生成AIニュースまとめ(2025年7月14日〜7月20日)
生成AI(ジェネレーティブAI)分野で、この期間には国内外で注目すべき動きがありました。中小企業経営者が押さえておくべき重要なニュースは、政府支援による日本企業のAI開発計画、社内業務へのAI活用を推進する大企業の取り組み、新機能を発表した海外AI企業の動向、そして日常業務ツールへのAI統合です。それぞれのニュースが、中小企業にもたらす影響や示唆を解説します。
1. 政府支援で日本語LLM開発へ、楽天がプロジェクト採択
概要
経済産業省とNEDOが推進する国内生成AI開発力強化プロジェクト「GENIAC」の第3期公募に、楽天グループが採択されました。7月15日の発表によると、楽天は8月から「長期記憶メカニズムと対話型学習を融合した最先端の日本語生成AI基盤モデル」の研究開発を開始します。政府が計算資源や資金を支援し、楽天は自社の豊富なデータとAI技術を活用して高性能な日本語版の大規模言語モデル(LLM)を開発する計画です。これは国内企業による独自AIモデル創出の動きとして注目されます。
中小企業への影響
日本企業による生成AIモデル開発が進むことで、中小企業にも国産のAIソリューションが今後提供される可能性が高まります。言語や商習慣の面で日本に最適化されたAIが登場すれば、これまで英語圏主体のAIサービスにハードルを感じていた企業でも導入しやすくなるでしょう。政府主導で国内AI技術を底上げする取り組みは、中小企業にとっても将来的に安心して使えるAIプラットフォームの選択肢が増えることを意味します。一方で、「日本は米中に比べ生成AI利用が遅れている」という指摘もあり、こうした開発競争により日本全体のAI活用が促進されれば、中小企業も競争環境の変化に備える必要があります。
経営者の視点
経営者としては、国の支援を受けた最先端AI開発の動向にアンテナを張りつつ、自社で活用できる技術がないか模索する姿勢が重要です。例えば将来、楽天発の日本語特化AIモデルが提供された際には、自社システムへの組み込みや業務への活用を素早く検討できるようにしましょう。また、自社が属する業界向けのAI開発プロジェクトや補助金の情報にも注意を払い、参加できるものは積極的に手を挙げるといった戦略も有効です。国産AIが普及すれば中小企業でもセキュリティや言語面で安心して使える可能性が高まるため、今のうちから社内のIT人材育成やデータ活用の準備を進めておくことが将来の競争力につながります。
参考リンク
Bloomberg:楽天G、経産省などの生成AI開発プロジェクトに採択
2. LINEヤフー、1.1万人に生成AI活用義務化 3年で生産性2倍目指す
概要
LINEヤフー(旧Zホールディングス)は7月14日、全従業員約1万1000人を対象に業務での生成AI活用を義務付ける新方針を発表しました。調査・資料作成・会議など業務の約3割を占める共通領域でAI活用ルールを制定し、「まずはAIに聞く」「ゼロから資料は作らない(AIでアウトライン作成)」など具体的なガイドラインを導入します。生成AIの徹底活用により今後3年で業務生産性を2倍に高め、継続的なイノベーション創出を目指す計画です。既に同社は全社員にChatGPT Enterpriseアカウントを付与し、リスク管理やプロンプト研修の受講・試験合格を利用条件とするなど準備を進めていました。
中小企業への影響
大企業が社を挙げて生成AI活用に舵を切ったことは、中小企業にも示唆的です。AI活用により大幅な効率アップや生産性向上が可能であることを実証するモデルケースと言えます。リソースの限られる中小企業でも、例えば情報収集や文書作成支援にChatGPTなどを取り入れれば業務効率化の余地が大いにあるでしょう。また、LINEヤフーが社内ルールや研修でAI活用を促進しているように、中小企業でも社員がAIを使いこなせるよう教育することが重要になると考えられます。一方で、闇雲にAIツールを使うのではなく、同社のようにガバナンスを利かせた運用が求められる点も参考になります。
経営者の視点
