マーケティングニュースまとめ(2025年12月10日〜12月16日)
マーケティングは「広告を出す」だけの話ではなく、顧客との関係づくりや、データの扱い方、そして“伝え方”そのものが大きく変わっています。2025年12月10日〜12月16日に公開されたニュースの中でも、中小企業経営者が押さえておくべき重要なトピックは、①LINEヤフーの広告統合とAIエージェント構想、②世界広告費の成長見通し、③スポーツ視聴データを活用するデータクリーンルーム、④Z世代の「アテンション・デトックス」志向、⑤メディアを俯瞰できるポジショニングマップ公開、の5つです。
本記事では、それぞれのニュースを「何が起きたか」だけでなく、「小規模経営で何に効くか/何に注意すべきか」まで噛み砕いて整理します。忙しい中でも判断がブレないよう、最後に具体的な行動のヒントもまとめます。
1. LINE広告とYahoo!広告が統合へ:「LINEヤフー広告」誕生とAIエージェント構想
概要
LINEヤフーは「Connect One構想」の進捗として、2026年春頃にLINE広告とYahoo!広告を統合し、新しい広告プラットフォーム「LINEヤフー広告」として刷新すると発表しました。あわせて、LINE公式アカウントを中心にAIエージェントを実装し、CX(顧客体験)の高度化とマーケティング運用の効率化を狙う方針です。すでに共通ログインの「ビジネスID」統合が進み、複数サービスを1つのIDで扱える土台を整えた上での“大きな統合”といえます。
中小企業への影響
統合で広告の管理が一本化されると、少人数でも出稿・改善を回しやすくなる可能性があります。特に、LINE公式アカウントを起点に、配信→会話→予約・購入までを一連で考えやすくなるのは強みです。一方で、統合に伴う仕様変更により、これまでの「勝ちパターン」が通用しない場面も出ます。配信面(どこに広告が出るか)や最適化(AIが何を優先して学ぶか)が変わると、クリック単価や獲得単価が揺れます。広告費が小さい会社ほど、数日〜数十日のブレでも利益に直撃します。「知らないまま迎える」ことが最大のリスクです。
経営者の視点
ここで効くのは、広告テクニックより“事業の土台”です。私は次の3点を先に固めることをおすすめします。
- 商品・サービスごとの粗利と、広告に回せる上限額(生涯価値=LTVも含む)
- 問い合わせ〜成約までの導線(フォーム、電話、LINE、来店など)
- 「良い見込み客」の定義(成約率が高い条件、平均単価、継続率など)
AIエージェントが賢くなるほど、入力(目的、商品情報、顧客情報)が弱い会社は成果が伸びません。統合の前に、社内でKPI(重要指標)を言語化し、広告・SNS・営業の評価軸を揃えておくと、変化が来ても判断がブレなくなります。加えて、LINEで集めた問い合わせや来店履歴など、自社で持てる「一次データ(自社データ)」を丁寧に残し、少額でも定期的にテスト出稿して学習を継続する体制を作りましょう。
参考リンク
Web担当者Forum:2026年春頃「LINEヤフー広告」誕生、次世代AIエージェント構想も発表
2. 世界広告費が初の1兆ドル超へ:電通グループの成長率予測が示す“勝ち筋”
概要
電通グループは世界56市場のデータを基に、「世界の広告費成長率予測」の最新値を公表しました。2025年の世界広告費は成長率5.5%、広告費は9,891億米ドルとし、2026年は5.1%増で約1兆392億米ドルとなり、初めて1兆米ドルを超える見通しです。内訳ではデジタル広告費が2025年に6,684億米ドル、構成比は67.6%まで高まる予測も示されました。地域別でも全体としてプラス成長を維持し、日本は2025年に3.7%増、2026年に2.9%増と安定成長が続く見立てです。
中小企業への影響
広告市場が伸びる局面では、大企業は投資を増やし、競争が一段と激しくなります。結果として、人気のキーワードや配信面は入札が上がり、同じ予算で取れる反応が減ることがあります。中小企業は「同じやり方で予算を増やす」よりも、勝てる領域に集中するのが現実的です。具体的には、①指名検索(社名・商品名で探される状態)を増やす、②既存客の再購入・紹介を増やす、③地域や商圏を絞って効率を上げる、の3つです。デジタル比率が高まるほど、広告だけでなく、サイト・店舗・問い合わせ対応まで含めた“体験の一貫性”が差になります。
