DXニュースまとめ(2025年6月13日〜6月19日)
2025年6月13日から19日にかけて、日本国内ではデジタルトランスフォーメーション(DX)に関する注目すべきニュースが相次ぎました。本記事ではその中から5つのトピックを取り上げ、中小企業経営者の皆様に向けてポイントをわかりやすく解説します。政府のデジタル政策から大企業のDXサービス、新たな調査結果や人材育成の動きまで、いずれも中小企業にとって他人事ではない重要な内容です。それぞれのニュースから、自社のDX推進に活かせる示唆や備えるべき変化を読み取っていきましょう。
1. 政策:「デジタル社会の実現に向けた重点計画」閣議決定
概要
2025年6月13日、政府はデジタル社会形成基本法に基づく「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定しました。この計画は行政手続の簡素化、人工知能(AI)の積極活用、官民データ連携強化の3本柱を掲げ、社会全体の利便性向上と国際競争力強化を目指すものです。例えば、マイナンバーを活用した手続オンライン化や自治体・省庁で共通利用できるAIサービス開発など、官民を通じたデジタル改革が盛り込まれています。急速に発展する生成AIやサイバーセキュリティ対策にも重点が置かれ、国全体でDXを推進する方向性が明確に示されました。
中小企業への影響
一見「行政の話」で自社には関係ないように思えますが、この重点計画は中小企業にも間接的な影響があります。行政サービスのデジタル化が進めば、各種許認可申請や手続きがオンラインで簡便になり事務負担が軽減されるでしょう。また政府がAIやデータ活用を国家戦略として推進することで、今後企業にもデジタル対応やデータ連携が求められる場面が増えると予想されます。計画には「デジタル原則の徹底」や「制度・業務・システムの三位一体の改革」といった方針も含まれており、これは取引や報告の電子化など企業活動のルールも変化していく可能性を意味します。中小企業も行政のDXの流れに乗り遅れないよう、今のうちから準備を進める必要があります。
経営者の視点
経営者として注目すべきは、DXが一過性のブームではなく国の長期方針になったことです。今後、デジタル化やAI活用に関する補助金・支援策が拡充されるチャンスも高まるでしょう。まずは社内のアナログ業務を洗い出し、行政サービスのオンライン化に対応できるようにしましょう。また、政府が推奨するデータ標準やセキュリティ基準など新たなガイドラインが出てくる場合は、自社システムをそれに合わせてアップデートしていくことが重要です。「デジタル社会」の実現は自社の業務効率化や新サービス創出にもつながるとの視点で、積極的に情報収集と対応策の検討を行ってください。
参考リンク
PSRネットワーク ニュース:「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を決定
2. 動向:製造業DX調査 – 日本はAI投資に慎重、世界との差鮮明
概要
DXの進展状況に関する興味深い調査結果も発表されました。米ロックウェル・オートメーション社の2025年版「スマートマニュファクチャリング報告書」によると、日本の製造業は工場のデジタル化(スマートファクトリー)への関心・導入意欲自体は非常に高く、回答企業の94%が「DXを加速している」と答え世界最高水準でした。しかし、実際のAIなど先端技術への投資決定は世界平均より遅れ気味という結果が出ています。例えばAI/機械学習に投資・計画している企業は世界95%に対し、日本は89%と調査国中最も低い水準でした。特に生成AIなどへの投資では、日本企業は「既に投資済み」が43%にとどまり、5年以内計画を含めても91%と、これも世界最低層です。意欲はあるものの組織的・文化的な障壁で踏み切りが遅れ、DXの勢いが鈍化している様子が浮き彫りになっています。
中小企業への影響
