生成AIニュースまとめ(2025年9月22日〜9月28日)

生成AIニュースまとめ(2025年9月22日〜9月28日)

 
生成AI(ジェネレーティブAI)分野では、2025年9月22日から9月28日の期間に日本国内で実務に直結する動きが相次ぎました。中小企業経営者が押さえておくべき重要なニュースは、さくらインターネットの推論API提供開始電通×ソフトバンクの日本語コピー特化AIソフトバンクのスタートアップ支援プログラム文科省の教育分野特化AI実証の採択、そして生成AIの継続利用率28.4%という最新調査です。どれも「小さく導入して成果を測る」「国内完結で安心に運用する」ためのヒントに満ちています。この記事ではそれぞれの要点と、中小企業にとっての実務的な示唆を解説します。
 

目次

国内データ完結の推論API「さくらのAI Engine」提供開始

概要

さくらインターネットが「さくらのAI Engine」を一般提供しました。大規模言語モデル(LLM)や音声認識・要約などの機能をAPI経由で実装でき、RAG(検索拡張生成)やベクトルDB連携も標準で備えます。管理は「さくらのクラウド」から行え、国内データセンター上で完結する運用が可能です。料金は無償プランと従量課金プランを用意し、複数の基盤モデルを選択できるため、要件に合わせた最適化がしやすい構成です。運用の観点では、APIベースのため既存の社内システムやワークフローに段階的に組み込みやすい点が実務的な利点です。監視・課金の可視化が進めば、部署横断の活用でもコスト配賦がしやすくなります。
 

中小企業への影響

ポイントは「国内完結・小さく始められる」ことです。取引先情報や規程集など社内文書を安全にRAGへ載せ、FAQ自動応答、見積・議事録作成の下書き、ナレッジ検索などをすばやく立ち上げられます。初期投資を抑える従量課金は、PoC→本番の段階移行に適合します。一方で、RAGの品質はドキュメント整備と埋め込み設計に大きく左右され、未整備のファイルを投入すると“それっぽい誤答”が増えるリスクがあります。ガバナンス(アクセス権・監査ログ)情報ライフサイクル(更新・廃棄)の設計も欠かせません。

経営者の視点

まずは1業務1ユースケースで導入効果を検証しましょう。問い合わせ履歴・議事録・規程類など構造化しやすいデータから始め、回答の正誤基準・人による最終確認をルール化します。社外データは著作権・利用規約を確認し、秘密情報はネットワーク分離と権限管理を徹底。将来のマルチモデル化を見据え、プロンプトと知識ベースを分離し、API抽象化レイヤーを置くと移行が容易です。さらに、プロンプトの版管理(テンプレート化とレビュー)を行い、変更が品質に与える影響を可視化しましょう。SLAや遅延要件も最初に定義し、応答時間のばらつきによる業務影響を最小化しましょう。KPIは「回答採用率」「作業時間削減」「ユーザー満足度」「誤回答の再発率」を最低限トラッキングしましょう。
 

参考リンク

INTERNET Watch:さくらのAI Engine 一般提供開始

電通×ソフトバンク、日本語コピーに特化した生成AIの共同研究を開始

概要

電通、電通デジタル、ソフトバンク、SB Intuitionsの4社が「日本語コピーライティング特化型生成AI」の共同研究を発表しました。日本語特有の語感や文脈の繊細さを学習させ、広告コピーのトーンや強弱の制御、AI自身による自己評価を通じた表現の改善などを進める計画です。ベースにはソフトバンクの計算基盤と、日本語特化LLM「Sarashina」の取り組みが活用され、実在の広告コピーを用いた追加学習(SFTやDPO)で表現力を磨く方針です。目的別に語調を切り替える機能も想定され、ブランディング訴求と獲得型訴求の両立をテスト設計しやすくなる見込みです。
 

中小企業への影響

少量の情報から速く試作できるコピー生成は、販促物・LP・SNS投稿の内製化を後押しします。特に地域性や年齢層によって語感の効き方が異なる日本市場では、セグメント別の表現テストを短サイクルで回せる意義が大きいです。一方で、AIコピーは事実誤認・薬機法/景表法・誇大表現のリスクを内包します。生成物の責任主体はあくまで企業側であり、法務・薬事・表現ガイドの承認フロー(二重チェック、NGワード自動検出、媒体別規定の確認)を用意しないと炎上コストが上振れします。生成直後の公開を禁止し、必ず人が校閲する体制が肝要です。

