マーケティングニュースまとめ(2025年08月27日〜09月02日)
マーケティング分野では、データとAIを起点に“買われる理由”を解像度高く捉え、広告や販促を購買に近い指標で意思決定する流れが加速しています。SNSでは「何を伝えるか」の質が改めて問われ、制作と計測の生産性もテーマになっています。
中小企業経営者が押さえておくべき重要なニュースは、①電通の購買者可視化ツール「People PALETTE」提供開始、②フェズの新SSP「Urumo Moment」発表とtenki.jp連携、③「中の人」個人発信に対する生活者の評価を示した最新SNS調査、④アドビが公表した“チャネル別効果把握に課題”というマーケター実態、⑤サイバーエージェント「極予測TD」のMicrosoft広告対応です。これらは顧客理解の解像度向上、購買に寄った配信設計、SNS運用の質の再定義、計測と制作の生産性向上、検索在庫の多様化という5つの観点で意思決定に直結します。記事では、それぞれが小規模企業の売上づくりにどう効くかを、具体的な“次の一手”とともに解説します。
1. 電通「People PALETTE」始動—購買ログ×生成AIで“買われ方”が見える化
概要
電通は、独自の大規模意識調査データと小売・ECの購買ログを生成AIで統合し、ブランドや商品の購買場所ごとの購買者像を可視化するツール「People PALETTE」の提供を開始しました。108項目のプロファイル(例:情報収集家、テレビLover、社会貢献意識など)をベースに、コンビニ・スーパー・ドラッグ・オンライン等のチャネル別に“誰が買っているか”まで把握でき、店頭陳列や販促、商品開発、メディアプラン最適化に活用できるとされています。テレビ視聴ログなど他データとの連携で、購買者と相性の良いメディア選定まで射程に入るのが特長です。
中小企業への影響
小規模でもPOSやECの販売実績と、来店・閲覧の属性情報を統合する発想が重要になります。特に同じ商品でもチャネルで買い手が変わる点は価格設定やSKU構成、配送条件に直結します。例として、コンビニで動く少量・即食サイズとECで伸びるまとめ買い/限定フレーバーでは、訴求コピーと画像を変えるべきです。小売側が提供するインサイトやID-POS連携の広告枠(リテールメディア)も、より“買う人ベース”のターゲティングへ進むため、限られた広告費でも無駄打ちを抑えられます。プライバシー面では、許諾取得済みデータのみを使うこと、社内の取り扱いルール整備が必要です。
経営者の視点
まず「売れている場所×顧客像」を仮説化し、販路別に商品・価格・表現を最適化しましょう。可能なら主要販路のID-POSレポートやオーディエンスデータの提供有無を確認し、棚割り・販促・広告を一気通貫で設計。自社では、購入者アンケートや会員登録時の簡易プロファイルで“人となり”の一次データを貯め、来季の開発やクリエイティブに反映させると投資回収が早まります。小規模でも、表計算で「販路×客層×商品」マトリクスを作り、差分に合わせてLP・店頭POP・DMを三者三様に作り分けるだけで成果が変わります。そのうえで、テレビ・ラジオ・動画など到達の大きい媒体は「買う確率が高い層に寄せる」出稿に切り替え、短期の獲得と中長期の想起づくりの両立を図りましょう。
参考リンク
電通、生成AIを用いて独自大規模調査と購買ログデータを統合し …
2. フェズが新SSP「Urumo Moment」を発表—購買データでメディア価値を可視化、第一弾は「tenki.jp」
概要
リテールメディア事業のフェズは、媒体社の広告枠に専用タグを設置するだけで購買データに基づく“メディア価値の見える化”と高品質なブランド広告配信を可能にする新SSP「Urumo Moment」を9月から提供すると公表。第一弾として天気予報サイト「tenki.jp」と連携し、購買データ連動の評価・販売を強化します。媒体側の収益向上と、広告主の購買に近い指標での出稿判断を両立させる狙いです。従来の「リーチやクリック中心」の評価から、購買シグナル重視の売買へ移行が加速します。
中小企業への影響
