DXニュースまとめ(2025年11月28日〜12月4日)
2025年11月28日から12月4日にかけて、DX(デジタルトランスフォーメーション)をめぐる動きが日本国内で相次ぎました。国の防災政策、自治体向けSaaS、大企業の生成AI活用、製造現場の紙業務デジタル化、そして海外での農業DXなど、分野は多岐にわたります。
中小企業経営者が押さえておくべき重要なDXニュースは、「防災DXの本格推進」「自治体・地域DXの加速」「大企業による生成AI活用の具体化」「製造現場の紙業務DX」「海外での農業DXとカーボンクレジット」の5つです。これらは、今後の事業戦略や新サービス検討のヒントになる動きです。この記事では、それぞれのニュースの内容と、中小企業経営にとっての意味、経営者としてどのように活用すべきかをわかりやすく解説します。
1. 国の「防災DX」が加速:デジタル庁が最新資料を更新
概要
デジタル庁は、防災分野におけるDXの全体像をまとめた「デジタル庁における防災DXの取組」の資料を2025年12月2日に更新しました。防災分野のデータ流通促進、自治体による防災アプリ・サービスの調達支援、避難所でのデジタル技術活用、災害派遣デジタル支援チーム(D-CERT)の体制強化、防災DX官民共創協議会との連携など、5つの重点テーマが整理されています。災害時の情報共有と、住民一人ひとりに合わせた支援をデジタルで実現することが狙いです。
中小企業への影響
中小企業にとって、防災DXは「行政だけの話」ではありません。大規模災害が発生すると、従業員の安否確認、事業継続、取引先との連携など、多くの業務が行政の情報・サービスに依存します。防災アプリやデジタル避難所運営が進めば、企業としても社員情報の更新や拠点情報の登録など、日頃からのデータ整備が求められます。また、防災DXサービスマップやカタログに掲載される民間サービスが増えることで、BCP(事業継続計画)向けのクラウドサービスや安否確認システムなど、比較的低コストで導入できる選択肢も広がっていきます。
経営者の視点
経営者としては、まず自社の拠点がある地域の自治体サイトを確認し、どのような防災アプリ・サービスが紹介されているかをチェックすることをおすすめします。あわせて、
- 従業員の連絡先・居住エリア情報の最新化
- クラウドストレージへのマニュアル・重要書類の保管
- 非常時の連絡方法(チャット・メール・専用アプリなど)のルール化
といった自社内の「ミニ防災DX」を一つずつ進めることが重要です。自治体側のデジタル化が進むほど、企業側の準備をしているかどうかで、災害時の対応力に大きな差が出てきます。
参考リンク
2. 自治体・地域DXを支えるSaaSを独占販売:キヤノンビズアテンダが資本業務提携
概要
キヤノンマーケティングジャパングループのキヤノンビズアтенダ株式会社は、自治体向けSaaSを提供するイツモスマイルデジタルソリューションズ株式会社と資本業務提携を締結したと発表しました。2025年12月1日のニュースリリースによると、キヤノンビズアтенダは、公共交通ライドシェアシステム「まちのクルマ」、地域スーパーアプリ「さあ・くる」「ふるるんアプリ」、共助防災アプリ「みんなの防災」、電子回覧板アプリなどの自治体DX・地域DXを支えるSaaS製品について、日本国内での独占販売権を獲得しました。
中小企業への影響
この動きは、全国の自治体で住民向けデジタルサービスが一気に広がる可能性を示しています。たとえば、
- 住民向けスーパーアプリ内での店舗情報・クーポン配信
- 電子回覧板による地域情報共有
- ライドシェアや防災アプリとの連携による生活インフラの変化
など、地域でビジネスを行う中小企業にとっても、住民との接点が「紙・掲示板中心」から「スマホアプリ中心」に移る可能性があります。さらに、自治体のDXプロジェクトが増えることで、システム導入支援、デザイン、広報、運用サポートなどの周辺ビジネスにもチャンスが広がります。
