DXニュースまとめ(2025年5月23日〜5月29日)
- 政府が生成AI活用のガイドライン策定 – 行政におけるAI利活用を推進しつつリスク管理を徹底
- デジタル人材育成で新指針 – 経産省報告書がスキル重視の人材戦略を提言
- 物流大手とIT企業がDX新会社 – ラストワンマイル効率化へ異業種連携
- 現場業務のDX遅れが顕在化 – シフト管理の7割が紙依存と判明、改善余地大
- 生成AI導入が拡大、対応必須に – 自治体や企業で活用進む、取り残されるリスクも
中小企業経営者に向けて報道されたDX関連ニュースの中から特に注目すべきトピックを5つ選びました。政府のデジタル戦略から企業のDX施策、現場業務の実態調査、そして生成AI活用の最前線まで、幅広い分野の動向を網羅しています。本記事では各ニュースの概要とともに、中小・小規模事業者への影響や経営者が取るべき対応策を解説します。急速に進展するデジタル化の潮流を把握し、自社の競争力強化に役立ててください。
1. 政策・ガバナンス:政府、生成AI活用の省庁向けガイドライン策定
概要
政府は各省庁でChatGPTなど生成AIを業務利用するための初の統一指針となるガイドラインを策定しました。省庁ごとにAI統括責任者(CAIO)を任命し、職員による生成AI利用ルールや活用事例を整備して全府省で共有することが求められます。また、既に一部省庁では会議録の要約作成やデータ分析に生成AIを活用しており、今後さらなる業務効率化を図る考えです。ただし、安全保障など機密情報は「生成AIで扱わない」ことを原則とし、リスク管理と利活用促進を両立させる内容になっています。政府横断の包括的なAIガイドライン策定はこれが初めてであり、今後各省庁で本格的なAI活用が進む見通しです。
中小企業への影響
行政によるDX推進は社会全体のデジタル化を後押しするため、中小企業にも間接的な影響が及ぶでしょう。まず、政府が生成AI活用に踏み切ったことで企業内でのAI利用に対する心理的ハードルが下がり、民間でも生成AIの導入が加速する可能性があります。中小企業にとっても、請求書作成や問い合わせ対応など定型業務でAIを活用すれば業務効率化やコスト削減のチャンスとなります。一方で、政府基準に準じた情報管理やセキュリティ対策が求められる場面も増えるでしょう。特に機密データの取り扱いについては、公的ガイドラインを参考に自社ルールを整備しないと、取引先から信頼を損ねるリスクがあります。
経営者の視点
経営者としては、政府のDXの方向性を自社戦略に取り入れることが重要です。まず今回のガイドラインで示された「リスク管理を徹底しつつDX推進」という姿勢を見習い、自社でもAI導入時のガバナンス体制を整えましょう。具体的には、情報漏えいや誤用を防ぐ社内ルールを定めた上で、業務効率化につながる生成AIツールを試験的に導入してみてください。例えば文章作成支援AIで提案書のドラフト作成時間を短縮するなど、小さく始めて効果を測定すると良いでしょう。国がAI活用に本腰を入れた今、「自社には関係ない」と静観するのは機会損失です。公的動向にアンテナを張りつつ、自社の生産性向上に活かせるAI活用策を模索しましょう。
参考リンク
TBS NEWS DIG:政府、初の省庁向け生成AIのガイドラインを策定
2. 人材育成:経産省報告書が示す「スキルベース」人材戦略
概要
経済産業省は5月23日、「Society5.0時代のデジタル人材育成に関する検討会」の報告書を公表しました。この報告書は、企業や個人のDX推進スキルの現状と課題を分析し、今後の人材育成の方向性を示すものです。最大のポイントは、「スキルベースの人材育成」の重要性が強調されたことです。現在の日本の労働市場では、せっかく高度ITスキルを身につけても正当に評価・処遇されにくく、個人が継続学習するインセンティブが弱いと指摘しています。そのため、スキルに着目して人材を評価・登用し、個人のキャリア形成を支援する仕組みへの転換が急務とされています。経産省は本報告書を受け、今後デジタルスキル標準の策定や国家試験区分の見直しなど具体策を検討するタスクフォースを順次立ち上げる予定です。官民で人材の「見える化」と育成支援を進め、DX時代に適した人材像の確立を目指します。
中小企業への影響
