DXニュースまとめ(2025年12月12日〜12月18日)
中小企業経営者が押さえておくべき重要なニュースは、①サイバー攻撃を想定した官民演習、②マイナンバーカード連携の地域サービス、③外部の専門家と進めるDX支援、④サステナビリティ開示のDX、⑤生成AIによる基幹システム開発の改革です。2025年12月12日〜12月18日にかけて、DXは「便利にする」だけでなく「止めない」「説明できる」「人手不足を補う」方向へ広がっています。この記事では、5つのニュースを要点だけでつかみ、中小企業が取れる具体的な一手に落とし込みます。
1. サイバー演習が示す「止まらないDX」:官民で広域障害に備える
概要
政府と東京都は、2025年12月18日に「サイバー攻撃やシステム障害で首都圏の重要インフラが止まる」事態を想定した官民合同の机上演習を実施すると発表しました。首都圏での大規模停電や交通機関のまひなど、社会の土台が同時多発的に揺らぐ状況を前提に、関係省庁・自治体に加え、電力や通信、鉄道、道路、金融、医療などの重要インフラ事業者が参加し、情報共有と役割分担、意思決定の流れを確認します。演習は、2025年7月に政府が策定した「社会的影響が特に深刻な大規模インフラ障害」への対応ガイダンスに基づき、災害だけでなくサイバー起点の広域障害にも備える狙いです。
中小企業への影響
「大企業や行政の話」と思いがちですが、インフラ障害は中小企業の売上と信用を直撃します。例えば、回線障害でクラウドに入れなければ、受注確認・在庫管理・勤怠・会計が止まります。キャッシュレス決済が使えないと、店頭や現場で売上を落としやすくなります。加えて、取引先側が被害を受けると、EDIや発注システムが止まり、こちらが無事でも仕事が進みません。サプライチェーンの一部として業務を担う会社ほど、「障害時に連絡がつくか」「復旧までの目安は出せるか」「代替手段はあるか」を問われます。逆に言えば、最小限の準備があるだけで“安心して任せられる会社”になれます。DXが進むほど依存する仕組みも増えるため、セキュリティと事業継続はセットで考える必要があります。
経営者の視点
経営者が主導して決めたいのは「止めないために守るべき優先順位」です。おすすめは、60分で終わる社内机上演習です。①止まると困る業務を3つ(例:受注、請求、顧客対応)に絞る、②ネットが半日使えない・取引先システムが止まる・社員のPCが感染する、の3シナリオで“誰が何をするか”を書き出す、③連絡手段(電話、SMS、紙の連絡先)を用意する、④外部委託先やクラウド事業者の緊急窓口を確認する。さらに、ログインは二要素認証(追加の本人確認)を基本にし、OSやソフトの更新を後回しにしないだけでも被害確率は下がります。バックアップは「取っている」だけでは不十分で、復元テストをして初めて意味があります。加えて、顧客や取引先へ状況を伝える告知文のテンプレートを用意しておくと、混乱を最小化できます。DXは便利にする活動ですが、同時に“止めない”仕組みづくりでもあります。
参考リンク
ビジネス+IT:政府と東京都、18日にサイバー攻撃想定の大規模インフラ障害対応の演習を実施へ
2. マイナカード連携「ご当地Suica」:地域サービスのデジタル化が加速
概要
宮城県とJR東日本は、2027年春に宮城県内でサービス開始予定の「ご当地Suica」の具体案を公表しました。特徴は、マイナンバーカードとモバイルSuicaを連携させ、交通だけでなく地域の生活サービスにSuicaを広げる点です。宮城県では、県民公式アプリ「ポケットサイン」のサービスをモバイルSuica上からWeb版として利用できる計画も示されました。公共交通では、タッチして乗車するだけで福祉割引価格が自動精算されるなど、自治体が行う割引施策のデジタル化も進みます。遅れ情報を加味した経路検索の提供や、利用データを地域交通の政策立案に生かす方針も示されています。
中小企業への影響
この動きは、地域経済の「お客さま接点」がスマホとID(本人確認)に寄っていくサインです。観光、飲食、小売、交通関連の事業者は、決済だけでなく、クーポンや地域施策とつながる導線が増えます。例えば、自治体が実施する割引や補助がデジタル化されると、紙の券の確認作業が減り、会計・精算が早くなります。さらに、移動データが政策やサービス改善に使われるほど、観光動線や混雑が可視化され、地域のイベント設計や店舗の出店判断にも影響が出やすくなります。記事では、首都圏などからの来訪を促す取り組みの例として、居住地以外の人が地域の特典を受けられる仕組みも示されており、地域外のお客さまを取り込む発想が強まっています。一方で、データ連携が進むほど、個人情報の扱いと不正利用対策が重要になります。「キャッシュレスに対応していれば十分」ではなく、地域の仕組みに合わせた運用設計が必要です。
