2026年2月20日から2月26日にかけて報じられた、DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する注目ニュースを5本厳選してお届けします。地方銀行による100億円規模のDX投資と企業向け支援、政府のAI活用戦略、中小製造業のDX推進、サイバーセキュリティの最新動向、そして大手流通グループの現場主導型DX事例まで、中小企業の経営者の皆さまに役立つ情報をわかりやすく解説します。
1. ひろぎんHD、DXに100億円投資——銀行が企業向け「DX支援コンサルティング」を開始
概要
広島銀行を中核とするひろぎんホールディングスが、DX関連に100億円規模の投資を決定し、2025年4月に行内で「DX支援コンサルティング」組織を新設しました。石原和幸執行役員(DX統括部長)のもと、グループ社員3700名のうち80%にITパスポート取得を義務化し、すでに66%が取得を完了しています。受験費用は全額法人負担とし、試験会場も社内に特別設置するなど、全社員のデジタルリテラシー底上げに本格的に取り組んでいます。従来の金融業務にとどまらず、自行で培ったDXの知見を地域企業に還元するという新しいビジネスモデルへの転換を図っており、地方銀行の枠を超えた戦略として注目を集めています。広島県などの自治体補助制度とも連携し、地域全体のデジタル化推進を後押しする姿勢を打ち出しています。
中小企業への影響
この動きは地方の中小企業にとって大きなメリットがあります。これまでDXを進めたくても、地方ではIT専門のコンサルティング企業が少なく、相談先が限られていました。取引先の銀行窓口でDX支援が受けられるようになれば、相談のハードルは格段に下がります。融資取引の延長線上でDX相談ができるため、費用面での心理的抵抗も軽減されるでしょう。また、銀行が保有する財務データとDX支援を組み合わせることで、投資対効果の可視化もしやすくなります。全社員のITリテラシー向上施策は、従業員規模の小さい中小企業にこそ参考になるモデルです。ITパスポートのような基礎資格の取得推奨が取引先にも波及すれば、地域全体のデジタル基盤が底上げされる可能性があります。
経営者の視点
中小企業の経営者にとって、この事例から学ぶべきポイントは「DXは特定部署の仕事ではなく、全社員の共通課題にする」という姿勢です。まず取引先の地銀やメインバンクがDX支援サービスを提供していないか確認してみましょう。そのうえで、自社でもITパスポートなど基礎的なIT資格の取得を奨励し、費用補助制度を設けることが有効です。経営者自身がデジタルツールの基礎を学びリーダーシップを示すことで、社員の意識も変わりやすくなります。ただし、銀行のDX支援は始まったばかりであり、支援品質には差がある可能性もあります。複数の情報源を比較し、自社に最適なパートナーを選ぶ視点を持つことが大切です。資格取得が目的化して実務に結びつかない「形だけのDX」にならないよう、実務での活用を意識した運用設計も欠かせません。
参考リンク
JBpress:DXに100億円投資のひろぎんHD、企業向けの新事業「DX支援コンサルティング」を銀行で始めた納得の理由
2. 松本デジタル相「世界で最もAIを活用しやすい国に」——官民一体の成長戦略を発表
概要
松本デジタル大臣は2月17日に開催されたDigital Space Conference 2026において、「世界で最もAIを活用しやすい国にする」と宣言しました。デジタル庁が17分野の重要課題に対応する包括的な成長戦略を策定し、官民一体でAI基盤の整備とサイバーセキュリティの同時強化を推進する方針を示しています。AI活用における倫理的フレームワークと透明性の確保を重要視し、「責任ある企業姿勢」と「経営透明性」の2本柱で国際競争力を高める考えです。インドやASEAN、アフリカ市場を視野に入れたグローバル展開にも言及し、日本がAI開発ではなくAI活用の分野で独自のポジションを築く戦略を描いています。国全体のデジタル人材育成にも注力する姿勢を示しました。
中小企業への影響
政府がAI活用推進を明確に打ち出したことで、中小企業向けのAI関連補助金や支援施策の拡充が期待できます。AI活用の環境整備が進めば、クラウド型AIサービスの低価格化が加速し、中小企業にも手が届きやすくなるでしょう。2026年度から名称変更された「デジタル化・AI導入補助金」など、具体的な支援制度もすでに動き始めています。一方で、サイバーセキュリティの同時強化方針は、中小企業にもセキュリティ投資を促す圧力となります。AI活用の倫理やガバナンスの枠組みが整備されれば、中小企業もAI導入の判断材料が増え、導入のリスクを見積もりやすくなります。デジタル人材の育成支援策が拡充されれば、人材確保が難しい中小企業にとっても追い風となるはずです。
経営者の視点