経営者の視点

まずは既存で成果が出ているコピーを教師データとして再現性を測り、A/BテストでKPI(CTR、CVR、CPA、ROAS)に効くかを検証しましょう。ペルソナごとに言い回し・ボリューム・訴求順のテンプレートを整理し、ブランドの禁止ワード/表現を守るルールをプロンプトに組み込みます。代理店・制作会社との協業では、学習データの帰属・再利用範囲を契約上で明確化し、成果物のソース管理(プロンプト、データ、生成日時)を共有可能な形で保管しておくとトラブルを避けられます。
 

参考リンク

Impress Watch:日本語広告コピー生成で共同研究

ソフトバンク、AI開発を後押しする「AI Foundation for Startups」を発表

概要

ソフトバンクが、スタートアップのAIモデル開発と事業化を支援する新プログラムを発表しました。AI計算基盤(NVIDIA DGX等)の無償/廉価提供、研究機関・企業とのマッチング、販売支援まで事業フェーズ別の3プランで提供します。開始は10月1日予定で、愛知県のオープンイノベーション拠点「STATION Ai」とも連携し、入居企業の活用促進も掲げています。プランは試作向け(短期無償)/開発・検証向け(廉価提供)/事業拡大向け(出資+大規模計算)と段階的で、資金・人材が限られる企業でもフェーズに応じた選択が可能です。
 

中小企業への影響

開発コストのボトルネック解消が期待できます。試作段階では短期の無償利用で学習・推論パイプラインを検証し、検証段階は廉価プランでPoC→MVPの壁を越えやすくなります。販売支援や協業先の紹介は、初期顧客の獲得に直結する可能性があります。一方で、外部計算基盤に依存した設計はコストの固定化や将来のマルチクラウド移行に制約を生むため、モデル/データ/学習コードの可搬性を意識した設計が不可欠です。加えて、提供期間終了後の継続コスト資金繰りを逆算し、補助金や共同研究の組み合わせを早期に検討しておくと失速を避けられます。

経営者の視点

資金調達前後の技術デューデリジェンスに耐えるため、モデルの評価指標(精度・頑健性・説明性)再現性(seed/環境/データバージョン)を整備しましょう。GPU提供に飛びつく前に、まず問題設定と価値仮説を明文化し、推論コスト/1件学習コスト/改善幅の単位経済を試算します。営業面では、支援プログラムの広報力を活かし導入事例の共同発表第三者評価の取得を計画すると、信頼獲得のスピードが上がります。コンプライアンスでは個人情報・営業秘密のデータ取り扱い区分を定義し、データ脱出(exfiltration)対策ログの保存を契約上の要件に織り込んでおくと安心です。
 

参考リンク

ソフトバンク:AI Foundation for Startups プレスリリース

文科省、教育分野特化の生成AI実証で5社を採択(3テーマ制)

概要

文部科学省は、「学びの充実など教育課題の解決に向けた教育分野特化の生成AIの実証研究事業」で、コニカミノルタジャパン、富士通Japan、東京書籍など計5社を採択しました。テーマは(i)個別最適・協働的な学び、(ii)誰ひとり取り残さない教育、(iii)データ利活用の促進。実証では、教科書データの利活用や、学習者の状況に応じたコンテンツ生成、現場実装の在り方などを検証します。東京書籍は教科書データ活用基盤の構築に取り組み、生成AIが教科書を理解・活用できる形に再構造化し、幅広いAIサービスが接続できる基盤整備を計画。実証は立命館守山中学校で、社会・数学・理科・英語の4教科を対象に実施予定とされています。

中小企業への影響

教育向けは厳格な信頼性と説明責任が求められる領域です。教科書データや学校の運用に接続する生成AIの要件が具体化することで、教材・EdTech・学習塾・地域学習サービスなど周辺産業にとって連携インターフェースやデータ仕様の目安が明確になります。特に多言語対応・アクセシビリティ・個別最適化の要件が可視化されると、中小の教育事業者でもニッチ特化のSaaS(発達支援、帰国児童支援、定期テスト対策など)や運用BPOで差別化しやすくなります。学習データの相互運用性教育委員会のセキュリティ基準に沿った設計を早めに整えておけば、入札や共同実証に参画しやすくなります。

