マーケティングニュースまとめ(2025年11月26日〜12月2日)
マーケティングの世界では、AI・データ活用・広告の品質・テレビCMの効果測定・越境ECといったテーマで大きな動きが相次ぎました。国内外のトレンドが一気につながりつつあり、中小企業のマーケティングにも直結する内容が増えています。
中小企業経営者が押さえておくべき重要なニュースは、カンターによる2026年マーケティングトレンドの発表、TOPPAN×Treasure DataのハイブリッドCXサービス、JICDAQのデジタル広告課題意識調査、ノバセルによるテレビCMの指名検索分析、FUSION JAPANの中国EC・SNSデータ可視化サービスです。これらを知っておくことで、自社のマーケティング投資の「打ち手」と「優先順位」がはっきりしてきます。
以下で、それぞれのニュースのポイントと中小企業への示唆をわかりやすく解説します。
1. 2026年マーケティングトレンド:AI時代にブランドが取るべき戦略とは
概要
世界的なマーケティングデータ企業カンターは、2026年のマーケティングを形作る10のトレンドをまとめたレポート「Marketing Trends」を発表しました。2025年11月28日に公開されたこのレポートでは、AIエージェントの拡大、生成エンジン最適化(GEO)、リテールメディアネットワーク(RMN)、クリエイティブ×データ、インクルーシブなブランド表現などが主要テーマとして挙げられています。特に、AIが商品推薦や検索の入口になることで、「AIに自社ブランドをどう認識させるか」が新たな勝負どころになると指摘しています。
中小企業への影響
このレポートはグローバル企業向けにも見えますが、中小企業にも直結します。まず、生成AIやAIエージェントが前提の時代には、公式サイトやECページ、レビューの質がそのまま「AIへの入力」になります。情報が整理されていない会社は、そもそも候補に挙がらないリスクがあります。また、RMN(小売りの広告枠をデジタル的に販売する仕組み)の成長により、ECモールや小売チェーンの広告枠の重要性がさらに高まります。限られた広告費を「なんとなくのバナー」ではなく、購買に近い場の広告に投じる発想が欠かせなくなります。
経営者の視点
経営者としては、「AI時代に選ばれるブランドになる準備」が必要です。
- まず、自社サイトやECの商品ページに分かりやすい商品説明・FAQ・レビューが揃っているかを確認しましょう。
- 次に、「どの媒体に広告を出しているか」だけでなく、どの接点でどんなストーリーを伝えているかを見直すことが重要です。
- 小さくても良いので、新しい媒体や表現を試す“実験枠”を毎年必ず確保する、といったルールを決めてしまうのも有効です。
トレンドを全部追う必要はありませんが、「AIにどう見られているか」「どの場でお客さまに見つけてもらうか」を意識した設計に切り替えていくタイミングだと言えます。
参考リンク
2. TOPPAN×Treasure Data:デジタルとDMを自動連携するハイブリッドCXサービス
概要
TOPPANとトレジャーデータは、Treasure Data CDPで統合した顧客データと、DM・サンプリング・コンタクトセンターなどTOPPANのリアル施策を自動連携し、デジタルとリアルを組み合わせたハイブリッドCX(顧客体験)を実現する新サービスを11月27日から提供開始しました。AIが「Marketing Super Agent」として最適なシナリオを設計し、Web閲覧やメール開封といったオンライン行動に応じて、最適なタイミングでDM発送やコールセンター連携を行う仕組みです。
中小企業への影響
サービスそのものは大企業向けの色が強いものの、示している方向性は中小企業にもそのまま当てはまります。
- 顧客データをバラバラに管理していると、「誰に」「どのタイミングで」「何を届けるか」の精度が上がりません。
- 顧客のオンライン行動をきっかけに、紙のDMや電話フォローを自動的に組み合わせる考え方は、BtoB営業や高単価商品には特に有効です。
- 将来的には、中小企業向けにも同様の発想を取り入れたクラウドサービスが増える可能性が高く、「顧客データを貯めておくかどうか」で差がつきます。
経営者の視点