経営トップ自らが生成AI活用の旗振り役となることが求められます。LINEヤフーの例にならえば、まず経営者がAIツールの可能性と限界を理解した上で、社内に「まずはAIで試す」文化を根付かせると良いでしょう。中小企業では全社員に一律のルールを強制するのは難しくても、例えば定型的な報告書作成や市場調査にAIを活用することを推奨したり、成果を社内で共有したりすることで徐々に浸透させることができます。また、AI研修や勉強会を開催して社員のリテラシー向上を図り、情報漏えいや誤用を防ぐガイドラインも準備しましょう。大企業発のこの動きは「AIを使う会社」と「使わない会社」で将来生産性に大きな差がつくことを示唆しています。中小企業も俊敏さを活かして、小回りの利く範囲からでもAI活用を進める戦略が求められます。
参考リンク
Impress Watch:LINEヤフー、社内で生成AI活用を義務化
3. キリンHD、生成AIを戦略立案・研究開発に導入
概要
キリンホールディングスは7月14日、OpenAIの法人向けサービス「ChatGPT Enterprise」をグループ内の一部部門で導入開始すると発表しました。対象は経営戦略策定や企画立案、研究開発、マーケティングなど専門性の高い業務領域で、生産性向上と新たな価値創造の加速が狙いです。あわせて業務特化型のAIエージェント構築にも着手し、各部門の業務プロセスを抜本的に変革する方針です。キリンは今年5月から社内向け生成AIツール「BuddyAI」を約1万5000人の従業員に展開しており、今回のChatGPT Enterprise導入はその次のステップと位置付けられています。例えば、戦略部門では外部環境調査や経営計画の案出し、研究部門では特許・文献調査や実験データ分析、マーケ部門では新商品企画のアイデア生成などにAIを活用し、判断や分析のスピードアップを図るとしています。
中小企業への影響
製造業や食品業といった従来AIとは縁遠く見えた領域でも、大企業が生成AIを本格活用し始めたことは中小企業にも刺激となります。自社でも専門部署の知見共有や企画立案にAIを使えば効率化できる部分がないか再考するきっかけになるでしょう。キリンが自社データと生成AIを組み合わせて研究開発力を高めようとしているように、中小企業も自社の蓄積データ(例:顧客問い合わせや業務記録)をAIで分析すれば、新たな商品アイデアや業務改善策が見つかるかもしれません。もっとも、中小企業にとって重要なのは人材育成と社内風土づくりです。キリンはOpenAIと協力して社員教育プログラムを整備するとしていますが、中小企業でもAI活用のルール作りや研修を行い、社員が安心してAIを使える環境を用意する必要があります。大企業の成功事例が出てくれば、生成AIツールの価格低下や中小向けサービス提供も進む可能性が高く、今後ますます取り入れやすくなるでしょう。
経営者の視点
経営者として、生成AI導入の目的を明確にし、現場に示すことが大切です。キリンが掲げる「生産性向上」と「価値創造」という二本柱はどんな企業にも共通するテーマです。自社の場合は例えば「業務時間の◯%削減」「新サービス開発期間の短縮」など具体目標を設定し、その達成手段としてAIツールを位置付けると社員にも浸透しやすくなります。トップが先導し現場を巻き込むことで、単なる効率化に留まらず組織全体の働き方改革につなげることができます。また、大企業ではセキュリティや機密保持の観点から専用のエンタープライズ版を導入していますが、中小企業でも機密情報を扱う際は注意が必要です。場合によってはオンプレミス型のAIサービスやパートナー企業によるカスタマイズ導入を検討することもあり得ます。重要なのは「まず試してみる」ことと同時に「ルールを整える」ことであり、経営者はその両輪を推進する責務があります。
参考リンク
IT Leaders:キリングループ、生成AIを戦略立案や研究開発など専門性を求める部門に導入
4. OpenAI、ChatGPTにエージェント機能 複雑な作業を自動化
概要