経営者の視点
経営者としては、まず自社がある自治体で、こうしたスーパーアプリや電子回覧板、ライドシェアサービスが導入されているかを確認すると良いです。導入済みであれば、
- 店舗情報やイベント情報を掲載できるか
- 会員向けクーポンやポイント連携が可能か
- 防災情報や地域情報と連動したサービスを提供できないか
といった観点で、「地域アプリを自社の営業・顧客接点としてどう生かすか」を検討しましょう。まだ導入されていない自治体であれば、商工会議所や地元の事業者団体を通じて、行政側に情報提供を働きかけることも一つの手です。
参考リンク
キヤノンMJグループ:自治体・地域DXを推進するイツモスマイルデジタルソリューションズ社と資本業務提携
3. 東京ガス「TGXフォーラム」で生成AI活用事例を社内外に公開
概要
東京ガスは、社内のDX・AI活用事例を共有する「TGXフォーラム」を開催し、その様子が報道機関向けに公開されました。FNNの報道によると、電力価格や需要を予測するAI、業務効率化に役立つ生成AIの活用事例など、エネルギー事業の現場での具体的なDX・AI活用が数多く紹介されています。経営陣からは、データの蓄積とAI活用を中長期的な成長の柱として位置づけるメッセージも発信されました。
中小企業への影響
大企業の事例と思われがちですが、ここで示されているポイントは中小企業にも共通します。
- 現場の社員が自ら業務課題を見つけ、AIやデジタルツールで解決する
- その事例を社内で共有し、別部署にも横展開する
といった「現場起点のDX」が進んでいる点です。特に、需要予測・見積り・問い合わせ対応などの「読み・予測」が絡む業務は、企業規模を問わず生成AIと相性が良い領域です。大企業が先行して事例を積み上げるほど、ツールは標準化・低価格化していき、数年のうちに中小企業にも同じレベルのサービスが降りてくる可能性があります。
経営者の視点
経営者としては、「いきなり高度なAIシステムを入れる」よりも、まずは社内での小さな成功事例づくりに集中することが重要です。例えば、
- 営業日報や見積り作成を生成AIで下書きさせる
- 過去の受注データから、Excel+簡易なAIツールで傾向をつかむ
- 毎月1回、現場メンバーに「デジタルで改善できそうな業務」を持ち寄ってもらう
といった取り組みから始めるだけでも、「TGXフォーラム」のような社内DXイベントのミニ版を作ることができます。大企業の取り組みをそのまま真似するのではなく、自社規模に合わせてシンプルに落とし込む発想がポイントです。
参考リンク
FNNプライムオンライン:東京ガス「TGXフォーラム」に関する報道記事
4. オムロンとシムトップスが協業:製造現場の「紙業務」DXを本格推進
概要
オムロン株式会社は2025年12月4日、現場帳票システム「i-Reporter」を提供する株式会社シムトップスと協業し、製造業における紙帳票のデジタル化と現場DXを推進することを発表しました。オムロンのOCRソリューション「pengu」と、シムトップスの「i-Reporter」を組み合わせることで、紙帳票の自動デジタル化と、タブレットなどによるデジタル入力の両方をサポートし、現場での記録・転記・検索の負担を減らす仕組みを提供します。
中小企業への影響
製造業の中小企業では、今も紙の検査表・作業指示書・チェックシートが多く残っているケースが少なくありません。こうした紙業務は、
- 転記ミス・読み間違いによる品質問題
- ファイル保管や探し出す作業にかかる時間
- データ化の遅れによる改善活動の遅延
など、多くのロスを生みます。今回のような協業により、OCRによる自動読み取りと、現場向けの専用アプリを組み合わせた「段階的なデジタル化」の選択肢が広がることで、予算や人材が限られる中小製造業でも、紙業務のDXを現実的なステップで進めやすくなります。
経営者の視点
