DXニュースまとめ(2025年12月26日〜2026年1月1日)
この期間は、DXが「大企業の派手な投資」だけではなく、現場の図面運用やバックオフィス、そして地域のデジタル支援体制まで広がっていることが分かる動きが続きました。
中小企業経営者が押さえておくべき重要なニュースは、「3Dモデル起点の製造改革」「生成AIで旅費精算を支援」「デジタル推進委員の拡充」「AI時代のインフラ投資」「大手通信の地域・中小企業DX注力」です。
どれも「明日から何を変えるか」に直結します。5つのニュースを、経営判断につながる形でまとめます。
1. 2D図面をやめて「3Dモデル起点」へ——北川鉄工所の全社改革
概要
総合機械メーカーの北川鉄工所は、設計の起点を2D図面から3Dモデルへ完全に切り替え、長年使ってきた2D CADの利用を終了しました。背景にあったのは、紙図面中心の運用だと「読み取りにくい・自動化しにくい」ため、人が介在する工程でヒューマンエラーが起きやすく、営業・設計・製造の連携にも時間がかかっていたことです。例えば、営業は紙図面を前提に打ち合わせが長引き、設計は加工段階で部品干渉が見つかり、製造は実機で干渉チェックを繰り返す――といった手戻りが発生していました。同社は2021年にDX戦略本部を設け、3Dモデルを軸にした「デジタル生産」へ舵を切りました。
取り組みは段階的です。まずモデリングルールを策定し、製品データ管理(PDM)と製品ライフサイクル管理(PLM)を整備。次に推進者を育成し、部門横断でデータ連携を強化。さらに3Dビューワーを含む全社活用環境を整え、CAM(加工)や検査、板金展開などに3Dデータを直接つなげ、加工プログラムの自動作成まで視野に入れています。
中小企業への影響
このニュースは「製造DXは現場の自動化だけではない」ことを示します。3Dモデルを中心に据えると、設計変更の伝達、部品表の整合、品質情報の共有がスムーズになり、見積・調達・製造のスピードが上がります。中小の製造業でも、取引先が3Dデータ前提になるほど、受発注や加工条件をデジタルで受け渡す力が競争力になります。加えて、属人的な“図面の読み替え”が減れば、技能継承や採用面でも有利です。
一方で注意点もあります。3D化はソフト導入だけでは進まず、設計ルール、教育、データ管理(版管理・アクセス権・バックアップ)の手間が必ず発生します。取引先や協力工場が2D中心の場合、当面は2D出力が必要になることも多く、移行期間の運用設計が欠かせません。
経営者の視点
経営者としては、3D化を「設計部門の効率化」で終わらせず、売上と品質の改善に直結させる設計が重要です。おすすめは次の順番です。①“手戻り”が大きい工程を特定する(干渉チェック、見積作成、治具設計など)、②対象製品を絞って3D化し、効果指標を決める(納期短縮、再加工件数、見積リードタイムなど)、③ルールと教育を先に決めて属人化を防ぐ、④データの置き場(PDM/PLMや共有基盤)を整え、版管理を徹底する。小さく始めて成功事例を作り、横展開するのが王道です。
参考リンク
DIGITAL X:総合機械の北川鉄工所、3Dモデルによるデジタル生産目指し全社で2D図面を撤廃
2. 旅費精算を生成AIで支援——札幌市の「AIエージェント」実証
概要
札幌市が、職員の庶務(総務)業務を対象に、生成AIとAIエージェントを使った業務改革の実証を始めました。テーマは「出張の旅費・経路・日当などの処理」です。出張は頻度が高い一方で、規程の確認、経路検索、申請書作成、精算チェックなど細かな作業が多く、担当者と承認者の双方に負担がかかりがちです。今回の実証では、庶務事務システムに生成AIを組み込み、職員が自然な言葉で条件を入力すると、必要情報の整理や申請の下書き作成を支援する仕組みを検証しています。さらにAIエージェント(複数手順の作業をまとめて進める仕組み)により、入力漏れの指摘、添付書類の確認、承認者が見るべきポイントの要約など、後工程の負担を減らすことも狙っています。
ポイントは「旅費」という“ルールが多い定型業務”を選んだことです。例外条件(役職、移動手段、宿泊上限、複数人出張など)が多い業務ほど、単純なRPAよりも、言葉で確認できる生成AIが相性良くなります。
中小企業への影響
自治体がバックオフィスに生成AIを組み込む動きは、民間企業にも波及しやすいです。特に中小企業では、経理や総務が少人数で回っているため、「旅費精算」「稟議」「契約書の一次レビュー」など定型業務の負担が大きくなりがちです。生成AIは、ゼロから自動化するよりも、既存のシステムや帳票の“入力補助・チェック補助”として入れると効果が出やすいのが特徴です。また、自治体の取り組みは監査や説明責任を前提に設計されやすく、導入時のガバナンス(ルール・ログ・承認フロー)の考え方を学べます。
