生成AIニュースまとめ(2025年8月25日〜8月31日)

生成AIニュースまとめ(2025年8月25日〜8月31日)

生成AI(ジェネレーティブAI)分野では、日本の検索大手による新機能追加、国産メディアとAI検索企業の訴訟、国内企業の利用動向レポート、そしてセキュリティ脅威の新潮流まで、事業に直結する話題が相次ぎました。中小企業経営者が押さえておくべき重要なニュースは、ヤフー検索の口コミ要約機能、朝日・日経のPerplexity提訴、Adobe×Googleの画像生成連携、Kong調査で見えた「開発主導の生成AI活用」、AI自律駆動型ランサムウェアの出現です。以下、経営判断に効くポイントと対策を解説します。

目次

1. 国内メディアがAI検索を提訴――「Perplexity」巡り44億円請求

概要

朝日新聞社と日本経済新聞社が、米Perplexity AIを著作権侵害と不正競争行為で東京地裁に共同提訴しました。robots.txtで収集拒否を示した記事の複製・保存・表示を行ったとし、差し止めと計44億円の損害賠償を求めています。引用元の誤表示など信用毀損も論点で、生成AI×検索の事業モデルに直結する訴訟です。訴状では、有料会員限定記事の扱いや引用の態様も問題視され、AIが答えを作る過程でどこまで著作物を「利用」したと言えるかが争点になります。既に読売新聞社も提訴しており、主要メディアが連携して係争に踏み切る構図は、要約・回答型AIの国内展開に前例を作る可能性があります。広告やサブスクを含む収益モデルにも波及が見込まれます。

中小企業への影響

生成AIサービスの利活用が進む一方で、コンテンツ利用の適法性がより厳しく問われる局面です。自社サイトのコンテンツがAIに無断学習・再利用されるリスク、また自社がAIを使って作成・配信するコンテンツが第三者の権利を侵害するリスクの双方が顕在化しました。B2Bメディア運営・ブログ運営・資料配布を行う企業は、利用規約・robots.txt・クローリング対策の整備、コンテンツ来歴(Content Credentials等)の付与、著作権指針の社内徹底が重要です。生成AIベンダーのデータ取得方針やオプトアウト手段、回答画面の表示設計(出典表示や有料記事の扱い)も評価軸に入れましょう。また、AIが生成した回答が実在の出典や事実とズレる「幻覚」問題は、ブランド毀損や景品表示法上のリスクにもつながります。B2B営業資料やウェブコピーをAIで作る際には、出典の裏取りと人手による最終チェックを工程に必ず入れましょう。さらに、ニュースや有料コンテンツを扱う場合は、引用の範囲・要件(出所明示・主従関係・本文と分離)を社内教育で再確認すると安全です。

経営者の視点

短期的には、(1) 自社サイトの利用規約とrobots設定の点検、(2) 生成AIの社内利用ガイドライン策定、(3) 取引先AIツールのデータ取扱いの契約条項確認、を実施してください。中期的には、一次情報の発信力を高めて「引用される側」になることが差別化に直結します。自社のナレッジや事例を構造化し、検索・AIに正確に解釈される情報設計(スキーマ、サイトマップ、C2PA対応)を推進しましょう。

参考リンク

Impress Watch:朝日と日経、AI検索のPerplexityを提訴 44億円請求

2. アドビ、Firefly/Expressに「Gemini 2.5 Flash Image」搭載

概要

アドビは、Googleの画像生成モデル「Gemini 2.5 Flash Image」をAdobe FireflyとAdobe Expressで利用可能にしたと発表しました。Fireflyの「テキストから画像生成」やFireflyボード、Expressで選択肢として利用でき、生成コンテンツにはコンテンツクレデンシャル付与などの透明性措置も示されました。商用利用の前提やCreative Cloud各アプリとの連携も案内されています。加えて、ユーザーがアップロードした素材を学習に使わない旨も明言され、商用利用の安心感を打ち出しています。用途に応じて他社モデルも選べるため、画像の質感やスピード、コストを横断比較し最適解を探れます。期間限定の無制限利用案内もあり、実運用での検証がしやすい設計です。