デジタル人材の不足は大企業のみならず中小企業にとっても深刻な課題です。本報告書で示されたスキル重視の流れは、中小企業の採用・人事戦略にも影響を与えるでしょう。例えば、今後は学歴や年次よりも「どんなITスキルを持っているか」が重視される傾向が強まり、人材市場でスキルを持つ人の価値が上がる可能性があります。中小企業は大手に比べ高スキル人材を獲得しにくい傾向にありますが、国主導でスキル標準や評価方法が整備されれば、自社に必要なデジタル人材像が明確になり、人材育成計画を立てやすくなるでしょう。一方、自社の従業員が十分なデジタルスキルを持たないままでは、取引先から求められるDX対応に遅れをとり、競争力低下につながりかねません。人材のスキルギャップが企業間競争の明暗を分ける局面が今後増えていくと考えられます。
経営者の視
経営者は、従業員のデジタルスキルを「見える化」し、計画的に育成していく姿勢を持つことが重要です。報告書にもあるように、社員のスキルを正当に評価し適材適所に配置することが、生産性向上と人材定着の鍵になります。まずは社内で「どの業務にどんなデジタルスキルが必要か」を洗い出し、現状の社員スキルと照らし合わせて不足分を把握しましょう。その上で、必要な研修や外部講座への参加、資格取得支援などリスキリング施策に投資してください。特にIT人材が限られる小規模企業では、既存社員のスキルアップがDX推進の近道です。また、新たに人材を採用する際も、学歴や経験年数だけでなく具体的なITスキルやプロジェクト経験を重視する「スキルベース採用」の視点を取り入れてみましょう。国の人材戦略の変化を踏まえ、自社の人材マネジメントもアップデートすることが求められます。
参考リンク
経済産業省 ニュースリリース:『Society5.0時代のデジタル人材育成に関する検討会』報告書を公表
3. 物流DX:丸和HDとGOがラストワンマイル効率化で新会社
概要
大手物流業者のAZ-COM丸和ホールディングス(丸和HD)とタクシー配車アプリ運営の株式会社GOは5月26日、ラストワンマイル物流のDX推進を目的に新会社「MOMO A(モモエース)」を共同設立すると発表しました。ラストワンマイル(配送の最終区間)領域では、近年EC需要の拡大に伴いドライバー不足や非効率な配送ルート、多重下請け構造による収益低下など課題が深刻化しています。新会社MOMO Aでは、丸和HDが持つ物流ノウハウとGOの持つIT・モビリティ技術を掛け合わせることで、これら課題の解決を図ります。具体的な取り組み内容は今後明らかになりますが、例えばAIを活用した配送ルート最適化や、タクシー網を活かしたオンデマンド配送サービスの展開などが想定されます。丸和HDの和佐見社長は「小売業と消費者をつなぐラストワンマイル事業でサービス拡大と業務効率化を図る」と述べており、物流×ITの異業種連携による新たなビジネスモデル創出に意欲を示しています。
中小企業への影響
ラストワンマイル物流の効率化は、商品を届ける側だけでなく受け取る側の中小企業にも恩恵があります。例えば、小規模EC事業者や地域の店舗が、この新会社のサービスを利用できるようになれば、配送スピードの向上や配送コストの削減が期待できます。特に当日配送や翌日配送といった消費者ニーズに応える配送網が整えば、中小のネットショップでも大手並みのサービス水準を実現しやすくなるでしょう。また、物流DXの進展により、これまでアナログだった在庫管理や配送追跡が高度化すれば、サプライチェーン全体の透明性向上にもつながります。一方で、従来の多重下請け構造に依存していた小規模配送業者にとっては、市場環境が変化する可能性もあります。大手がDXで効率化を進める中、取り残された企業は競争力を失いかねません。物流業界全体でデジタル適応力の差が新たな格差を生む可能性もあり、中小の運送業者は自社でもIT活用やサービス差別化を検討する必要があります。
経営者の視点
商品の配送は多くの事業にとって生命線であり、その効率化動向から目を離せません。経営者としては、まずこの新会社の動きを注視し、自社の商品配送や物流コストにどんな影響があり得るか考えてみましょう。自社が荷主(発送側)であれば、より安価で迅速な配送サービスが利用できるチャンスです。今後MOMO Aから新サービスが発表されたら、小口配送を委託してみるなど積極的に試すことで、顧客サービス向上やコスト最適化につなげてください。また、物流業を営む企業の経営者は、自社もデジタル技術で付加価値を出せないか検討が必要です。例えば、地域密着型の配送業者なら独自の配送管理システムを導入し、きめ細かいサービス提供で差別化する戦略もあります。異業種連携によるDXの波は自社にも及ぶとの前提で、自社の物流・配送プロセスを見直し、競争力強化につなげましょう。