一方で、AIに任せきりは危険です。旅費規程や取引条件のように「会社固有のルール」を参照できないと誤った案内につながりますし、個人情報や機密情報の扱いも要注意です。外部サービスを使う場合は、入力する情報の線引き、利用ログの保存、誤回答の通報ルートをセットにしてください。
経営者の視点
経営者としては、生成AIを“全社導入”で一気に広げるより、バックオフィスの一業務を選んで小さく試すのが現実的です。おすすめは、①旅費精算の入力項目を標準化し、例外パターンを棚卸しする、②よくある質問(経路、日当、宿泊上限など)を社内ルールとして1枚にまとめる、③AIに渡す情報を限定し、最終判断は人が行う、④誤りが出たケースを蓄積して改善する――の流れです。AIは“担当者の代わり”ではなく、“担当者のミスを減らす道具”として位置づけると効果が安定します。
参考リンク
マイナビニュース:札幌市が旅費関連の庶務業務改革、生成AIとAIエージェント活用の実証
3. デジタル推進委員の資料更新——地域の“人的インフラ”が厚くなる
概要
デジタル庁は、地域でデジタル活用を後押しする「デジタル推進委員」に関する募集・広報資料を更新しました。デジタル推進委員は、身近な相談相手としてデジタルサービスの使い方を支援し、困りごとを吸い上げて改善につなげる役割を担います。対象は行政サービスに限らず、デジタル機器やオンライン手続の利用が広がる中で、利用者がつまずきやすい場面を減らすことが期待されています。デジタル庁は、活動内容や参加方法をまとめたポータルを用意し、委員向けの情報発信も進めています。地域のデジタル格差(使える人と使いにくい人の差)を埋める“人的インフラ”として位置づけられている点が特徴です。
中小企業への影響
一見すると行政の取り組みに見えますが、中小企業にとっても他人事ではありません。理由は3つあります。1つ目は、行政手続のオンライン化が進むほど、事業者側も電子申請・デジタル証明・オンライン決済などに慣れる必要が出てくること。2つ目は、地域のデジタル相談体制が整うと、従業員や顧客の“デジタル不安”が減り、サービス提供や採用活動の障壁が下がることです。3つ目は、社外のデジタル支援者が増えるほど、地方でのDXプロジェクト(自治体・商工団体・学校など)に企業が参加しやすくなることです。
例えば、自治体の手続がオンライン前提になると、総務担当の作業は「紙を集める」から「データを整える」へ変わります。社内の申請・証明書管理を紙のままにしていると、外部はデジタルなのに社内だけ手作業、というムダが生まれます。逆に、電子化が進めば、遠隔勤務や兼務でも回るバックオフィスに近づきます。
経営者の視点
経営者としては、「行政がデジタル化するから対応する」ではなく、これを機に社内のデジタル基礎体力を上げるのが得策です。具体的には、①行政手続で頻出する書類や情報を棚卸しし、最新版をデータで管理する、②電子署名やオンライン申請に必要な権限管理(誰が申請し、誰が承認するか)を整える、③社員向けに“最低限のデジタル手続き”の手順書を作る、④地域の相談窓口や推進委員の情報を把握し、困ったときの連絡先を決める――を進めると実務が安定します。加えて、若手社員が推進委員の活動に触れると、社外のデジタル課題を学べます。学びを社内に持ち帰る仕組みを作ると、人材育成にもつながります。まずはできる範囲で。
参考リンク
4. AI時代は「インフラ」が勝負——ソフトバンクGのDigitalBridge買収
概要
ソフトバンクグループが、データセンターや通信タワーなどのデジタルインフラ投資を手がけるDigitalBridgeを買収すると発表しました。企業価値は約40億ドル規模とされ、取引完了は2026年後半を予定しています。DigitalBridgeは通信タワー、データセンター、ファイバー、スモールセル、エッジインフラなど幅広い領域を対象に、投資・運営に関わる運用会社です。報道では、運用するインフラ資産が1,080億ドル超とされ、日本ではインフラシェアリング企業のJTOWERを買収している点も紹介されています。発表では、AIが産業を大きく変える中で、計算資源(コンピュート)や通信(コネクティビティ)、電力、拡張性の高い基盤が必要になり、次世代AIデータセンターの土台を強化する狙いが示されました。買収後もDigitalBridgeは独立した運営体制で事業を継続するとされています。
中小企業への影響