中小企業への影響

小規模チームでも、ブランド画像やSNSクリエイティブ、チラシ・バナー制作の内製化が一段と進みます。複数モデルを使い分けられるため、コスト・仕上がり・スピードのバランスを案件ごとに最適化しやすくなります。制作フローでは、(1) テンプレート化(サイズ・配色・フォント)、(2) プロンプト資産化(CTA/商品説明の型)、(3) 画像の来歴表示(C2PA)を取り入れると、法務・ブランド両面での安心感が高まります。また、コンテンツクレデンシャルの付与は「AI生成であることの可視化」だけでなく、素材の出所や改変履歴を追えるため、広告主・取引先への説明責任を果たしやすくなります。署名付きのワークフローは、生成物の信頼性や改ざん防止の観点でも有効です。

経営者の視点

まずは月内のキャンペーンや採用広報など成果指標が明確な用途で試行し、1クリエイティブ当たりの制作時間・外注費・CVRの改善幅を数値で評価しましょう。生成物の権利処理ポリシー(学習への利用可否、第三者素材の扱い)を社内で共有し、ブランドガイドに「AI利用時の表現禁止事項」を追記してリスクを抑えます。並行して、社内のデザインガイドを「AIプロンプト版スタイルガイド」として明文化し、NGワードや人物・商品表現の留意点、色彩・トーンの許容範囲を定義すると、属人化を防ぎ品質を一定に保てます。生成物をそのまま掲載せず、PhotoshopやIllustratorで最終仕上げを必須とする二段階フローもおすすめです。

参考リンク

ケータイ Watch:Googleの生成AI「Gemini 2.5 Flash Image」が「Adobe Firefly」「Adobe Express」に搭載

3. Yahoo!検索、飲食店の評判を生成AIが要約――「情報が古い」を解消

概要

LINEヤフーは「Yahoo!検索」で、全国約4.6万の飲食店を対象にクチコミから生成AIが評判を要約して表示する機能の提供を開始しました。最大3つのトピックと関連クチコミ・話題人数を提示し、直近約1年以内の投稿を対象にすることで「情報が古い」問題の解消も図ります。ユーザーアンケートで“情報過多と鮮度不足”が課題とされ、要約により現在の評判を短時間で掴める体験への改善が狙いです。

中小企業への影響

ローカル飲食・小売にとっては、検索結果での第一印象がAI要約で決まります。星平均だけでなく「接客」「ボリューム」「コスパ」など頻出トピックが前面に出るため、レビュー運用の重点が明確になります。現場では、(1) 要約に採用されやすい体験要素の磨き込み(例:待ち時間短縮、会計のスムーズさ)、(2) 写真・最新メニューの更新頻度向上、(3) ネガ要素の改善ログ公開、が効果的です。特に、レビュー更新が少ない店舗や、繁忙期・新メニュー投入時のばらつきが大きい店舗は印象が固定化されやすい点に注意が必要です。言語化しやすい項目を優先改善すると、要約される“看板文”の質が上がります。

経営者の視点

Googleビジネスプロフィールと同様に、Yahoo!側の掲載情報(営業時間・定休日・価格帯)の整備を最優先に。次に、口コミ収集のKPI(来店後3日以内の依頼率、月次レビュー数)を設定し、スタッフ評価と連動させます。クーポン配布よりも、再訪理由になる「体験の一貫性」づくりに投資してください。加えて、要約に反映されやすい“最新性”の確保が鍵です。季節メニューや価格変更、営業時間の臨時対応は即日更新を基本にし、SNSや公式サイトと情報を同期。第三者サイトの掲載情報も棚卸しし、齟齬をなくすと評価のブレを抑えられます。

参考リンク

Impress Watch:Yahoo!検索、飲食店の評判を生成AIが要約 情報や評価を一目で確認

4. 調査で判明:「生成AIは開発現場がけん引」――Google活用が増加

概要

@ITはKongの調査レポート(日本語版)を報じ、企業の生成AI活用で「Googleの利用が急増」「開発分野がけん引」といった傾向を示しました。API管理や開発者ユースケースが先行し、導入は試行から実装へ移行。国内でも「まずは開発から」が、業務自動化や顧客対応へ波及しつつあります。

