生成AIニュースまとめ(2025年6月23日〜6月29日)

生成AIニュースまとめ(2025年6月23日〜6月29日)

生成AI(ジェネレーティブAI)分野では国内外で重要な動きが相次ぎました。米国ではAIの学習データ利用をめぐる法的判断が下され、カリフォルニア州では先端AIのガバナンスに関する報告書が発表されています。日本国内でも、大手IT企業が生成AI導入支援プランを開始し、生成AI機能搭載のスマートフォンが発売されました。さらに、専門人材不足が課題となっている分野でAIを活用した業務効率化サービスが登場しており、中小企業経営者にとって見逃せないトレンドとなっています。注目の5つのニュースとそのポイントを、中小企業にとっての意味合いとともに解説します。

目次

1. AI学習データ無断利用に米地裁が合法判断

概要

米国の連邦地裁で、生成AIの学習データ利用をめぐる画期的な判決が出ました。6月23日と25日に、それぞれ新興企業Anthropic社とメタ社(旧フェイスブック)を相手取った著作権訴訟でAI開発側が勝訴しました。判事はいずれも、著者の許可なく書籍をAIに学習させた行為は米著作権法上「フェアユース(公正利用)」に該当するとの判断を示し、著作権侵害を認めなかったのです。ただし、このフェアユース適用の判断理由には差異があり、著作物の市場への影響や有害性の立証がポイントとなりました。判決はAI開発者側の連勝となったものの、今後も控訴や類似訴訟が続く見通しで、法的議論は継続中です。

中小企業への影響

この判決は生成AI開発の環境整備につながる可能性があります。AIモデルの性能向上には大量のデータ学習が不可欠ですが、著作物の無断利用が認められたことでAIサービス開発のハードルが下がるとの見方があります。今後、生成AIを活用した新サービスやツールがより活発に登場することが期待され、中小企業も最新AI技術を利用しやすくなるかもしれません。一方で、自社のコンテンツやデータがAI学習に使われる可能性も高まるため、知的財産の扱いには注意が必要です。日本国内の法制度は異なるものの、海外の判例は各国の議論に影響を与え得るため、経営者はAIと著作権をめぐる動向に引き続き関心を持つべきでしょう。

経営者の視点

経営者としては、この法的動向を踏まえた戦略が求められます。まず、自社が利用する生成AIツールについて、データの扱い方や法的リスクを確認することが重要です。判決によって米国ではAI開発が加速する可能性がありますが、日本国内ではガイドラインや法整備が進行中です。自社の資料やノウハウをAIに学習させる際には、契約や社内ポリシーを整えつつ、効果とリスクのバランスを検討しましょう。また、生成AIが生み出すコンテンツをビジネスに活用する場合も、権利関係の確認を怠らずに。法の変化をチャンスと捉え、積極的に安全にAIを取り入れる姿勢が、中小企業の競争力強化につながります。

参考リンク

AI学習で書籍利用、米メタも勝訴=米新興企業に続き―著作権侵害訴訟 – リスク対策.com


2. カリフォルニア州が先端AIの政策報告書を公表

概要

6月17日、カリフォルニア州のニューサム知事は「最先端AI政策報告書」を公開しました。同報告書は、高度AIモデルのリスク評価と安全確保を目的に、実証実験・シミュレーションを用いたエビデンス重視の政策立案を提言。昨年成立したAI規制法案に知事が拒否権を行使した経緯を踏まえ、イノベーションと安全性を両立させるガバナンス指針がまとめられています。また、州ごとに異なる規制が乱立すると企業負担が増すとの懸念から、連邦レベルでの協調も求めています。さらに、AI分野の急速な進化に対応するため、規制の適切な閾値設定や安全を最優先とした取り組みの必要性が強調されています。