この調査は主に製造業の大企業が対象ですが、日本企業全体のデジタル化の課題を示唆しており中小企業にも当てはまる点が多いでしょう。世界ではAIやクラウド、セキュリティへの投資が当たり前になりつつある中、日本の企業は様子見や慎重姿勢が目立ちます。中小企業の場合、大企業以上に人的リソース不足やノウハウ不足で導入を躊躇しているケースが多いかもしれません。しかし裏を返せば、海外に比べて遅れている部分にこそ競争力強化の伸び代があるとも言えます。自社がまだAI活用や業務システムのデジタル化に踏み出せていないなら、この差を埋めることが今後の成長機会になるでしょう。また、日本企業は「DXで魅力的な職場を作る意欲」は世界最高水準とのデータもあり、労働力不足の中で働き方改革とセットでDXに取り組む土壌はあります。中小企業も世界のトレンドを意識しつつ、自社の規模でも実現可能な範囲から一歩踏み出すことが大切です。
経営者の視点
調査結果から、「関心はあるが意思決定に時間をかけすぎる」日本企業の傾向が見えてきます。経営者としては、慎重さも必要ですが重要な技術投資に関してはスピード感を持つことが競争力の鍵です。AIやクラウドなどの導入で効果が見込める領域は、小さな実証実験(PoC)でも良いのでまず試してみる行動力が求められます。幸い最近は安価で試せるクラウドAIサービスや、専門知識がなくても扱えるツールも増えています。また社内のDX推進で障壁となるのは組織文化や人材不足です。トップ自らがDXへのコミットメントを示し、社員のリスキリングを支援することで社内の心理的ハードルを下げましょう。世界に比べ慎重な風土があるからこそ、経営トップの号令でDXの一歩を踏み出すことが、中小企業の将来を左右すると言っても過言ではありません。
参考リンク
DIGITAL X(Impress)ニュース:「日本は製造DXの導入意欲は高いもののAIなどへの投資に遅れ」
3. 新サービス:NTTコミュニケーションズ、中小企業向け生成AIツール提供開始
概要
大手通信事業者のNTTコミュニケーションズは、中堅・中小企業のDX推進を支援する生成AIサービス「Stella AI for Biz」を2025年6月16日から提供開始しました。このサービスは社内新規事業プログラムから生まれたスタートアップ(SUPERNOVA社)との協業で生み出されたもので、企業が生成AI(対話AIや画像AIなど)を業務に活用しやすくするプラットフォームです。複数の最新AIモデル(GPTやClaude、国内開発の「tsuzumi」等)を搭載し、用途に応じて使い分けが可能なうえ、WordやExcel、ブラウザに組み込める拡張機能も備えています。利用企業のデータが勝手にAI学習に使われない安全設計で、導入時のガイドライン策定から研修まで手厚いサポートも提供。料金は1ユーザーあたり月額1,980円(税込)で、専任IT担当者がいない中小企業でも導入しやすいサービスとなっています。
中小企業への影響
生成AI(ChatGPTのようなAI技術)は注目されつつも、「どう導入すれば良いか分からない」「情報漏洩が不安」「社内に詳しい人がいない」といった理由で活用が進んでいない中小企業も多いでしょう。Stella AI for Bizの登場は、こうしたハードルを下げてくれる追い風と言えます。専門知識がなくても使いやすいUIやテンプレートが用意され、さらに導入後の支援まで付いているため、自社でゼロからAI環境を構築するより格段に取り組みやすくなります。例えば営業資料の自動要約や、多言語メールの翻訳、社内データを使ったレポート自動作成などが手軽に実現でき、少人数でも業務効率化やサービス向上を図れる可能性があります。大企業だけでなく中小企業にも手が届く価格設定であることから、今後は生成AIの活用が一気に中小企業にも広がる契機になるかもしれません。
経営者の視点
経営者としては、「AIは難しそうだし高価では?」という先入観を改め、具体的な業務課題の解決ツールとして生成AIを検討してみる良いタイミングです。まずはこのようなサービスを使い、社内の定型業務や情報整理にAIを試用してみましょう。NTTグループの提供という安心感もありますし、自社データが外部に漏れない配慮もなされているため、情報管理の観点からも導入しやすいはずです。導入時には社員へのトレーニングや利用ルール策定も必要ですが、Stella AI for Bizではガイドライン作成支援や相談窓口も用意されているため、積極的に活用すると良いでしょう。競合他社が先にAIで効率化を進めれば大きな差になります。「まずは小さく試して効果を検証する」という敏捷性を持って、新しいデジタルツールを経営に取り入れていくことが求められます。