中小企業への影響

開発現場では、コード補完、テスト生成、ドキュメント要約、API設計支援が小さな投資で確実に効く領域です。バックエンドのAPI基盤を整え、RAG(社内文書検索)や自動化ワークフローを小規模に始めるだけでも、生産性とリードタイムは改善します。重要なのは、(1) 現場主導で素早く試す、(2) 成果が出たら標準化して横展開、(3) データ保護とアクセス権限を同時に整備、の三点です。一方で“シャドーAI”のリスクは増大。ベンダーごとのデータ保持/学習ポリシー、入力情報の機密区分を明確にし、プロンプトと成果物の取り扱いを規程化してください。

経営者の視点

ツール選定は「使われること」最優先に。月額1人あたりの利用コスト上限を定め、3カ月での時間削減(例:1人週3時間)をKPIに設定します。生成AI導入で開発速度を上げ、売上に直結する機能(在庫連携、見積自動化、FAQ自己解決)を優先実装しましょう。さらに、PoC疲れを避けるため「1案件=4週間、KPI1つ」のスプリントで評価し、成功要因をテンプレ化して他部署へ展開。ベンダーロックイン回避のため、APIで抽象化したアーキテクチャを採用し、モデル交換の自由度を確保しておくと将来のコスト最適化に寄与します。

参考リンク

@IT:生成AI、Googleの利用が急増:開発分野での利用がけん引

5. ESETが警告:「AI自律駆動」型ランサムウェア「PromptLock」

概要

ESETは、生成AIを利用してリアルタイムにコードを生成する新タイプのランサムウェア「PromptLock」を発見したと発表しました。ローカルの言語モデルを悪用し、実行のたびに兆候が変化するため検知が難しい点が特徴です。主要OSを狙い、データ窃取や暗号化を自律的に行う手口が確認されています。攻撃者は端末内の状況に応じコードを変化させ、従来のシグネチャ型対策が効きにくいほか、通信痕跡が目立ちにくい点も厄介です。

中小企業への影響

生成AI時代の攻撃は、多様化・自動化・高速化します。メール1通、添付1つから侵入し、社内のファイル共有やクラウドに横展開、バックアップの破壊を試みるケースが増えます。中小企業は、EDR/NGAVの導入、権限の最小化、重要データのオフライン/不変バックアップ、MFAの徹底、生成AIツールの安全設定(外部モデルへの自動送信遮断等)を急ぎましょう。特に、生成AIツールや自動化スクリプトを広く使う現場は、悪性プロンプトを実行させる「プロンプト注入」のリスクにも注意が必要です。

経営者の視点

BCP(事業継続計画)に「暗号化被害を前提とした復旧訓練」を組み込み、年2回の演習をコミットしてください。週次でバックアップの復元テスト、管理者アカウント棚卸し、生成AIの社内利用ログ監査を運用に落とし込みます。あわせて、取引先・委託先を含むインシデント連絡網を紙とクラウド双方で整備。身代金支払いの可否方針、一次声明テンプレ、当局・顧客への通知条件を事前に決めておくと混乱を避けられます。疑わしい振る舞い検知時に端末隔離・資格情報失効・共有停止まで自動化できる体制も効果的です。

参考リンク

PC Watch:生成AI利用し、リアルタイムにコード生成する検知困難なランサムウェア「PromptLock」

まとめ

生成AIの社会実装は着実に進み、検索・制作・開発・セキュリティの各領域で事業への影響が明確になってきました。経営者としては、①法務・権利面のガバナンス整備(利用規約、C2PA、引用ルール)、②クリエイティブと開発の小さく速い実験→標準化、③セキュリティの前提被害型BCPへの更新、の三点を優先して進めることをおすすめします。
次回も、経営判断に役立つ生成AIニュースを厳選してお届けします。

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