経営者の視点
この予測を「広告費が増える=広告をやれば良い」と読むのは危険です。むしろ、広告が当たり前になるほど、広告以外の差別化が効きます。私は、次の順番で投資配分を見直すことを勧めます。
- まず商品力と価格設計(誰に、何を、いくらで)
- 次に顧客体験(問い合わせの早さ、説明の分かりやすさ、アフターフォロー)
- 最後に集客(広告・SNS・紹介)
広告は“拡声器”です。中身(提供価値)が弱いと、拡声器で弱点が広がります。逆に中身が強ければ、小さな予算でも伸びます。市場が伸びるタイミングこそ、自社の強みを言語化し、勝ち筋(狙う顧客・使う媒体・伝える一言)を絞り込む決断が利益を守ります。数字で言えば、広告費の増減よりも「成約率」と「粗利率」を先に動かすほうが、手元に残るお金は増えやすいです。
参考リンク
MarkeZine:電通グループ、2026年の「世界の広告費成長率予測」最新値を発表 初の1兆ドル超となる見通し
3. スポーツ×データ活用が加速:電通・電通デジタル×DAZNの「データクリーンルーム」構築
概要
電通と電通デジタルは、スポーツ配信サービスDAZNと協業し、「DAZN Open Marketing Engine(DOME)」を構築したと発表しました。特徴は“データクリーンルーム”を活用する点です。データクリーンルームとは、個人情報をむやみに持ち出さず、決められたルールの中でデータを突き合わせて分析できる安全な環境のこと。視聴データと企業側の保有データを安全に掛け合わせ、広告配信や効果測定(広告が売上や来店にどう効いたか)の精度を上げる狙いがあります。
中小企業への影響
「大手の話で自社は関係ない」と思われがちですが、実は逆です。個人情報保護の意識が高まるほど、従来の“なんとなく”のターゲティングは難しくなります。今後は、①自社で集めた顧客データ(会員、購買、問い合わせ)を、適切に同意を得て活用する、②外部データは安全に連携し、成果を数値で検証する、という方向に市場が寄っていきます。たとえば地域のスポーツチームを応援する店舗でも、「観戦層に届いたか」「観戦後に来店が増えたか」を説明できると、広告費の無駄が減ります。逆に、データの取り扱いが曖昧なままだと、信用リスクが一気に上がる点には注意が必要です。
経営者の視点
経営者として押さえるべきは、「データを集める」より先に「使える形で整える」ことです。おすすめは次の3つです。
・顧客データを1つにまとめる(ExcelでもOK。重複や表記ゆれを減らす)
・同意の取り方を明文化する(フォームや店頭で、何に使うかを短く説明)
・効果測定の指標を固定する(売上だけでなく、問い合わせ単価、成約率など)
大きな仕組みは大手が先に作りますが、利益が出るかは“足元の運用”で決まります。データ活用は魔法ではありません。自社の顧客理解を深めるための道具として、無理のない範囲で整備を進めましょう。まずは「誰に何を売りたいか」を紙に書き出し、必要なデータだけを集めるところからで十分です。
参考リンク
MarkeZine:電通デジタルとDAZNがデータクリーンルーム「DOME」を構築 スポーツ視聴データを活用したマーケティングを推進
4. Z世代は「アテンション・デトックス」へ:SHIBUYA109 lab.の2026トレンド予測
概要
SHIBUYA109エンタテイメントの「SHIBUYA109 lab.」は、2026年のトレンド予測を発表しました。キーワードは「アテンション・デトックス」。情報が多すぎて疲れる時代に、スマホやSNSから距離を取り、頭を休めたいという欲求が強まっているという見立てです。あわせて、オフライン回帰(リアルの場での体験を求める動き)や、心と体を整える“セルフケア”への関心が高まる兆しも示されました。
中小企業への影響
中小企業のマーケティングは「SNS投稿を増やす」「広告を回す」など“足し算”になりがちです。しかし、受け手が疲れているなら、足し算だけでは逆効果になります。これからは、短い時間で要点が伝わる情報設計が重要です。たとえば、①メニューや価格を迷わず選べる、②予約や問い合わせが1分で終わる、③説明文が長すぎない、④写真や図で一目で理解できる、などです。LINEの通知やメールも、送る回数より「内容の分かりやすさ」を優先すると反応が上がります。さらに、オフラインの体験価値が上がるなら、店舗・現場での接客、商品説明、アフターフォローがそのまま“広告”になります。ネットで集客しても、現場でがっかりされると、次の来店はありません。
