DXニュースまとめ(2025年12月5日〜12月11日)
DX(デジタルトランスフォーメーション)分野では、医療・流通・物流・製造・知財といった幅広い領域で新しい取り組みが発表されました。
中小企業経営者が押さえておくべき重要なニュースは、医薬品調査の電子化、スーパー店舗のAI需要予測、物流センターのAI自動仕分け、VPN不要のリモートKVM、知財管理クラウドとDX支援プラットフォームの連携の5つです。
この記事では、それぞれの内容と、中小企業にとっての意味合い・経営判断のヒントをわかりやすく解説します。
1. 要指導医薬品の調査を国内初の電子化、第一三共ヘルスケアとNTTドコモビジネスが業界DXを推進
概要
第一三共ヘルスケアとNTTドコモビジネスは、要指導医薬品の製造販売後調査(PMS)を国内で初めて電子化したと発表しました。第一弾として「ロキソニン総合かぜ薬」で、購入者がスマートフォンなどからオンラインでアンケートに回答できる仕組みを導入し、紙の調査票を使わない形に切り替えています。これにより、回答のしやすさ向上とデータ収集の迅速化・精度向上を図り、「業界初のDX」と位置付けています。
中小企業への影響
一見すると大手医薬品メーカーの話に見えますが、「紙ベースの調査・報告をデジタル化する」発想は、業種を問わず中小企業にもそのまま当てはまります。
例えば、
- 店頭アンケート
- アフターサービスの満足度調査
- 保守・点検後のフォローアンケート
など、まだ紙やExcelで集計している仕組みをオンラインフォームに置き換えることで、集計作業を省力化しながら、より多くの声を素早く集められます。規制の厳しい医薬品の世界で電子化が進んだことは、「デジタル調査が社会的に受け入れられた」という一つの指標にもなります。
経営者の視点
経営者としては、
- 「紙でやっている調査・確認・報告」はないか
- その中で、顧客満足や安全性に直結する重要なものはどれか
を洗い出すことが第一歩です。
その上で、QRコード付きのチラシやレシートからWebアンケートへ誘導するなど、スモールスタートがしやすい部分からデジタル化していくと負担が少なくなります。医療分野の事例にならい、プライバシー保護やデータ管理ルールも最初から意識しておくと、のちのトラブル防止にもつながります。
参考リンク
第一三共ヘルスケア:要指導医薬品の製造販売後調査を国内初の電子化へ
2. AIでスーパーの残業時間を約1割削減、日立とハローデイの需要予測DX
概要
食品スーパー「ハローデイ」と日立製作所グループは、日立のデジタルサービス「HMAX Industry」の一つである需要予測型自動発注システムを全49店に導入しました。これにより、従業員の総労働時間を大幅に削減し、残業時間を約7.9%削減、自動発注率は90%以上、欠品率を約7%減少させるなど、発注業務を中心に店舗運営の生産性向上を実現しています。
中小企業への影響
この事例のポイントは、「AI=最先端」の話ではなく、「発注作業」という毎日の定型業務を徹底的にDXしている点です。小売・飲食・製造業などでも、
- 仕入れ数量の決定
- シフト作成
- 売上予測
といった「経験と勘」に頼りがちな領域が残業の原因になりがちです。クラウドの需要予測ツールや、POSデータ連携型の在庫管理サービスを活用すれば、中小企業でも「人が判断するのは例外ケースだけ」という状態を目指すことができます。
経営者の視点
経営者としては、まず「人が時間をかけているが、判断ロジックはほぼ決まっている仕事」を洗い出してください。
AIや自動発注システムをいきなり入れなくても、
- 売上・在庫・天候などのデータを、最低限集めておく
- Excelでよいので「もし〇〇なら△△という発注にする」とルール化してみる
ところから始めると、将来ツールを導入する際の移行がスムーズになります。今回の事例のように、残業削減と在庫最適化が同時に進むDXは、あらゆる業種で再現可能です。
参考リンク
PR TIMES:ハローデイと日立が協創、AI活用でスーパー店舗の残業時間約1割削減して働き方改革推進
3. NTTロジスコ、AI画像認識とAGVで仕分けを自動化し生産性30%向上
概要
NTTロジスコは、レンタル通信機器のリファビッシュ業務において、回収品の登録と仕分けを自動化する「AI画像認識技術を用いた自動登録・仕分けシステム」を埼玉物流センターに導入したと発表しました。回収した機器の背面にある文字情報やバーコード情報をAIが読み取り、倉庫管理システム(WMS)に自動登録。さらに、AGV(無人搬送ロボット)「t-Sort」と連携して自動仕分けを行うことで、生産性30%向上、仕分けミス0%を達成しています。
中小企業への影響
この取り組みは「大企業の最新ロボット導入」のように見えますが、ポイントは「目視確認+手入力」の塊になっている作業を、できるところから機械に任せるという考え方です。
中小企業でも、
- 型番やシリアル番号の目視チェック
- 手書きラベルの読み取り
- 伝票番号の照合
など、人が画面や紙を見て打ち込んでいる作業が現場に残っているケースは多いはずです。バーコード・QRコードの活用や、スマホカメラを用いた読み取りアプリだけでも、ミス削減と標準化に大きく貢献します。
経営者の視点
経営者としては、いきなりロボット導入を検討するのではなく、
- どの作業が「人による目視+転記」に依存しているか
- その作業のミス発生時のコスト(手戻り・クレームなど)はどれくらいか
を見える化することが重要です。