天気・気温・降雨などの気象トリガーと購買傾向が結び付く商材(冷温飲料、レイン用品、季節家電、衣料、医薬品など)では、配信の無駄が減り少額でも効果検証がしやすい環境になります。媒体の“閲覧者の多さ”ではなく「買う確率」で枠を選べるため、CPA管理がラクになります。一方で、細かいセグメントに依存し過ぎると学習が進まない/在庫が持たないリスクがあり、上位クリエイティブのABテストと配信幅の確保を両立させる運用設計が必要です。
経営者の視点
まず自社の天候感応度を棚卸しし、需要が動く条件(最高気温、体感温度、雨量、花粉、気圧等)と売上の関係を確認。該当するならテスト出稿の条件を「○mm以上の降雨」「最高気温○度超」「注意報発令時」などで定義し、天候別のCVRと獲得単価を可視化しましょう。クリエイティブは“いま必要”を想起させるコピー(例:突然の雨→レイングッズ)に刷新。得られた示唆は実店舗POP・EC特集・メールにも横展開し、チャネル横断のOMO販促で回収速度を上げます。導入の初期は、指名検索・店舗来店・EC売上のいずれに効いているかを分けて追跡し、相関→因果の順に検証しましょう。個人情報の取り扱いは媒体/事業者のポリシーに準拠し、同意取得と匿名加工の仕組みを確認しておくと安心です。
参考リンク
フェズ、SSP機能「Urumo Moment」の提供を開始へ 第1弾として「tenki.jp」と連携
3. 「中の人」個人色の発信は4割が不要—7,246人調査が示す“価値ある情報”への期待
概要
メンバーズの調査によると、生活者の40.7%が企業SNSの「中の人」の個人的な発信を不要と回答。若年層は平均4.7個のアカウントを使い分け、目的に応じてプラットフォームを選択する傾向が明確です。フォロー解除理由としては「期待する情報が得られない」「広告色が強い」「投稿頻度が高すぎて煩雑」などが上位に挙がりました。好感につながるのは、生活に役立つ信頼できる情報提供であり、運用の巧拙そのものより中身の質が重視されています。担当者の“キャラ”は武器にもなりますが、顧客価値と整合しなければ逆効果です。
中小企業への影響
“キャラ立ち”より顧客価値に直結する情報設計が重要です。製品改善の裏側、使い方の具体例、FAQの可視化、納期・在庫の正確な案内、導入事例の数字など、意思決定に効く情報を優先しましょう。発信頻度は質>量を徹底し、プラットフォームごとに役割を分担(例:Xは速報、Instagramはビジュアル、YouTubeはHowTo、LINEはCRM)。コメントやDMへの応答SLAを決め、問い合わせの取りこぼしを防ぎます。
経営者の視点
まず「誰に/何を解決する情報か」を定義し、コンテンツピラー(製品アップデート、ユースケース、顧客の声、業界トレンド等)を3~5本に整理。各ピラーごとにKPI(保存率・プロフィール遷移率・問い合わせ数)を設定し、不要発信を減らします。さらに、ネガティブ反応の多い投稿は速やかに撤回・修正し、編集方針を運用ドキュメント化。撮影テンプレ・構図・尺を統一し、生成AIは台割作成や校閲に限定。SNSを“広報”から実需獲得の導線へと再設計しましょう。効果検証は週次の基本指標(リーチ・保存・リンククリック)と月次の商談・受注の二階建てで見ると、現場の頑張りが売上にどう効いたかを判断しやすくなります。個人発信に頼らずともブランドボイスの一貫性で差別化できます。炎上予防の観点では第三者チェックを導入し、法令・景表・薬機の観点も簡易レビューしましょう。
参考リンク
生活者の40.7%が企業SNS「中の人」発信を不要と回答 若年層は…
4. アドビ調査—日本の8割のマーケターが“チャネル別効果把握”に課題、コンテンツ需要増で人材ひっ迫
概要
アドビの最新調査では、約8割の日本のマーケターがチャネル別の効果把握に課題を感じ、コンテンツ需要の拡大に対して制作体制・人材面の不足を抱えている実態が示されました。媒体横断での計測・評価、コンテンツ量産と品質担保、生成AIの活用設計などがボトルネックです。結果として、チャネルごとの成果貢献の見える化と、制作オペレーションの変革が急務といえます。特に短尺動画・UGC活用・パーソナライズ配信の比重が増し、制作→配信→学習のサイクル高速化が競争力になります。
中小企業への影響