経営者の視点
経営者ができる具体策はシンプルです。
・発信を減らすのではなく、一本の投稿・一枚のチラシの密度を上げる(結論→理由→次の行動)
・「不安をあおる」「急かす」表現を減らし、安心できる材料(実績、手順、保証、よくある質問)を増やす
・顧客が迷うポイントを減らす(選択肢を絞る、比較表を作る、所要時間を明記する)
アテンション・デトックス時代は、“静かな信頼”が強くなります。大きな声で目立つより、必要な人に必要な情報を届ける設計が成果に直結します。まずは自社のWebサイトやSNSを見直し、読んだ人が「疲れない」導線になっているか、スマホで30秒だけテストしてみてください。
参考リンク
MarkeZine:SHIBUYA109 lab.「SHIBUYA109 lab. トレンド予測 2026」を発表 「アテンション・デトックス」がキーワードに
5. 55のメディアを“同じ物差し”で比較:ビデオリサーチ「メディアポジショニングマップ2025」公開
概要
ビデオリサーチのシンクタンク「ひと研究所」は、生活者が各メディアを「どういうときに使うか」を俯瞰できる資料として、「メディアポジショニングマップ2025」の一部を公開しました。テレビ、動画配信(定額見放題=SVOD/広告付き無料=AVOD)、SNS、音声メディアなど、55の映像・動画プラットフォームや音声メディアを同一フレームで整理し、横並びで比較できるのが特徴です。2025年版では新たに“利用者の気持ち”の要素を追加し、より深い分析ができるようにしたとしています。
中小企業への影響
中小企業は「どの媒体に出せば良いか」で迷いがちですが、媒体選びの前に必要なのは“目的の整理”です。認知を広げたいのか、来店を増やしたいのか、採用を強化したいのか。目的が違えば、向くメディアも変わります。このマップの価値は、媒体名や流行ではなく、利用シーン(通勤中、家でくつろぐ、作業しながら等)で考える視点をくれる点です。結果として、無理に新しいSNSに飛びつくより、自社の顧客がいる場所に合わせて、広告・発信・販促物を最適化しやすくなります。中小企業は“全部やる”と薄くなります。だからこそ、主戦場を1〜2メディアに絞り、残りは補助として使う発想が現実的です。まずは3か月で検証しましょう。
経営者の視点
私は、メディア選定を「予算」から入らないことをおすすめします。まずは、次の3つを紙に書き出してください。
- 狙う顧客(年齢、地域、悩み)
- 伝える一言(何が解決できるか)
- 最後に取ってほしい行動(来店、見積もり、相談予約)
その上で、顧客がその情報を受け取りやすい“場面”を想像し、メディアを選ぶと失敗が減ります。たとえば、作業中に「ながら」で触れられるなら音声、家で比較検討するなら長めの動画やWeb、移動中なら短い動画やSNS、という具合です。マップのような俯瞰資料を使い、媒体選びを「感覚」から「仮説」に変えることが、限られた広告費を守ります。
参考リンク
ビデオリサーチ:ひと研究所「メディアポジショニングマップ2025」最新版レポートを公開しました
まとめ
2025年12月10日〜12月16日の動きを振り返ると、マーケティングは「媒体の話」から「体験とデータの設計の話」へ、より一層シフトしているのが分かります。広告統合やデータ連携の高度化が進む一方で、受け手は情報過多に疲れ、シンプルで誠実な伝え方が求められています。
中小企業がここから取るべき行動は、派手な施策よりも次の3点です。
- KPIを決め直す(成約率・粗利・リピートなど、経営に効く指標に絞る)
- 一次データを整える(顧客情報・問い合わせ履歴を“使える形”で残す)
- 伝え方を磨く(短く、迷わせず、安心材料を増やす)
数字で検証しながら、小さく試して、良いものだけを残す。これだけで、広告費の無駄も、現場の疲弊も減ります。次回も引き続き、最新の動きを「中小企業の実務」に落として解説していきます。