中小企業の経営者は、この政府方針を「対岸の火事」とせず、自社のAI活用戦略を考えるきっかけにすべきです。まず政府のAI活用支援策や補助金制度の最新情報をこまめにチェックしましょう。自社の業務プロセスの中でAI活用による効率化が見込める領域を棚卸しし、優先順位をつけることが第一歩です。AI活用にあたっての社内ルールやガバナンス体制の整備も早い段階で進めておくことが重要です。従業員のAIリテラシー向上に向けた研修計画の策定も視野に入れましょう。ただし、政府方針は大枠であり、中小企業向けの具体的施策が出そろうまでにはタイムラグが生じる点には留意が必要です。AI活用を急ぐあまり、セキュリティやプライバシーへの配慮が後回しになるリスクにも注意してください。地域の支援機関やよろず支援拠点との連携を強化し、最新の情報を得られる体制を整えておくことをお勧めします。
参考リンク
ITmedia ビジネスオンライン:「世界で最もAIを活用しやすい国に」松本デジタル相が語る「官民一体」の成長戦略
3. 中小製造業こそDXすべき理由——必要なのは「やりたいこと」の明確化
概要
製造業専門メディアのMONOistが、新特集企画「X THEME」を2月18日から配信開始しました。各分野の業界有識者3名が集結し、横断的にDX課題を議論する新しい報道形式で、初回テーマは「中小製造業のDX推進」です。300名以上が参加登録するなど高い関心を集めています。記事では、DX推進において最も重要なのはツールの選定ではなく「やりたいこと」の明確化であると指摘しています。多くの企業がDXを進める際に「どのツールを入れるか」に議論が集中し、「何を実現したいか」が置き去りにされがちな現状を問題提起しています。「欲しい機能」と「実現方法」を混同することがDX失敗の典型パターンであり、出発点は経営課題の解決に置くべきだと強調しています。
中小企業への影響
この記事が示す視点は、とりわけ中小製造業にとって重要な意味を持ちます。少人数で多能工的に運営される製造現場では、自動化やIoT導入の恩恵が大企業以上に大きいとされています。大規模なシステム投資がなくても、クラウド型のSaaS(月額課金型のソフトウェアサービス)を使えば小さく始めることが十分可能です。人手不足に悩む製造現場こそ、デジタル化による省力化の効果が直結します。社員50名以下の企業であっても、生産管理や在庫管理のデジタル化は比較的取り組みやすい領域です。業界横断的な情報交換の場に参加すれば、他社の成功事例や失敗事例から学ぶ機会も得られます。大切なのは「まず何を改善したいか」を明確にすることであり、それさえあればDXの第一歩を踏み出すことができます。
経営者の視点
製造業の経営者がまず取り組むべきは、自社の経営課題を棚卸しし、「DXで何を解決したいか」を自分自身の言葉で明確にすることです。いきなり大規模投資をするのではなく、小さな領域から試験的にデジタル化を始めるアプローチが有効です。現場の社員から業務上の困りごとをヒアリングし、ボトムアップでDXテーマを抽出すれば、的外れな投資を避けられます。製造業向けのDXセミナーやウェビナーへの参加も、最新事例を学ぶ良い機会です。また、「デジタル化・AI導入補助金」など公的な支援制度の活用も積極的に検討しましょう。注意すべき点として、ベンダーの提案をそのまま受け入れると自社に合わないシステムを導入してしまうリスクがあります。現場社員の理解や協力を得ずにトップダウンで進めると定着しにくいため、社員を巻き込んだ推進体制の構築が成功への近道です。DXは一度きりのプロジェクトではなく、継続的な改善活動として位置づけることが肝要です。
参考リンク
MONOist:必要なのは「やりたいこと」だけ 中小製造業こそDXすべき理由
4. サイバー攻撃被害「10億円以上」が初報告——セキュリティ人材・予算不足がより深刻に
概要
KPMGジャパンと日本経済新聞社が共同で実施した「サイバーセキュリティサーベイ2026」(国内上場企業424社が回答)において、サイバー攻撃による被害額が「10億円以上」となったケースが初めて報告されました。1億円以上の被害を受けた企業の割合は前回調査の8.0%から10.1%に増加しており、被害の高額化が年々進んでいます。攻撃手法別ではランサムウェアによる実被害が6.9%で最も多く、委託先・取引先を経由した被害も10.8%と高い水準です。フィッシング攻撃の検知率は49.2%に達する一方、生成AIを悪用した自然な日本語の詐欺メールやディープフェイク(偽造動画・音声)による新たな詐欺も出現しています。セキュリティ予算が不足と回答した企業は63.2%に上り、人材・予算の両面での対策強化が急務となっています。
中小企業への影響
この調査は上場企業が対象ですが、中小企業にとっても深刻な示唆を含んでいます。大企業のサプライチェーン(取引網)に連なる中小企業が攻撃の踏み台にされるケースが増えており、取引先から「セキュリティ対策状況の報告」を求められることも増えています。セキュリティ専門人材が社内にいない中小企業では、外部のマネージドセキュリティサービスの活用が現実的な選択肢です。IPAが推進する「サイバーセキュリティお助け隊サービス」は月額数千円から利用可能で、不正通信の監視やインシデント発生時の対応支援を受けられます。サイバー攻撃を受けた場合の事業停止リスクは、経営体力の小さい中小企業ほど致命的な影響をもたらします。ランサムウェアの被害は企業規模を問わず発生しており、「うちは小さいから狙われない」という考えは通用しません。