経営者の視点
経営者としては、①自社の販売・予約・受付がスマホ前提でも回るか、②地域アプリやデジタル施策に参加できる体制があるか、を点検したいところです。特に現場が忙しい会社ほど、端末の操作、返金、通信障害時の対応などのルールが曖-昧だと混乱します。まずは、決済端末・レジ・会計ソフトの連携状況を整理し、手作業で二重入力している箇所を減らしましょう。次に、地域施策が始まったときに参加可否を判断できるよう、手数料、入金サイクル、問い合わせ窓口、必要な掲示物などを事前に確認しておくと安心です。地域サービスのDXは、地元で選ばれる体験づくりに直結します。
参考リンク
Impress Watch:宮城「ご当地」Suicaは生活サービスDXを推進 27年春開始
3. 外部プロ人材でDXを前に進める:課題を「整理と言語化」する支援策
概要
九州経済産業局は、中小企業のデジタル化・DXの取り組みを後押しするため、外部プロ人材が課題整理を支援するワークショップを福岡で開催すると案内しました。外部の専門家と一緒に、デジタル化・DXの課題を「整理と言語化」し、行動につながる“最初の一手”を考える内容です。外部人材を活用してDXを進めた中小企業の体験談を聞けるほか、ワークショップ形式で自社の状況を棚卸しできます。人材・情報・資金の不足が壁になりやすい中小企業に対して、最初の段階で迷いを減らす狙いがあります。対象は経営者や情報システム担当者などで、参加費は無料とされています。
中小企業への影響
DXが進まない最大の理由は「何から手を付けるべきか分からない」ことです。システム導入の前に、現場の困りごとが言葉になっていないと、ツール選定も外注も失敗しやすくなります。外部のプロ人材を交えた場で課題を整理できるのは、社内だけでは埋もれがちな問題を可視化するきっかけになります。特に小規模企業では、社長やベテランの頭の中にノウハウが集中し、業務が属人化しやすいです。課題を言語化できれば、従業員に任せられる範囲が広がり、人手不足の緩和にもつながります。さらに、行政の支援情報に触れることで、補助や専門家派遣など“使える外部リソース”を見落としにくくなります。
経営者の視点
参加の有無にかかわらず、このニュースから学べる要点は「DXは課題設定が8割」ということです。まずは、売上に直結する業務(営業、受注、請求、問い合わせ)を対象に、①手作業で時間がかかる、②ミスが起きる、③担当者が休むと止まる、のどれが一番痛いかを決めましょう。次に、その業務の流れをA4一枚に書き、入力する情報と出てくる成果物を整理します。ここまでできると、IT導入の選択肢(既製ソフト、外注、RPA(パソコン作業の自動化)、生成AI活用)を比較しやすくなります。外部人材は“丸投げ先”ではなく、社内の意思決定を速くする伴走役として使うのがコツです。守秘(秘密を守る約束)や成果物の所有、費用の上限も最初に決めておくと、後から揉めにくくなります。最後に、KPI(成果の指標)は「月末処理が何時間減るか」「問い合わせの初回返信が何分早くなるか」など、現場が実感できる数字にすると継続しやすいです。小さく試して早く学ぶ姿勢が、DXの成功率を上げます。
参考リンク
J-Net21:中小企業が外部の専門家と進めるDXのためのワークショップを福岡で開催
4. サステナビリティ開示のDX:GHG算定から開示までをデータで効率化
概要
日本総合研究所とPersefoni Japanは、温暖化ガス(GHG:二酸化炭素など)排出量の算定とサステナビリティ情報開示のDXを支援するサービスを開始しました。情報開示に必要なデータを集め、整理し、開示用の形にまとめるまでの業務を、クラウドサービスの活用と運用体制の構築によって効率化・高度化する狙いです。GHGだけでなく、サステナビリティ関連データの収集から開示までを一連で扱えるようにし、担当者の手作業や属人化を減らすことを目指します。言い換えると、「集計のための作業」を減らし、「経営判断に使えるデータ」に近づける取り組みです。
中小企業への影響
中小企業でも「取引先から排出量データの提出を求められる」場面が増えています。自社が直接上場していなくても、サプライチェーンの一部として情報提供を求められるためです。ここで紙やExcelの寄せ集めだと、締切前に担当者が疲弊し、数字の根拠が説明できずに信用を落としかねません。開示業務のDXは、単なる“報告のための作業”ではなく、エネルギーコストや物流のムダを見つける経営改善にもつながります。例えば、電力使用量のピークや配送の回数が見えると、コスト削減の打ち手が見つかりやすくなります。一方で、数字の作り方が曖昧だと「見せかけ」だと疑われるリスクもあるため、計算ルールと証跡(根拠資料)を整える必要があります。
