる意思決定支援が短期間で成果を出せることを示しています。清水建設のDX注目企業選定は、IPAのデータベースを活用した情報収集の重要性を教えてくれます。デジタル化・AI導入補助金2026は、投資負担を軽減しながらデジタル化を進める絶好の機会です。そして建設DX向けAIサービスの動向は、設計段階からのデジタル活用が業界を問わず重要になっていることを示唆しています。自社の状況に照らし合わせ、できるところから一歩ずつ取り組みを進めていくことが、変化の激しい時代を乗り越える鍵となります。