米OpenAIは7月17日(現地時間)、対話AI「ChatGPT」に新機能「ChatGPTエージェント」を発表しました。これはAIがユーザーに代わって複数ステップのタスクを自律的に実行できる機能です。例えばウェブ検索し情報収集した上でレポートを作成したり、オンラインショッピングサイトで条件に合う商品をカートに入れる――といった一連の作業を、ユーザーの指示ひとつで自動遂行します。ChatGPT内部に仮想パソコンを立ち上げ、人間がブラウザ上で行う操作を模倣する形で動作するとのことです。エージェント機能はまずChatGPTの有料プラン(ProやPlus、Team)利用者に提供され、今夏中には企業向けのEnterpriseプラン等にも拡大予定です。OpenAIのアルトマンCEOは「AIエージェントは“次の大きな飛躍”になる」と期待を示す一方、「現時点では動作が遅く重要な用途には向かない」と述べ、当面は慎重な活用を呼び掛けています。
中小企業への影響
AIが人間の指示で実際の業務プロセスを代行できる時代が目前に来たと言えます。中小企業にとっても、このエージェント技術は将来的に「デジタル社員」のような役割を果たす可能性があります。たとえば日々行っているデータ収集・入力作業、ECサイトへの商品登録、定型フォーマットの資料作成など、時間を取られていた業務をAIに任せられるかもしれません。これは人手不足の解消策として大きな価値があります。一方で、新技術ゆえの不安もあります。OpenAI自身が指摘するように現状では処理速度や精度の課題があり、AIが誤った判断で誤操作を行うリスクも否めません。中小企業では大企業以上にリソースが限られるため、致命的なミスを防ぐためにも、まずは小規模な範囲でテストし効果と安全性を見極める必要があります。それでもこの流れは不可逆的であり、数年内には手の足りない業務をAIエージェントが埋めてくれる時代が到来すると考えられます。
経営者の視点
経営者は、AIエージェントの登場によって「何を人が行い、何をAIに任せるか」という業務設計を再考するタイミングに来ています。現時点で全てを任せるのは早計ですが、例えば社内のルーティンワークを洗い出し、一部でも自動化できないか検証してみる価値はあるでしょう。実験的にChatGPT等のエージェント機能を使い、簡単なネット調査や資料ドラフト作成をさせてみて、結果を人間がレビューする運用から始めるのも一案です。重要なのは、人間のチェック体制を必ず組み合わせることと、社員に対してはAIエージェント活用のメリットとリスク双方を共有することです。情報漏えいなどのリスク管理も含め、社内ルールを定めて慎重にトライしつつ、使えると判断した領域では大胆に任せていく—この見極めが経営手腕の見せ所となります。将来、AIエージェントが標準ツールになれば、人手不足に悩む中小企業ほどその恩恵は大きいはずです。今のうちに少しずつ経験値を積んでおけば、技術成熟時に一気に活用を広げ競争力強化につなげられるでしょう。
参考リンク
PC Watch:データ分析から資料作成までまとめてやってくれる「ChatGPT agent」
5. SlackがAI機能を大幅強化、翻訳・議事録作成などを実装
概要
ビジネスチャットツール「Slack」にも生成AIの波が押し寄せています。提供元の米Salesforce社は7月17日、Slackの新プランとともにAI機能強化を発表しました。同社はこれまで段階的に「Slack AI」として機能提供を進めてきましたが、自動翻訳や会議のAI議事録作成、スレッド要約といった主要機能が、この度より多くの有料プラン利用者に開放されました。具体的には、プロプランで「ハドルミーティング(音声会議)のAI文字起こし・要約」と「チャンネル/スレッド要約」が利用可能に、ビジネスプランではそれらに加え「メッセージ自動翻訳」が追加、最上位のエンタープライズプランではさらに「高度な社内検索AI」が使えるようになります。さらに今後の新機能として、メッセージの文脈を読み取って噛み砕いて説明する「AIメッセージ説明」や、会話からToDoを抽出して自動で対応リクエストを作成する「AIアクションアイテム」なども予告されました。
中小企業への影響