一見すると大企業の投資ニュースですが、DXの“足回り”に直結します。クラウドや生成AIの活用が広がるほど、裏側ではデータセンターやネットワークの増強が進み、サービスの性能・安定性・価格に影響します。中小企業にとっては、AIやクラウドがさらに身近になり、業務システムの高度化(需要予測、問い合わせ対応、画像検査、文書要約など)を選択肢に入れやすくなる可能性があります。加えて、エッジインフラが整うと、工場・店舗など現場側で低遅延に処理するサービスが増え、IoT活用が現実的になります。
その一方で、インフラ依存が強まるほど、障害時の業務停止リスクや、特定ベンダーに寄りすぎるリスクも増えます。重要業務ほど、SaaS任せにしない業務継続(BCP)の設計が必要です。通信やクラウドが止まると、受注・決済・サポートが一斉に止まる会社も珍しくありません。
経営者の視点
経営者としては、「AIを使うかどうか」より先に、「AIやクラウドに乗せても事業が止まらない設計」を考えることが重要です。具体的には、①重要データのバックアップと復旧手順を決める、②クラウド停止を想定した代替手段(手作業の最低限フロー、ローカル保管、別サービス)を用意する、③通信障害時の連絡手段を複線化する、④コストが上がったときに縮退できる運用(利用量の監視、契約の見直し手順)を整える――が実務的です。インフラ投資が加速するほど、便利さと同時に“依存の管理”が競争力になります。
参考リンク
Impress Watch:ソフトバンクグループ、デジタルインフラ投資のDigitalBridgeを買収
5. 大手通信が「地域・中小企業DX」を重点領域に——NTTドコモ年頭所感
概要
NTTドコモが、2026年1月1日付で年頭所感を公表しました。メッセージでは、生成AIなど技術革新で常識や産業構造が急速に書き換わる中、法人分野でAIやクラウドを活用したDXがさらに加速し、社会や産業の変革を支える役割への期待が高まっていると述べています。また法人事業の重点領域として、AI、IoT、デジタルBPO(業務をデジタル前提で受託・代行する考え方)、地域・中小企業DXを挙げ、これらが成長しグループを牽引したとしています。通信面では、AIによる最適化などでサービス品質を高め、5G基地局の構築も加速する方針が示されました。災害時の通信確保やレジリエンス強化にも言及しています。
中小企業への影響
大手通信が「地域・中小企業DX」を重点領域に掲げるのは、DXが一部の大企業だけの話ではなく、裾野が確実に広がっているサインです。中小企業にとっては、クラウド、ネットワーク、セキュリティ、IoTなどを“まとめて設計”できる外部パートナーやサービスが増え、導入のハードルが下がる可能性があります。特に、現場データを集めるIoTや、問い合わせ対応・営業支援などのAI活用は、少人数組織ほど効果が出やすい分野です。デジタルBPOも、単なる外注ではなく、入力・処理・可視化までを一気通貫で任せられる形に近づけば、社内のボトルネックを解消しやすくなります。
一方で、選択肢が増えるほど「自社に必要なDXの範囲」が曖昧だと迷いやすくなります。通信・クラウド・業務代行が一体になると便利ですが、契約が複雑になり、解約や移行の難易度が上がることもあります。導入前に“出口”(データの持ち出し、移行手順、契約期間)を決めておくことが重要です。
経営者の視点
経営者としては、「何をDXするか」を技術起点ではなく、事業起点で言語化してください。おすすめは、①売上を伸ばす(顧客対応、営業、マーケ)②粗利を守る(生産性、在庫、品質)③止めない(BCP、セキュリティ)――の3つに分け、優先順位を決めることです。その上で、AIやIoT、デジタルBPOを使う場合でも、社内に“判断の基準”を持つ必要があります。要件はシンプルで構いません。「どのデータを、誰が、どの頻度で使い、失敗したら何が困るか」を決めるだけで、提案の良し悪しが見えるようになります。外部パートナーに任せるほど、経営者が設計図を握る姿勢がDXの成功率を上げます。
参考リンク
まとめ
今回のニュースで強く感じるのは、DXが「ツール導入」から運用と土台づくり(ルール・データ・人)へ移っていることです。
- 製造業は、3Dモデルを起点にデータ管理まで含めて変える段階に入っています。
- 生成AIは、旅費精算のような定型業務で“入力補助・チェック補助”として現実的に効き始めています。
- 地域のデジタル支援体制が整うほど、企業側も行政手続や採用の面で動きやすくなります。
- AI時代はインフラ投資が進み、便利になる一方で、依存リスクの管理が重要になります。
- 大手も「地域・中小企業DX」を重点領域に据え、選択肢は増えています。
行動に落とすなら、まずは次の3つだけで十分です。
- 自社の“手戻り”が大きい業務を1つ決める(見積、旅費、受発注など)
- ルールとデータの置き場を先に決める(最新版、権限、版管理)
- 止まったときの手順を決める(バックアップ、代替手段、連絡系統)