経営者の視点
経営者はサイバーセキュリティを「IT部門の課題」ではなく「経営リスク」として認識する必要があります。まず自社のセキュリティ対策状況を棚卸しし、OSやソフトウェアの最新アップデートの適用を徹底しましょう。重要データのバックアップ体制を構築し、ランサムウェア被害に備えた復旧手段を確保することも不可欠です。委託先や取引先のセキュリティ体制も確認し、サプライチェーン全体での防御力を高める視点を持ちましょう。「デジタル化・AI導入補助金」のセキュリティ対策推進枠など、公的な支援制度も活用できます。セキュリティ対策は一度実施して終わりではなく、脅威の進化に合わせて継続的に更新していく姿勢が求められます。従業員のセキュリティ意識が低いままでは、どれだけ技術的な対策を施しても人的ミスから被害が発生します。定期的な社員教育と訓練を実施し、組織全体の防御力を高めることが重要です。
参考リンク
IT Leaders:サイバー攻撃被害「10億円以上」が初報告、セキュリティ人材/予算不足がより深刻に
5. イオン、1000人が生成AIにトライ——DXを「現場の自分事」に変える方法
概要
イオングループでは、グループ各社から希望者1000人が生成AIの活用にチャレンジする取り組みを実施しています。推進役のイオンICT企画チーム・デジタルアカデミー責任者である沖中優宜氏によると、プロトタイプ作成トレーニングを通じて約200名が卒業し、非エンジニアの社員が2カ月の集中講座でアプリのプロトタイプを開発する成果を上げています。2010年以降の人口減少により「画一的な施策では生き残れない」という危機感が出発点にあり、各現場が顧客に向き合い独自の商品企画や業務効率化を考える必要性が高まったことが背景です。トップダウンのDXだけでは対応しきれない現状を踏まえ、現場社員が「自分事」としてDXに取り組む文化を醸成するアプローチを採用しています。社員講師による社内勉強会の定期開催など、継続的な学びの場も設けています。
中小企業への影響
イオンは大企業ですが、「現場主導型DX」のアプローチ自体は中小企業にこそ応用しやすい特徴があります。生成AIを使えば、プログラマーが社内にいなくても簡易的な業務アプリを作ることが可能な時代になりました。社員講師方式のナレッジシェアは、外部講師を招く予算がない中小企業でも低コストで実践できます。「まず使ってみる」という精神は、投資規模の小さい中小企業のDX推進に特に有効なアプローチです。小売・サービス業の中小企業は顧客接点が多く、AI活用による業務改善の効果が出やすい分野です。現場社員にデジタルツールを触る機会を与え、自主的な改善提案を促すことで、組織全体のDXリテラシーが自然と向上していきます。ボトムアップのDX推進は社員のモチベーション向上にもつながり、人材定着の面でもプラスの効果が期待できます。
経営者の視点
この事例から中小企業の経営者が学ぶべき最大のポイントは、「まず経営者自身が生成AIを触ってみる」ことです。ChatGPTやCopilotなどのサービスは無料または低コストで試すことができ、どんなことが可能かを体感するだけでも視野が広がります。社員の中からデジタルに関心のある人材を見つけて社内DXリーダーに任命し、生成AIの社内利用ルールを策定して社員が安心して活用できる環境を整えましょう。社内勉強会やワークショップを定期的に開催し、学びの場を継続的に提供することが定着の鍵です。現場から上がってくるDXアイデアを評価し、小さく試す仕組みも重要です。注意点として、生成AIの業務利用には情報漏洩リスクがあるため、機密情報の取り扱いルールを事前に定める必要があります。また、一時的なブームで終わらせないために、継続的な学習機会の提供と成果の可視化を心がけましょう。「完璧なシステム」を求めず、「まず試す」「改善を重ねる」というアジャイルな姿勢でDXを進めることが成功への道です。
参考リンク
JBpress:グループ各社で1000人が生成AIにトライ、イオンはいかにDXを「現場の自分事」に変えたのか
まとめ
今回ご紹介した5本のニュースからは、DXが「特別なプロジェクト」から「日常的な経営活動の一部」へと変化している流れが明確に見て取れます。地方銀行がDX支援コンサルティングに乗り出し、政府がAI活用を国家戦略の柱に据え、中小製造業のDX推進が本格的に議論されています。同時に、サイバーセキュリティの脅威は深刻化しており、DX推進とセキュリティ対策を両輪で進める必要性が高まっています。イオンの事例が示すように、DXの鍵を握るのは最先端技術ではなく、現場の一人ひとりが「自分事」として取り組む文化づくりです。中小企業の経営者の皆さまにとって、今回のニュースが自社のDX推進を考える一助となれば幸いです。補助金や公的支援制度も充実してきていますので、できるところから一歩ずつ取り組んでいきましょう。