参考リンク
LNEWS:AZ-COM丸和HDとGO/ラストワンマイル物流のDX推進へ新会社設立
4. 現場DX:シフト管理の7割が紙依存、非効率な運用が浮き彫りに
概要
シフト作成サービス「らくしふ」を提供する企業の調査で、全国の企業の約7割がいまだに紙やExcelで従業員のシフト管理を行っている実態が明らかになりました。この調査(対象1,242名)によると、専用のシフト管理ツールを導入済みの企業は25%にとどまり、多くの職場でシフト表の作成・共有がアナログなままです。ツール未導入の理由としては「導入コストが負担」「現行運用で足りている」「設定が面倒」といった声が挙がっています。その一方で、給与計算や勤怠打刻など他の労務領域ではIT化が進んでおり、シフト管理だけが“DXの空白地帯”となっている現状が浮き彫りです。調査では併せて、パート従業員の年収上限いわゆる「103万円の壁」への対応策を講じている企業が約7割に上ることも判明しました。シフト管理が属人的かつ非効率なままだと、こうした労務施策への対応や人件費の最適化にも支障を来たす可能性が示唆されています。
中小企業への影響
シフト勤務の多い小売・外食・介護などの中小企業では、この調査結果は他人事ではありません。紙とExcelによる管理では店長や現場責任者の負担が大きい上、人的ミスによるシフト漏れ・重複、急な欠員対応の煩雑さなど非効率による機会損失が発生しがちです。人手不足や働き方改革への対応が求められる中、古い手法のままでは柔軟な労務管理についていけず、結果的に従業員の定着率低下やサービス品質低下を招くリスクがあります。逆に言えば、シフト管理をデジタル化する余地が大きいとも言えます。安価なクラウドサービスを使えば、スマートフォンでシフト提出・確認ができ従業員の不満も減らせるでしょうし、適切な人員配置による人件費の最適化も可能になります。中小企業にとってDXというと売上アップに直結する施策に目が行きがちですが、こうした裏方業務の効率化こそが利益率改善や働きやすい職場作りの土台となることを、本調査結果は示しています。
経営者の視点
自社の現場で「紙とExcelでなんとか回している業務」がないか改めて点検してみましょう。シフト表だけでなく、在庫管理や日報提出などでアナログ運用が残っている場合、それはDXによる改善余地がある部分です。経営者は、現場担当者のヒアリングを通じて業務フローのボトルネックを把握し、小さなことからデジタル化を進める決断をしてください。幸い、勤怠管理やシフト作成のクラウドサービスは中小企業向けにも低コストで提供されています。ITに詳しくないスタッフでも使いやすいツールも多いため、まずは無料トライアル等で現場に適合するか試してみると良いでしょう。ポイントは経営者自身がDXのメリットを理解し、現場任せにせず推進役となることです。「現状で問題ない」と思われていた業務でも、デジタル化すれば想像以上の時間短縮やミス削減につながるケースは少なくありません。身近な業務のDXから着手し、積み重ねることで自社全体の生産性向上につなげましょう。
参考リンク
PR TIMES(クロスビット):紙とExcelによる運用が7割超・「労働現場DX」の空白地帯が浮き彫りに
5. AI導入:自治体・中小企業で生成AI活用拡大、「使いこなす他社が怖い」の声
概要
生成AI(Generative AI)のビジネス活用が地方自治体や中小企業レベルでも広がりを見せています。例えば山梨県では2023年末に全職員への生成AI利用を解禁し、約半年で46%の職員が業務で活用したといいます。会議録の要約作成や文書のたたき台作成などで「作業負担が軽減した」「発想の幅が広がった」との効果が報告される一方、未利用者からは「自分の業務でどう使えばよいかわからない」との声もあり、スキルや理解度による差も浮かび上がっています。こうした中、京都大学発のスタートアップ企業が山梨県内の中小企業向けに生成AI活用支援セミナーを開催するなど、地域企業への普及も進み始めました。実際、山梨県のアクセサリ製造販売業者では、顧客の要望イメージをもとに生成AIでデザイン案を作成し、商品企画に活かす試みが行われています。現場からは「AIに仕事を奪われるより、使いこなせる同僚や他社がいる方が脅威だ」との声も聞かれ、単なるブームを超えて競争力強化の必須ツールとの認識が広がりつつあります。