経営者の視点
まずは、排出量の前に「データがどこにあるか」を把握するところから始めましょう。電気・ガス・燃料・物流・出張など、請求書や明細が出る領域を棚卸しし、誰が持っているかを明確にします。次に、集計の頻度(毎月か四半期か)と、承認の流れを決めます。担当者が兼務の場合は、締切直前に慌てないよう、締切日より前倒しの社内期限を置くのが現実的です。ここが決まると、ツール導入の効果が出やすくなります。小規模企業では、最初は完璧を狙わず、主要な項目から取り組む方が続きます。経営者は「数字を出すこと」だけでなく「数字の使い道」も決めたいところです。例えば、原価管理や設備投資の判断材料として使う、と決めるだけで社内の協力が得やすくなります。将来、金融機関や大手取引先からの要請が強まっても慌てないよう、早めに“開示の型”を作っておくことが、結果的にコストを下げます。早いほど有利です。
参考リンク
SmartGridフォーラム:サステナビリティ開示のDXを支援、日本総合研究所とPersefoni Japanが協業
5. 生成AIで基幹システム開発を改革:JCB×日本IBMが示した実務的な使い方
概要
JCBは日本IBMとAIパートナーシップを締結し、生成AIを活用して基幹システム開発を革新すると発表しました。日本IBMの生成AI技術「watsonx」を活用し、設計から開発、テストまでの全工程に生成AIを組み込み、従来の人手中心の開発スタイルを見直す方針です。具体例として、設計書からプログラム設計書やCOBOLコードを生成すること、テストケースやテストデータを自動生成することなどが挙げられています。発表では、一部システムで設計〜テスト工程において約20%の開発効率化を達成したとも述べています。
中小企業への影響
このニュースは「生成AI=文章づくり」から一歩進み、「システムづくりの生産性」そのものを変えに来ている点が重要です。大手の基幹システムは中小企業の取引や決済ともつながるため、開発が速くなるほど、新機能の提供や制度対応が早まる可能性があります。また、ソフトウェア開発の現場にAI活用が広がれば、受託開発やパッケージベンダー側のコスト構造も変わり、中小企業がより手頃に改善を依頼できる余地も出ます。反対に、AIの出力をうのみにして進めると、仕様の取り違えや品質低下、情報漏えいのリスクが増えます。特に、顧客情報や決済情報などを扱う業務では、セキュリティと監査の観点が欠かせません。便利さと統制(ルールづくり)を同時に進める必要があります。
経営者の視点
中小企業がすぐ真似できるのは、開発の“周辺作業”からAIで減らすことです。例えば、要件の整理、議事録の整形、テスト観点の洗い出し、手順書・マニュアル作成などは、効果が出やすい領域です。もし外注している場合でも、発注側が要求を文章で明確にできるほど、見積もりも納期も安定します。次に、AIを使うときは「どこまで入力してよいか」を決めましょう。顧客の個人情報、未公開の設計書、契約情報などは、扱い方を誤ると大事故になります。重要なのは、①機密情報をそのまま入力しない、②成果物は必ず人がレビューする、③利用する環境(社内アカウント管理やログ)を整える、の3点です。社内ルールを短い文章で作り、全員が守れる状態にしてから使うと失敗しにくくなります。AIは魔法ではありませんが、使い方次第で“開発待ち”の時間を縮め、DXのスピードを上げる武器になります。
参考リンク
IBM Japan Newsroom:JCB、日本IBMとAIパートナーシップを締結
まとめ
今回の5本に共通するのは、DXが「新しいツール導入」から「経営の土台づくり」へ広がっている点です。止まる前提で備える、データを出せる状態にする、外部の力やAIを上手に使ってスピードを上げる。この3つが、規模に関係なく効きます。
行動に落とすなら、次の流れがおすすめです。
- 今日から:60分の社内机上演習(障害時の連絡・代替手順・復元テストの段取りまで決める)
- 直近:売上に直結する業務を1つ選び、流れをA4一枚にして課題を言語化する
- 次の取引要請に備えて:電力・燃料・物流など、根拠資料が残るデータの置き場と担当を決める
- 小さく試す:議事録、要件整理、マニュアル作成など“周辺作業”からAIを使い、効果とリスクを見極める
DXは、一気に変えるほど失敗しやすいです。できるところから小さく始め、数字で効果を確かめながら前に進めましょう。次に注目したいのは、自治体・金融機関・大手取引先が求める「データ提出」の具体的な型と、現場の負担を減らす運用設計です。