経営者としては、いきなりすべての帳票をデジタル化しようとするのではなく、「まずどの帳票からデジタル化すると効果が大きいか」を見極めることが重要です。例えば、
- 不良率改善に直結する検査記録
- 顧客クレーム対応で参照頻度が高い履歴
- 労務時間管理や安全に関わるチェックシート
などから優先順位を付けて、OCR+デジタル帳票の導入対象を絞ると、現場の負担も抑えつつ成果を出しやすくなります。紙とデジタルが混在する期間を前提に、「段階的に移行する計画」をあらかじめ描いておくと、現場の反発も軽減できます。
参考リンク
オムロン株式会社:オムロンとシムトップス、紙業務のDXを推進
5. 日本発の農業DXがバングラデシュへ:両備システムズが実証事業の成果を報告
概要
株式会社両備システムズは2025年12月4日、バングラデシュで実施してきた農業DXおよびカーボンクレジット創出に向けた実証事業の成果を現地政府などに報告したと発表しました。農業データプラットフォームの運用と、AWD農法と呼ばれる水管理手法の普及により、収量は20%以上向上し、メタン排出量は平均30%以上削減されたとしています。これらの結果は、農家の収益向上と温室効果ガス削減の両立につながると評価されています。
中小企業への影響
このニュースは海外案件ではありますが、日本の中堅・中小IT企業が持つDXのノウハウが、グローバルな社会課題の解決に生かされている好例です。農業データプラットフォームの構築や、現地の営農指導員と連携したデータ収集、カーボンクレジット創出に必要なデータ整理など、個別の技術要素自体は、日本国内の他業種でも応用可能です。たとえば、
- 製造業や物流業でのCO₂排出量見える化
- サービス業での省エネデータの取得と分析
- 地方自治体や農協との連携による地域DXプロジェクト
など、環境価値とデジタル技術を組み合わせた新しいビジネスモデルを考えるヒントになります。
経営者の視点
経営者としては、「海外展開」や「カーボンクレジット」が遠いテーマに感じられるかもしれませんが、まずは自社の業務において、
- どのデータが取れていないか
- 取れているデータをどこまで活用できているか
- 環境負荷や省エネと結びつけられる業務はないか
を整理するところから始めると良いです。そのうえで、取引先や自治体、業界団体が進める環境・DX施策に「データ提供側」「実証フィールド側」として参加する視点を持つと、新たなパートナーシップや事業機会につながります。海外での事例は、「自社の強みをどこまで外に広げられるか」を考えるきっかけとして活用しましょう。
参考リンク
アットプレス:両備システムズ、バングラデシュにおける農業DX実証事業の成果を現地政府等へ報告
まとめ
今回取り上げた5つのニュースから見えるのは、DXが「一部のIT企業の話」ではなく、行政、防災、エネルギー、製造業、農業、海外展開にまで広がっているという現実です。国の防災DXや自治体・地域DXの動きは、やがてすべての事業者にとって「前提条件」となる可能性があります。大企業の生成AI活用や製造現場の紙業務DXの事例は、数年後に中小企業にとっても標準的なやり方になるかもしれません。
中小企業の経営者としては、
- 自社が関わる行政・業界のDX政策やサービスを定期的に確認する
- 社内で小さなDX・生成AI活用の成功事例をつくる
- 紙やアナログ作業を「どこから減らせるか」を一つずつ洗い出す
- 環境・脱炭素の流れとDXを組み合わせた新しいビジネスを検討する
といった取り組みを、できる範囲から始めることが重要です。
DXは、一度にすべてを変える「大きなプロジェクト」ではなく、日々の業務を少しずつデジタルで改善していく積み重ねです。今回のニュースを、自社の現状と照らし合わせながら、「まず何から変えていくか」を考えるきっかけにしていただければと思います。次回以降も、経営判断や現場改善のヒントになるDX関連ニュースを取り上げながら、具体的な活用アイデアをお伝えしていきます。