参考リンク
NTTコミュニケーションズ プレスリリース:「中堅・中小企業のDXを支援する生成AIサービス提供開始」
4. 人材育成支援:都と民間が中小企業のDXリスキリング推進(費用補助あり)
概要
DXを進める上で人材育成も欠かせません。6月19日には、AI人材育成事業を手掛ける株式会社SIGNATEが中小企業向けDXリスキリングプログラムの提供開始を発表しました。これは東京都中小企業振興公社が主催する「スタートアップを活用したリスキリングによる中小企業デジタル化支援事業」の一環で、採択された中小企業は1社あたり最大100万円までの受講費用が無料になる支援があります。SIGNATEは実践的なDX人材育成に強みを持つ企業で、提供講座には「生成AI・DXリテラシー基礎」「Excelデータ活用と生成AI活用」「Pythonによるデータ分析実践」など、中小企業の社員が即戦力スキルを身につけられる内容が揃っています。このプログラムを通じて、多くの中小企業社員が最新のデジタル知識やAI活用スキルを習得することが期待されています。
中小企業への影響
DXを進めたくても「社内に詳しい人がいない」「IT人材の採用が難しい」という声は中小企業でよく聞かれます。今回のような支援策は、既存社員のスキルアップでその課題を解決するチャンスです。特に費用補助が出るため、予算面のハードルも下がります。社員が生成AIやデータ分析を学べば、日々の業務改善のアイデアが生まれたり、外注に頼らず社内でデジタル施策を回せる部分が増えたりするでしょう。経済産業省が策定した「DXリテラシー標準」では、すべての社会人が身につけるべき基礎DX知識が示されていますが、中小企業でもこうしたデジタルリテラシーの底上げが急務になっています。今回のプログラムは東京都の事業ですが、他の自治体や国レベルでも類似の人材支援策が拡大する可能性があります。社員の学び直し(リスキリング)に積極的に乗り出す企業が、結果的にDXで成果を上げやすくなる流れが強まりそうです。
経営者の視点
経営トップとして、人材への投資はDX成功のカギと心得ましょう。設備やソフト導入だけでは使いこなせず宝の持ち腐れになりがちです。補助金などを活用できる今こそ、社員をデジタル研修に送り出す決断をしてください。「業務が忙しくて研修に出せない」という場合もあるかもしれませんが、長い目で見れば人材のスキルアップは業務効率の向上や新サービス創出となって返ってきます。特に今回の講座群には生成AIの活用法やデータ分析の基礎といった、どんな業種でも役立つ内容が含まれています。経営者自身もDXの基礎を学び直してみると、現場を見る目が変わり意思決定がしやすくなるでしょう。社内に「DX人材」を育て評価する仕組みを作っている企業も出始めています(例:素材メーカーのデクセリアルズ社では社員のDXスキルレベルを可視化し活用促進を図っています)。人材育成なくしてDXなし――社員とともに学ぶ姿勢で、自社のDX推進力を高めていきましょう。
参考リンク
PR TIMES(SIGNATE):中小企業向けDXリスキリングプログラム提供開始(東京都事業)
5. 事業転換事例:カクヤス、物流DXで配送効率30%向上へ – 老舗酒販がプラットフォーム企業に変貌
概要