経営者としては、いきなり高度なCDPを入れる必要はありませんが、「顧客データを一元管理する箱」と「最低限のシナリオ」は今のうちに用意しておくべきです。
- まず、顧客リスト・購入履歴・問い合わせ履歴をできるだけ一つのツールに集約する。
- 次に、「初回購入から●日後にメール」「一定金額以上の顧客にはハガキDM」など、シンプルな自動シナリオを決めて実行します。
こうした基盤と考え方が整っている企業ほど、今後この種の高度なサービスを導入したときに効果を出しやすくなります。
参考リンク
3. JICDAQ「デジタル広告課題意識調査2025」:経営層の理解不足が浮き彫りに
概要
デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)は、広告主・広告会社・媒体社など417社を対象に実施した「デジタル広告課題意識調査2025」の結果サマリーを12月2日に公表しました。無効トラフィックやアドフラウド、ブランドセーフティといった課題への認知・対策状況、JICDAQ認証事業者への発注意欲、経営層と現場の認識ギャップ、都市部と地方の差などが詳しく示されています。
中小企業への影響
調査では、無効トラフィックやアドフラウドの認知は広告会社・媒体社で6〜7割に対し、広告主(出稿する側)は3〜4割にとどまるなど、広告主側の理解が遅れている実態が示されています。また、経営層クラスの理解度は管理職・一般職より低く、地方企業ほど認知・対策が遅れている傾向も明らかになりました。([FNNプライムオンライン][3])
中小企業は限られた広告費で成果を出す必要がありますが、広告詐欺や不適切な掲載面に気づいていないと、知らないうちに予算が無駄になっている可能性があります。特に少額運用のときほど、「細かく見なくてもいいだろう」と意識が薄くなりがちで、損失に気づきにくい点がリスクです。
経営者の視点
経営者として、以下の3点を最低限チェックすることをおすすめします。
- 自社が利用している広告代理店やプラットフォームが、JICDAQ認証事業者かどうかを確認する。
- 「無効トラフィック」「ブランドセーフティ」「アドフラウド」という言葉の意味を理解し、毎月のレポートでどのように対策しているかを必ず質問する。
- 地方企業の場合は特に、「地元だから安心」と考えず、取引先のデジタル広告に関する知識と体制も確認する。
全部を自分で監視する必要はありませんが、“よくわからないけれど任せている”状態を放置しないことが、デジタル広告の費用対効果を守る第一歩になります。
参考リンク
4. テレビCM効果を「指名検索」で可視化:ノバセルが10月CMランキングを公開
概要
ラクスルグループのノバセルは12月2日、テレビCM効果の分析サービス「ノバセルトレンド」を使い、2025年10月に放映された流通・サービス業界のテレビCMの「指名検索スコア」ランキングを発表しました。指名検索スコアとは、CM放映前後数分間に増加したブランド名検索の数を、CMの放映量で割った指標で、数値が高いほど「ブランド名が検索された効率が良いCM」として評価されます。ランキング上位には、日本マクドナルドのキャンペーンCMなどが入り、限定キャンペーンや世界観のあるストーリーが指名検索を大きく押し上げたと分析されています。
中小企業への影響
テレビCMは大企業のもの、と思いがちですが、「広告の効果をブランド検索で測る」という考え方自体は、あらゆる規模の企業に応用可能です。検索エンジンやSNSで「自社名+商品名」がどのくらい検索されたかを見ることで、Web広告、屋外広告、チラシ、イベントなど、さまざまな施策の「指名効果」を簡易的に追うことができます。
特に中小企業では、クリック数やインプレッション数だけを見ているケースが多く、「会社名・ブランド名でどれだけ覚えてもらえたか」という視点が抜け落ちがちです。指名検索という軸を持つことで、「認知は取れているのか」「価格だけで比較されていないか」を測ることができます。
経営者の視点
経営者として、次のような簡単な取り組みから始めるのがおすすめです。
- Googleサーチコンソールや検索広告のレポートで、自社名・ブランド名の検索ボリュームの推移を毎月確認する。
- 新しい広告やキャンペーンを実施したタイミングで、指名検索数の変化を必ずセットで見るルールを決める。