中小企業への影響
生成AIの democratization(民主化)とも言える動きにより、小規模事業者でも先進的なIT活用が手の届くものになっています。これは大きなチャンスである一方、対応しない企業にとってはリスクにもなり得ます。積極的にAIを取り入れた企業は、少人数でも高い生産性や付加価値の提供が可能となり、競合との差別化を図るでしょう。一方、AIを全く使いこなせない企業は、生産性やサービス品質の面で遅れをとり、ひいては取引機会を失う恐れがあります。また、生成AIの活用が進めばビジネスのスピードも加速します。企画書作成や市場分析にAIを活用する企業は、従来より短時間で意思決定できるため、市場変化への対応力にも差が出るでしょう。中小企業にとって幸いなことに、多くの生成AIツールは低コストまたは無料で試せます。大企業のような潤沢なIT予算がなくとも、発想次第で十分に効果を享受できる余地があります。この波に乗るか見送るかが、今後の競争環境で生き残れるかの分かれ目になるかもしれません。
経営者の視点
中小企業の経営者は、「AIは難しい」「うちには関係ない」と敬遠せず、まずは自ら試してみる姿勢が求められます。例えば、営業メールの文案作成をChatGPTに手伝わせてみる、社内の規定集を要約させてみる、といった些細なことからでも構いません。自社で使える具体的な場面を見つけることが第一歩です。その際、社員と一緒に勉強会を開いたり、自治体や商工会議所主催のAI活用セミナーに参加したりして、社内に知見を蓄積していきましょう。また、情報漏えいや誤情報のリスクには注意しつつ、まずは社内規程で「機密データは入力しない」など最低限のルールを定めた上でトライアルを始めることをお勧めします。重要なのは、経営者自身がAIを使いこなす同業他社の存在を危機感として捉えることです。「使うか使わないか」ではなく「どう使いこなすか」がこれからの競争軸になります。自社の強みを伸ばすためのAI活用方法を模索し、時代の変化を味方につけましょう。
参考リンク
TBS NEWS DIG:生成AIの導入 自治体や企業で広がる(テレビ山梨)
まとめ
今回取り上げた5件のニュースからは、DX推進の潮流が一段と加速していることが読み取れます。政府は規制面・人材面でDXを後押しし、大企業のみならず行政や地方の現場にまでデジタル変革が浸透し始めました。一方で、シフト管理のように依然アナログ運用が残る領域もあり、課題とチャンスが表裏一体で存在しています。
中小企業の経営者にとって重要なのは、こうした動向を他人事とせず自社の戦略に結び付けることです。具体的には、以下の点に注目してください。
- 公的支援とルール整備の活用: 国のDX政策やガイドラインにアンテナを張り、自社のIT活用や情報管理に取り入れましょう。補助金や支援策があれば積極的に利用し、DXの土台作りに役立てることが肝要です。
- 人材と組織のアップデート: デジタル時代に求められるスキルは刻一刻と変化しています。社員のスキル把握・育成計画を見直し、必要に応じて外部専門家の力も借りながら社内のDX人材を育てる投資を続けましょう。
- 身近な業務からDXを推進: 大掛かりな投資が難しくても、紙とExcelで行っている業務の一つひとつを見直すだけでもDXは始められます。小さな改善の積み重ねが生産性向上と働きやすさに直結します。
- 新技術への積極姿勢: AIをはじめとする新技術は脅威ではなく武器になります。自社のビジネスでどう活かせるか前向きに検討し、「まずやってみる」行動力を持ちましょう。他社に先んじて活用すれば、それ自体が競争優位になり得ます。
デジタルトランスフォーメーションは単なる流行語ではなく、中小企業の存続と成長にも直結する経営課題です。今後も最新情報に注目し、自社の状況に照らして「何ができるか」を考え続ける経営者の姿勢こそが、変化の激しい時代を生き抜く原動力となるでしょう。各種支援策や同業他社の事例にも学びつつ、自社ならではのDXを着実に進めていってください。