Slackはスタートアップから中小企業まで幅広く利用されているツールであり、そこにAI機能が組み込まれた恩恵は大きいです。例えば自動翻訳は、日本語しか話せない社員と英語圏の取引先メンバーが同じSlackチャンネルでやり取りする際に、ボタン一つで互いの言語に翻訳されるためコミュニケーションのハードルが下がります。また会議のAI議事録作成やスレッド要約によって、忙しい現場でも情報共有がスムーズになります。議事録作成に人手をかけずに済めば、その分本来の業務に集中できますし、途中参加のメンバーも要約を読めば流れを把握できるためチーム全体の生産性向上につながります。中小企業では一人が複数の職務を兼ねることも多いですが、SlackのAIが情報整理役を担ってくれることで、人手不足の緩和やミスの防止(伝達漏れ・認識違いの減少)が期待できます。
経営者の視点
自社で既にSlackを使っている場合は、これら新機能を積極的に活用することで「小さな組織でも賢く動く」ことが可能です。経営者はまず社内に周知し、例えば「会議後はAI議事録を必ず共有しよう」「重要なアナウンスはSlackの要約機能でポイントを確認しよう」など運用ルールを決めると良いでしょう。多言語展開しているビジネスなら翻訳機能は即戦力になりますし、海外展開を考えていない場合でも、将来の取引機会に備えて社員が英語情報を読む練習にもなります。注意点としては、AIによる要約や翻訳が完璧ではない可能性があるため、重要な内容は原文も確認する二重チェックの体制を整えることです。総じて、今回のSlackの動きは「普段使っている業務ツールに当たり前のようにAIが組み込まれていく」流れを象徴しています。経営者はこの流れに遅れずについていき、社内ツールのアップデート情報をチェックして新機能を試し、現場の声を聞きながら業務フローに組み込んでいく柔軟性が求められます。
参考リンク
Impress Watch:Slack、AI本格展開 自動翻訳やハドル議事録 文脈・作業理解をAI支援
まとめ
今回取り上げたニュースから、生成AIを取り巻く状況が「国を挙げた技術開発の推進」「大企業による全社的な活用」「AI企業の革新的な新機能」「日常業務ツールへのAI浸透」という形で一気に進んでいることが分かります。政府支援による楽天の日本語AIモデル開発や、LINEヤフー・キリンといった大企業の積極導入は、生成AIが実験段階を越えて実務の現場に深く根付きつつある兆候です。一方、OpenAIのエージェント機能やSlackのAI統合に見るように、ツールやサービス自体も日進月歩で進化しています。
中小企業の経営者にとって重要なのは、これら急速な変化を他人事と捉えず自社の成長に活かすチャンスと見ることです。具体的には、以下の点に注目できます。
- 技術動向のキャッチアップ: 国産AIモデルや最新機能の登場はビジネスのやり方を変える可能性があります。定期的にニュースをチェックし、自社業界に関連するAIの進歩を把握しましょう。例えば業務効率化に繋がりそうな新サービスが出たら、小規模でも試してみる柔軟性が大切です。
- 社内体制の整備: AI活用で成果を上げるには人材育成とルール作りが不可欠です。社員に研修の機会を提供し、情報漏洩防止や誤用対策のガイドラインを策定しましょう。「まずはAIに聞く」文化を醸成しつつ、結果を人間が検証する仕組みを組み合わせることで安心して活用できます。
- 小さく始めてスケールする: 全社一斉導入が難しければ、特定部署やプロジェクトで試行導入し、効果と課題を測定します。成功事例が出れば社内で横展開し、失敗しても小規模ならダメージを最小限に抑えられます。俊敏にPDCAを回せるのは小規模企業の強みです。
今週の動きを受けて、来週以降も各社・各国から生成AIに関する新たな発表が続くでしょう。経営者はアンテナを高く張り、「自社では何が活用できるか」を常に問い続ける姿勢が求められます。生成AIの波はビジネスのあらゆる領域に広がりつつあり、それは中小企業にとっても業務改善や市場創出の大きなチャンスです。リスクに目配りしつつも臆せずテクノロジーを取り入れ、機敏かつ柔軟な経営判断で自社の成長に結び付けていきましょう。次回も最新情報を追って共有しますので、引き続き未来志向で取り組んでいきましょう。