限られた人員ではやるチャネルを絞ることが成果の近道です。目的別に「検索=顕在需要」「SNS=想起・比較」「メール=CRM」「リテールメディア=購買接点強化」と役割を定義し、1本のコンテンツを複数フォーマットに再利用する“コンテンツリパーパス”で制作負荷を圧縮。計測はGA4+広告管理画面+CRMの三点で“流入→獲得→LTV”を最低限トラッキングし、媒体別のROAS/CAC/CVRを月次で可視化します。生成AIはサマリ生成、見出し・CTAのバリエーション出し、構成案の起案に限定すると、品質と速度のバランスが取れます。
経営者の視点
制作は内製100%に固執せず、テンプレ化と外部パートナーの併用でボトルネックを解消。編集カレンダーを営業と共有し、商材・在庫・季節の要因を販売計画起点でコンテンツに落とし込むとムダが減ります。問い合わせから受注までのリード管理の定義(MQL→SQL→受注)を営業と合意し、どのチャネルが売上に効いたかをパイプラインで評価できる体制を整えましょう。さらに、帰属モデルは最後のクリックに偏らないよう注意し、実験計画法で配分最適化を進めると投資効率が上がります。人材については、編集・デザイン・運用を兼務させず役割を分け、外部は単価×納期×品質で比較表を作成。著作権・生成AIの利用規程を社内で明文化し、素材・フォント・音源の出典管理もルール化すると、炎上や差し止めのリスクを抑えられます。
参考リンク
アドビ調査、日本マーケターの8割がチャネル別効果把握に課題 コンテンツ需要拡大で人材不足が深刻に
5. サイバーエージェント「極予測TD」がMicrosoft広告に対応—検索連動型広告のコピー生成を拡張
概要
サイバーエージェントのAI広告テキスト自動生成/効果予測ツール「極予測TD」が、Microsoftの検索連動型広告に対応しました。これによりGoogleに加えBing検索でも、入札・キーワード状況に応じたコピーの自動生成と事前予測が可能になります。先行検証では品質スコアや関連性の向上事例が報告され、運用型広告の改善サイクル短縮が期待されます。検索面の多様化が進む中、非Googleの検索在庫をどう活用するかが差になる局面です。
中小企業への影響
Bingの検索占有は業界・年代で偏りがあるものの、法人PCの既定ブラウザ等で一定の到達が見込めます。少予算でも高頻度のA/Bテストが回せ、在庫状況や価格改定などの外部変動に合わせてコピーが自動最適化される点は、担当者の工数削減に有効です。自動生成コピーは法令・表現規制やブランドトーンの逸脱リスクがあるため、承認フローとNGワード辞書の整備は必須。アカウント構造のシンプル化(広めの一致・広告カスタマイザ活用)とも相性が良いです。
経営者の視点
まず既存の検索広告でBing配信のシェアとCPAを確認。パフォーマンスが見合うなら、極予測TDや同等の生成AI活用を段階導入し、否定KW/入札調整/LP改善とセットで検証しましょう。成果の判定はCVR・品質スコア・クリック単価の三つを主指標にし、ブランド毀損の監視(人手レビュー、突発NGの即時停止)も運用ルールに組み込みます。最終的には検索×SNS×ディスプレイのクリエイティブを統合管理し、学習成果をチャンネル横断で再利用できる体制が理想です。あわせて、フィード連携(在庫・価格)やプロモーション期間のスケジュール配信を併用すると、広告文の鮮度が保てます。少人数の体制では自動入札×自動クリエイティブ×自動レポートの三位一体化で“運用の自動化率”を指標化すると、生産性改善が見える化できます。
参考リンク
サイバーエージェント、AI広告テキスト生成「極予測TD」が …
まとめ
生成AIと購買データの統合、購買に近い指標での出稿、SNS運用の再設計、計測と制作の省力化、検索在庫の拡張——いずれも限られた予算と人員でも成果を伸ばすための実装論です。まずは①販路別の顧客像を仮説化、②天候など需要トリガーに沿った少額テスト、③SNSのコンテンツピラーとKPIの再定義、④計測基盤と制作フローの標準化、⑤Bing配信と自動生成コピーの試験導入、の5点から着手してみてください。
次回も、経営に直結するマーケティングの最新動向を、実務で使えるチェックリストとともにお届けします。