首都圏で酒類の宅配販売「なんでも酒やカクヤス」を展開してきたカクヤスグループが、大胆なDX戦略による事業再編を進めています。6月の発表によれば、同社は2025年7月に社名を「ひとまいる」へ変更し、酒屋から“物流プラットフォーム企業”へと本格転換する計画です。背景には若者の酒離れなどで酒類市場がピーク時の半分以下に縮小した現状があり、これを第二の創業期と位置付けて物流分野に活路を見出す戦略です。DX面では社内にデジタルイノベーションセンターを新設し、現場経験者とデータ専門人材を融合したチームで自社配送網の高度化に取り組んでいます。受注・在庫情報や顧客ニーズをAIで分析し、最適な配車やルートを動的に割り当てる配送管理システムを導入したところ、シミュレーションでは配送効率が30%向上するという結果が得られたとのことです。一部の地域では2025年6月から試験運用も始まっています。
中小企業への影響
カクヤスのケースは、自社の強みとDXを掛け合わせてビジネスモデルそのものを転換する大胆な例です。中小企業でも、市場環境の変化に直面することは少なくありません。その際、単に縮小均衡を図るのではなく、デジタル技術を活用して新しい収益モデルを構築する発想が重要だと示唆しています。カクヤスは元々自前の配送網という資産を持っていましたが、DXでそれを洗練させ外部にも開放することで物流プラットフォームという新領域に踏み出しました。中小企業も、自社資源とITを組み合わせれば他社に真似できないサービス提供が可能になるかもしれません。例えば老舗小売店がECやデータ分析で顧客体験を向上したり、製造業がIoTで新たな保守サービスを始めたりといった展開です。またカクヤスはDX推進にあたり基幹システムのクラウド化や社内データ基盤整備にも着手しています。レガシーシステムのままでは柔軟な挑戦が難しいため、中小企業もIT基盤のモダナイズを進めることで将来のビジネス展開に備える必要があります。
経営者の視点
この事例から得られる教訓は、DXは単なる効率化ツールではなく新規事業創造の原動力になり得るということです。経営者は「自社は規模が小さいから大胆なことは無理」と思いがちですが、市場が縮小傾向にある業界ほど発想転換が求められます。まずは自社の強み(カクヤスの場合は迅速配送網)とデジタル技術を掛け合わせて、お客様に新たな価値提供ができないかを考えてみましょう。さらに実行段階では、カクヤスのように現場の知見とデータサイエンスを融合させる組織づくりもポイントです。社員を横断的に集めたDX推進チームや外部専門家の活用も選択肢に入れてください。もちろん、既存業務の効率化も忘れてはいけません。AIを使った需要予測や配送ルート最適化のように、データに基づく判断でムダを減らすDX施策を積み重ねれば、たとえ市場が厳しくとも利益を生み出す余地が広がります。経営トップが旗を振り、DXで事業の再成長シナリオを描くことが中小企業にも求められています。
参考リンク
ECのミカタ:カクヤスグループ新戦略発表(酒販から物流プラットフォーム企業へ)
まとめ
2025年6月第3週のDX関連ニュースを5つご紹介しました。政府のデジタル重点計画の閣議決定は、行政手続きのオンライン化やAI活用など国家レベルでDXが進む方向を示しています。日本企業のDX動向調査からは、世界に比べ慎重な姿勢が浮き彫りになりましたが、裏を返せばこれから伸ばせる余地が大いにあることも分かります。NTTコミュニケーションズの生成AIサービス提供や、東京都のDX人材リスキリング支援など、中小企業が具体的にDXに取り組みやすくなる環境整備も進んでいます。そしてカクヤスの例に見るように、DXは現状の効率アップにとどまらず事業そのものを再定義しうる力を持っています。
中小企業の経営者にとって重要なのは、これらの動きを他人事と捉えず自社の戦略に活かすことです。国のデジタル政策や支援策にアンテナを張り、有用なものは積極的に活用しましょう。社内のデジタル人材を育成し、小さな成功体験からDXを社風として根付かせることも大切です。また、自社の強みとテクノロジーを組み合わせて新たな価値を創出できないか、常に経営目線で発想する柔軟さが求められます。DXの波は待ってくれませんが、中小企業ならではの機動力で俊敏に対応すれば、大企業にない強みや地域密着の価値で勝負できます。今回のニュースをきっかけに、自社のDX推進計画をアップデートし、時代の変化を味方につけていただければ幸いです。各種支援策や先進事例も参考に、ぜひ自社ならではのデジタル化への次の一歩を踏み出してみてください。