DXニュースまとめ(2025年5月16日〜5月22日)
2025年5月16日〜22日は、中小企業経営者にとって見逃せないDX関連の動きが相次ぎました。政府は地方物流を支援する新たな補助金制度を開始し、大手企業では社内システム刷新やクラウド活用による業務効率化が進展しています。また、AI活用の拡大に伴い、求められる人材スキルにも変化が出ています。今週注目の5つのニュースについて、中小企業への意味合いとともに解説します。
1. 政策・支援:政府、ドローン配送拠点整備の補助金公募開始
概要:
国土交通省は、離島や山間部の物流維持や災害時の物資輸送手段確保を目的に、ドローン配送拠点の整備を支援する新たな補助金事業の公募を開始しました。この「ドローン配送拠点整備促進事業」では、ドローンとトラックを組み合わせたラストワンマイル配送(最終区間の配送)の計画策定や、配送拠点の建設、配送用アプリ開発、初年度運用費用などが補助対象となります。対象はドローン物流に取り組む民間企業と自治体の協議会等で、補助率は経費の1/2。公募期間は2025年5月15日から6月20日までです。
中小企業への影響:
地域の物流インフラ強化は、中山間地域で事業を展開する中小企業に恩恵をもたらす可能性があります。例えば、離島の店舗や診療所への物資配送が安定すれば、地域の小規模事業者も安定した供給網を確保できます。また、この事業に民間企業として参画すれば、国の支援を受けながら新事業(ドローンによる配送サービス等)に挑戦するチャンスとなります。一方、ドローン物流の普及で宅配・物流業界の競争環境が変化する可能性もあり、中小の運送業者は新技術への対応策を検討する必要があるでしょう。
経営者の視点:
経営者としては、政府の支援策を積極的に活用する姿勢が重要です。自社が物流に関わる場合は自治体や他企業と連携し、本補助金への応募を検討してみましょう。そうでなくとも、ドローンなど新技術による物流DXの進展は、自社のサプライチェーン戦略にも影響し得ます。今後、ドローン配送によって配送リードタイム短縮やコスト削減が実現すれば、地方市場への販路拡大やサービス改善のヒントになるかもしれません。最新動向にアンテナを張り、自社のビジネスへの応用可能性を探ってみてください。
参考リンク:
ドローンジャーナル:国交省、ドローン配送拠点整備事業の公募開始
2. 業界動向:イオンが30業務アプリを刷新、新体制でDX加速
概要:
小売大手のイオングループは、グループ全体で約30に及ぶ社内業務アプリケーションを順次リプレース(刷新)するDX戦略を進めています。2024年末に発足したグループのDX推進会社「イオンスマートテクノロジー」の下、フロントエンド(店舗や顧客向け)からバックエンド(本部の基幹システム)まで一貫したIT体制へ移行し、能動的なIT部門を目指す取り組みです。例えば、POSレジや人事・会計など従来別々に運用されていた基幹システム群をモダナイズ(近代化)し、共通基盤を整備しています。
中小企業への影響:
大企業の動向は業界全体に波及します。イオンのDX深化は、取引先である中小のメーカーや卸売業者にも影響を及ぼすでしょう。発注や在庫管理がデジタル化・効率化されれば、サプライヤーである中小企業もそれに対応したシステム整備が求められる可能性があります。また、イオンが生産性向上による人件費増への対応をDXで図っている点は参考になります。中小企業も、人件費や労働力不足の課題に直面する中で、業務のデジタル化による効率改善は避けて通れない流れと言えます。
経営者の視点:
自社が属する業界のリーダー企業がDXに注力している場合、その方向性を参考にしましょう。イオンの例では、人件費高騰に対しDXで生産性を上げる戦略を打ち出しています。経営者は、自社でもアナログな作業を洗い出し、可能な部分からITツール導入やシステム統合による効率化を検討すべきです。特に在庫・受発注・経理などの分野で、安価で使いやすいクラウドサービスが中小企業向けにも多数提供されています。大企業の事例を自社規模に置き換えて考え、「省力化できるところはないか?」と常に問いかける姿勢が重要です。
参考リンク:
EnterpriseZine:イオン、DX推進へ約30の基幹システムを刷新
3. テクノロジー:JALがデータ基盤をクラウド移行、現場主導のデータ活用促進
概要:
日本航空(JAL)は、社内のデータ分析基盤をオンプレミス(自社設置)環境からクラウドのデータウェアハウス「Snowflake(スノーフレーク)」へ移行し、データ活用を高度化しています。2024年初頭に本番稼働を開始し、さらにStreamlit(ストリームリット)というWebアプリ開発フレームワークを導入することで、現場部門が自らデータ分析アプリを構築・可視化できる環境を整備しました。これにより、最新データを用いたダッシュボードを現場で迅速に作成し、日々の業務判断に役立てる「現場主導のデータ活用文化」の醸成を目指しています。
中小企業への影響:
大企業によるクラウド活用事例は、中小企業にとっても示唆に富みます。従来、高度なデータ分析基盤の構築には多額の投資が必要でしたが、クラウドサービスの活用で初期コストを抑えつつ最新技術を取り入れることが可能です。JALの事例は、専門部署だけでなく各現場スタッフがデータを扱えるようにすることの重要性を示しています。中小企業でも、たとえばクラウド上の簡易BIツールやスプレッドシート連携によって、現場レベルでデータに基づく改善ができる環境を作ることができます。
経営者の視点:
経営者は「データを活用する文化」を自社に根付かせることを意識しましょう。JALでは他社(NTTドコモ)の先行事例も参考にしつつ、DX部門が現場に寄り添いながら簡易アプリ開発を支援する体制を整えています。中小企業の場合、大掛かりな仕組みは不要でも、まずは現場の声を聞き、Excelで管理している情報をクラウドのデータベースに集約したり、誰でも操作できる形で見える化したりする取り組みから始めてみてください。「属人的な勘と経験」に頼っていた部分をデータで補完することで、意思決定のスピードと精度が向上し、競争力強化につながります。
参考リンク:
クラウドWatch:JAL、SnowflakeとStreamlit導入でデータ活用を現場主導に
4. 業界動向:ミスミ、AI活用の部品調達プラットフォームで製造業DX
概要:
製造業向け部品大手のミスミグループは、3D CAD図面をアップロードするだけで機械部品の見積もりと発注ができるAIプラットフォーム「meviy(メビー)」を展開しています。2020年にサービス開始以来機能拡充を重ね、2025年には切削加工部品で業界トップクラスの最短翌日出荷を可能にする「超短納期サービス」を導入しました。熟練が必要だった図面の読み取りや加工工程の見積もりをAIが自動化することで、従来数日かかっていた部品調達プロセスの劇的な時間短縮とコスト削減を実現しています。
中小企業への影響:
製造業の中小企業にとって、図面発注から加工までが迅速化するメリットは大きいでしょう。試作品部品の発注リードタイムが短縮されれば、製品開発のスピードアップにつながります。また、少量多品種の受注生産を行う町工場にとっても、プラットフォーム上で新たな顧客にアクセスできる可能性があります。一方で、従来のやり方に固執していると、大手が提供する効率的なサービスに仕事を奪われるリスクもあります。業界全体で調達や生産のデジタル化が進む中、自社もそれに見合った業務フローの見直しやIT投資を検討する必要があります。
経営者の視点:
経営者は、自社のバリューチェーン(価値連鎖)のどこにDXの余地があるかを考えてみましょう。ミスミの例は、従来アナログだった部品調達の世界にAIとプラットフォームで変革を起こした好例です。自社でも、発注・在庫管理、顧客対応、製造現場の進捗管理など、紙やFAXで行っている業務がないか振り返ってください。それらを専門サービスやクラウドツールに置き換えることで、大幅な時間短縮やミス削減が期待できます。また、新しい外部サービス(例えばミスミのmeviy等)を試しに利用してみることで、自社の業務効率がどれだけ向上し得るか体感し、DXの投資対効果を評価することも重要です。
参考リンク:
PR TIMES:ミスミのAI部品調達サービス「meviy」、最短翌日出荷の超短納期に対応
5. 人材:生成AI時代に求められるデジタル人材のスキルとは?
概要:
急速に普及する生成AI(Generative AI)の存在は、企業内でDXを推進する人材に求められるスキルセットにも影響を与えています。IPA(情報処理推進機構)が策定する「デジタルスキル標準」でも、2024年7月の改訂版(Ver.1.2)で生成AIの活用に関する内容が拡充されました。ポイントは、個別のITツールの操作スキルよりも、新しい技術を自ら学び業務に取り入れるマインドセットと、技術の原理やリスクを理解した上で状況に応じて使いこなす応用力です。生成AIを使った業務効率化の例が各所で増える中、単にツールを使えるだけでなく「何のために使うか」「効果とリスクを評価できるか」が重要になっています。
中小企業への影響:
DXを進める上で人材面の課題は大きく、中小企業でも他人事ではありません。社内にIT専門部署がなくとも、現場の社員一人ひとりが基本的なデジタルリテラシーを身につけ、新しいツールに抵抗なく適応できる組織文化を育てる必要があります。例えば、チャットボットAIを顧客対応に導入する場合でも、現場が使いこなせなければ宝の持ち腐れです。世代や職種を問わず従業員のデジタル教育を進めるとともに、伴走型※の研修など外部支援も活用して実践的なスキル習得を図りましょう。(*伴走型…現場に寄り添い実務と並行して行う支援手法)
経営者の視点:
経営者自身も最新技術の動向にアンテナを張り、「学ぶ社員」を後押しする風土作りを心がけましょう。生成AIなど新技術の導入にあたっては、小さな実証から始めて効果とリスクを見極め、社内にノウハウを蓄積することが推奨されています。指示を待つだけではなく自ら試行錯誤できる人材を評価・育成することで、変化の激しい時代にも適応できる強い組織を作ることができます。経営トップが先頭に立って「うちの会社もやってみよう」と発信することが、社員の意識改革につながるでしょう。
参考リンク:
ダイヤモンド・オンライン:生成AI時代に求められるデジタル人材とは
まとめ
2025年5月第3週のDX関連ニュースを振り返ると、「技術」「組織」「人材」の三位一体で変革を進める重要性が見えてきます。国の支援策や大企業の積極投資によってデジタル化の波は確実に押し寄せており、単に一時的なIT導入に留まらず、社内文化や人材育成まで含めた総合的な取り組みが求められています。中小企業の経営者にとって、DXは自社の存続と成長を左右する経営課題です。幸い、現在はクラウドサービスや公的支援など、規模に関係なく使える手段が増えています。本記事で取り上げた動向をヒントに、自社では何が活用できるか、どの業務を改善できるかをぜひ検討してみてください。時代の変化に対応し、果敢にデジタルの利点を取り入れる姿勢が、これからの中小企業経営の明暗を分けると言っても過言ではありません。今回のニュースをきっかけに、自社のDX推進に一歩踏み出してみましょう。