そのうえで、「バーコードを必ず貼る」「必ずスキャンしてから次工程へ送る」といった単純なルールから整えていけば、将来のAI・ロボット導入の土台づくりになります。NTTロジスコの事例は、物流に限らず製造・サービス業のバックヤード改善のヒントになります。
参考リンク
NTTロジスコ:「AI画像認識技術を用いた自動登録・仕分けシステム」の導入について
4. VPN不要のリモートKVM「RemoteViewBOX」新モデルで現場DXを後押し
概要
リモートアクセス製品を提供するRSUPPORTは、VPN不要で遠隔からPCやサーバーを操作できるハードウェア型リモートKVM「RemoteViewBOX」の後継機を2025年12月10日に発売しました。インターネットに直接つながっていない端末ともケーブル接続で連携でき、生産設備やデータセンターなど閉域ネットワーク環境でも安全に遠隔操作が可能です。既存モデルと同じ価格帯で提供し、遠隔地端末の一元管理やモニタリング機能により、IT人材不足の解消や製造業DXへの貢献をうたっています。
中小企業への影響
特に製造業や物流倉庫では、
- 「古いけれど止められない」設備PC
- ネットワーク接続が厳しく制限された端末
が現場に残っており、DXのボトルネックになりがちです。ハードウェア型のリモートKVMを使えば、レガシー端末を無理にクラウド化せずに、まずは遠隔操作できる状態にするという「現実的なDX」が可能になります。現場に人が行かなくてもトラブル対応や設定変更ができるため、移動時間・待ち時間の削減も期待できます。
経営者の視点
経営者としては、
- 「遠隔から操作できないために、人が何度も現場に行っている端末」
- 「もし止まると大きな損失になるが、担当者が1人に偏っている端末」
をリストアップしてみてください。そこがリモート化・見える化の優先候補です。
DXというと「すべてクラウドへ」というイメージがありますが、現場の制約を踏まえると、こうしたハードウェア型ソリューションとクラウドの組み合わせが、現実的でコスト効率のよいアプローチになることも多いです。
参考リンク
RSUPPORT:2025年12月10日 ニュースリリース(RemoteViewBOX 後継機 発売)
5. 東芝デジタルソリューションズ、SMBC「PlariTown」で知財管理クラウドを提供開始
概要
東芝デジタルソリューションズは、SMBCグループの子会社プラリタウンが運営する法人向けDX支援プラットフォーム「PlariTown」上で、知的財産管理サービス「IPeakMS」の提供を開始しました。PlariTownは、主に中堅・中小企業向けに、経営・業務に役立つデジタルサービスをワンストップで提供するプラットフォームであり、知財管理ソリューションの掲載はIPeakMSが初めてとされています。今回の連携により、企業は知財情報をクラウドで一元管理し、知的財産戦略の立案・意思決定をデジタルで支援できるようになります。
中小企業への影響
これまで「知財管理」「特許戦略」というと、大企業だけのテーマと捉えられがちでした。しかし、PlariTownのような中堅・中小企業向けDXプラットフォーム上で、知財管理ツールが提供され始めたことは、状況の変化を示しています。
- 自社ブランドや技術ノウハウをどこまで守るか
- 顧客との共同開発で生まれた成果物の権利をどう扱うか
といった課題は、規模に関わらず存在します。クラウド型の知財管理サービスを使えば、専門部署がなくても、基本的な権利情報を整理し、将来の紛争リスクを下げることが可能です。
経営者の視点
経営者としては、まず「自社の強みがどこにあるか」を棚卸しし、それが知的財産として守るべきものかどうかを考えることが重要です。
- オリジナルの設計やノウハウ
- 独自のサービス名称やロゴ
- 自社開発のソフトウェアやマニュアル
などについて、登録・契約の状況を一覧にしてみてください。そのうえで、金融機関や専門家が運営するプラットフォーム上のツールや相談窓口を活用すれば、「融資」「DX」「知財」の三つをセットで考える」こともできます。資金調達や事業承継を見据えた中長期戦略として、知財DXを意識しておく価値は高いでしょう。
参考リンク
東芝デジタルソリューションズ:企業の知的財産戦略立案の支援に向けて、「PlariTown」と連携を開始
まとめ
今回取り上げたDX関連ニュースを振り返ると、共通しているのは「現場で当たり前に行われている業務を、少しずつデジタルに置き換えている」点です。
- 紙のアンケートを電子化した医薬品調査
- 発注業務をAIで自動化したスーパー
- 目視と手作業に依存していた物流の登録・仕分け
- 現場端末を遠隔操作可能にするリモートKVM
- 見落とされがちな知財情報をクラウドで管理する仕組み
いずれも、「いまある業務プロセスをどう変えるか」という視点からスタートしています。
中小企業の経営者としては、
- まだ紙やExcelに依存している重要業務はどこか
- 人手不足・長時間労働の原因になっているのはどの作業か
- 自社の強み(技術・ブランド・ノウハウ)をきちんと守り、活かす仕組みを持てているか
をあらためて見直すことが重要です。
今日紹介した事例のように、DXは「一気に全社で大改革」ではなく、「1つの業務から始めて、成果を確認しながら広げていく」やり方でも十分に成果が出ます。
まずは、自社で「ここをデジタル化できたらインパクトが大きい」という業務を一つ選び、情報収集やツールの試験導入から始めてみてください。
継続的にDX関連ニュースをチェックし、自社の業界・規模でも再現できそうな取り組みを探していくことが、長期的な競争力の源泉になっていきます。