経営者の視点

学校・教育委員会と取引する企業は、今回の実証で示される安全性・効果検証・利用ガイドラインを事前に取り込み、データ最小化・学習履歴の保護・保護者同意などの遵守を“製品仕様”に落とし込みましょう。学習ログの可視化生成根拠の提示(ソース表示)は信頼獲得に直結します。自治体調達ではLGWAN対応運用サポート(教員研修)が採否を左右します。中小企業は、大手の実証成果を活用し補完的な機能パッケージで連携を狙うのが現実的です。PoC契約時にはデータの帰属・成果の公開範囲・学習への再利用可否を明文化し、将来の横展開に備えましょう。

参考リンク

教育情報サイトReseEd:文科省の教育分野特化の生成AI実証、5社採択

業務での生成AI「継続利用」28.4%に――利用実態の最新調査

概要

GMOリサーチ&AIが、業務での生成AI利用に関する調査結果を公表しました。2025年5月→8月の推移で、継続的に利用している人は28.4%へ増加。目的は「文章作成・要約」「資料作成」「アイデア出し」「コードの下書き・レビュー」「データ整理」などが中心で、徐々に実運用フェーズが広がっていることが示唆されます。とくに定型文の作成一次ドラフトは即効性が高く、業種を問わず波及しています。

中小企業への影響

この数字は、生成AIが「特定メンバーの試行」から「チームの標準ツール」へ移行しつつある現実を映します。導入が遅れると、提案書作成や顧客対応の速度で差が開き、採用市場でも“AI前提”人材の獲得競争で不利になりかねません。とはいえ闇雲に全社展開すると、誤用・情報漏えい・コスト爆増という副作用が生じます。ユースケースと権限の段階設計(閲覧のみ→生成→自動反映)と費用の見える化(部署別コスト配賦)が鍵になります。SaaSに組み込まれたAI機能は“個別最適の積み上がり”で気づくと高額になりがちです。1件あたり推論コストアカウント単価をダッシュボード化し、効果の薄い利用を止める意思決定を仕組み化しましょう。

経営者の視点

まずは部門横断のガイドラインを整え、プロンプトの良否で品質が上下しないよう社内テンプレートを配布。監査ログデータ持ち出し制御を前提に、生成物のレビュー責任者を明確化します。品質担保の観点では、参照元の表示(根拠リンク)社内用語辞書の適用など“ガードレール”を整備するとブレが減ります。効果測定では、時間短縮と品質のバランスを見るためNPS/リードタイム/修正回数を並行追跡。さらに採用・教育の指標(オンボーディング期間、OJT時間)にも生成AI活用の効果が波及するかを確認しましょう。現場での自走を促すには、社内ハンズオン+成果共有会のリズム化が有効です。小規模でもAI推進タスクフォースを置き、全社横断でベストプラクティスを吸い上げる仕組みを作りましょう。

参考リンク

ITmedia:GMOリサーチ&AIの生成AI利用実態調査
 

まとめ

 
生成AIの動きは、技術基盤(推論API・計算資源)、用途特化(日本語コピー)、公共・教育の実装、そして現場での定着度という4つの軸ではっきりと前進しています。中小企業の経営者にとっての要点は、国内完結で安全に小さく始め、効果が出たら素早く拡張することです。
 
実行の勘所は次の3点です。①ユースケースの焦点化:まずは1業務から。RAGや定型文生成など、効果が測りやすい領域に限定します。②ガバナンスの先回り:アクセス権・監査ログ・権利処理・表現ガイドを最初に固めます。③KPI運用:時間短縮、回答採用率、誤回答再発率、顧客満足の4点を最低限モニタリングし、費用対効果が合わない使い方は止めます。
 
次回も日本国内の最新ニュースを選び、実務にどう落とすかを軸に解説します。継続的な情報収集とスモールスタートで、変化を味方につけていきましょう。

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