- 限定セールや新商品の告知では、「誰の、どんなシーンを描けばブランド名を検索したくなるか」を意識してクリエイティブを作る。
「指名検索はテレビCMの指標」という枠を外し、すべてのマーケティング施策の共通KPIの一つとして取り入れると、投資判断がぐっとしやすくなります。
参考リンク
5. 中国EC・SNSデータを可視化する「FUSION MARKET VIEW」:越境EC戦略をデータドリブンに
概要
FUSION JAPANは12月1日、中国市場でEC販売やSNS運用を行う日本企業向けに、中国EC・SNSデータを可視化する新サービス「FUSION MARKET VIEW」を正式リリースしました。Tmall・Tmall国際・タオバオなどのアリババ系モールや、SNSのRED(小紅書)などから得られるデータを収集・分析し、業界動向・競合比較・販売トレンドをレポート形式で提供するサービスです。月次レポートでは、売上推移、カテゴリー別成長率、SNSでの人気投稿やKOL(インフルエンサー)動向などをまとめ、企業の中国市場戦略をデータで支援します。
中小企業への影響
中国市場はチャンスが大きい一方で、情報の非対称性が非常に大きい市場です。多くの日本企業が現地代理店任せになり、「本当に売れているのか」「競合と比べてどうなのか」が見えないという課題を抱えています。このサービスのように、客観的な市場データをもとにポジションを把握できれば、広告投資や商品開発の判断がしやすくなります。
中小企業のなかでも、すでに越境ECを行っている、もしくは準備している企業にとっては、「とりあえず出店して様子を見る」スタイルから、「データを見ながら売り方を変える」スタイルへ移行する必要があります。特定のキャンペーンやKOLの投稿が売上にどう影響したかを把握できれば、無駄な案件を減らし、効果の高い施策に集中できます。
経営者の視点
経営者としては、まず「どの国・どのチャネルで売るか」を決めるときに、感覚ではなくデータを必ず一度は確認するというルールを設けると良いでしょう。大掛かりなツールを入れない場合でも、以下のようなことはすぐに始められます。
- 代理店に対し、「競合比較」「カテゴリー全体の成長率」「価格帯別の売れ行き」など、データに基づくレポート提出を求める。
- SNS運用では、「フォロワー数」だけでなく、保存数・シェア数・クリック率など、行動につながる指標を重視する。
- 社内の報告資料でも、「担当者の感想」ではなく、最低1枚は数字ベースのグラフを入れることをルール化する。
こうした習慣づけが、将来的に本格的なデータ活用サービスを入れたときの「土台」となり、越境ECの成功確率を高めます。
参考リンク
まとめ
今回取り上げた5つのニュースから見えてくるのは、「AI」「データ」「広告の質」「効果測定」「越境市場」というキーワードが、マーケティングの当たり前になりつつあることです。
- カンターのトレンド発表は、AI時代に「選ばれるブランド」になるための方向性を示しています。
- TOPPAN×Treasure Dataのサービスは、顧客データとデジタル/リアル施策をつなぐことが今後の標準になることを示しています。
- JICDAQの調査は、広告の成果だけでなく、広告の安全性と透明性に経営者が向き合う必要性を浮き彫りにしました。
- ノバセルの指名検索分析は、「ブランド名をどれだけ検索してもらえたか」が、マーケティングの重要な物差しになることを教えてくれます。
- FUSION MARKET VIEWは、越境ECでも「データを見ながら戦略を組み立てる」ことが競争力につながると示しています。
中小企業の経営者にとって大事なのは、すべてを一度にやろうとしないことです。まずは、
- 自社のデジタル広告や販促について、「指名検索」と「広告の質(どこに出ているか)」を確認する。
- 顧客データを散らばらせず、一つのツールや台帳にまとめる。
- もし海外やECを強化したいなら、最低限の市場データを一度は確認してから投資を決める。
といった「小さな一歩」からで十分です。
これからもマーケティングの環境は大きく変わっていきますが、ニュースをただ眺めるのではなく、「自社なら何を変えるか」までセットで考える習慣をつけることで、限られたリソースでも着実に成果につながるマーケティングが実現しやすくなります。