中小企業への影響

この動きは、AI技術に対する規制と支援の潮流を示すものです。カリフォルニア州はIT・AI産業の中心地であり、その政策は世界のAI業界に影響を及ぼします。報告書が提言する安全で責任あるAI推進の原則が浸透すれば、大手企業のみならず中小企業にも安心してAIを利活用できる環境が整う可能性があります。例えば、将来的に生成AIの安全基準や認証制度が導入されれば、中小企業が信頼性の高いAIサービスを選択しやすくなるでしょう。また報告書で触れられた各州バラバラな規制への懸念は、ビジネス環境の不確実性につながるため、一貫したルール作りが進めば新規サービス展開の障壁が下がると期待されます。ただし規制強化により、AI活用に新たなコンプライアンス対応が求められる可能性もあり、動向を注意深く見守る必要があります。

経営者の視点

経営者としては、政策の方向性を見据えて柔軟に戦略を調整することが大切です。まず、海外のAI規制やガイドラインの情報をウォッチし、自社のAI利用が将来の基準に合致するかを確認しましょう。生成AIを業務に使う際は、透明性(プロンプトや出力の記録)や安全性(誤回答リスク対策)に今から配慮しておくと、将来的な規制にも対応しやすくなります。また、日本政府も2025年6月に「AI新法」を公布するなど政策整備を進めています。国の支援策や補助金にもアンテナを張り、自社のAI導入に活用できる機会を逃さないようにしましょう。最先端AIの恩恵を受けつつリスクを抑えるには、経営者自ら政策動向を把握し、社員教育や社内ルール整備を行うことが重要です。

参考リンク

米カリフォルニア州知事、最先端AIの政策報告書を発表 – ジェトロ・ビジネス短信


3. AWSジャパン、生成AI導入を支援する新プラン開始

概要

クラウド大手のAWSジャパンが、中小企業を含む企業の生成AI活用を後押しする新たな支援策を打ち出しました。6月25日、AWSは自社の「生成AI実用化支援プログラム」において、2つの新支援プランの提供開始を発表しました。1つ目は、経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が主催する生成AIコンペ「GENIAC-PRIZE」応募者向けの支援プランです。このプランでは、懸賞金プロジェクトへの応募企業に対し、クラウド計算リソースの提供からAI実装・事業化まで一貫サポートするとのことです。2つ目は「Agentic AI実用化推進プラン」で、自律エージェント型AI(Agentic AI)の開発・導入に取り組む企業や開発者を総合支援する内容です。複数AIの連携や倫理・セキュリティ面の設計など高度な課題について、AWSとパートナー企業が協力して支援し、実用化を加速する仕組みです。

中小企業への影響

これらの新プランにより、中小企業でも最新の生成AI技術に取り組みやすくなることが期待されます。GENIAC-PRIZE応募者支援では、国主導のプロジェクトに参加する中小企業が費用面や技術面のバックアップを受けられるため、革新的アイデアを持つ企業にとって大きなチャンスとなるでしょう。例えば、自社の課題解決サービスを生成AIで開発する際に、AWSのクラウドクレジットや専門家支援が受けられれば、限られたリソースでもプロトタイプ構築が進めやすくなります。一方、Agentic AIの支援は、将来的にAIエージェントを業務に活かしたい企業にとって有益です。マーケティングやカスタマーサポートで自律的に対応するAIを導入する動きが広がれば、中小企業でも省力化やサービス向上につながるでしょう。ただし、高度なAI活用にはセキュリティやプライバシーへの配慮も不可欠であり、支援プランを活用しつつ自社のIT基盤を整備する必要があります。

経営者の視点

経営者は、提供された支援策を積極的に活用する戦略が求められます。まず、自社の業界や業務課題に対して、生成AIで解決できそうなテーマがないか洗い出してみましょう。もし国や大手企業主催のコンテストや支援プログラムにマッチするテーマがあれば、ぜひ応募や相談を検討してください。特に、GENIAC-PRIZEのような公的プロジェクトは採択されれば知名度向上や追加資金の確保にもつながります。また、Agentic AIの分野は少し先端的ですが、チャットボット以上に賢い自律AIが今後主流になる可能性があります。自社でも将来を見据えてAI人材の育成や小規模なPoC(実証実験)を始めておくと良いでしょう。AWSなど信頼性の高いプラットフォームを利用することで、低コストで安全に最新AIを試せる環境が整いつつあります。経営トップが旗振り役となり、社内のDX推進と連動してAI活用を加速させることが重要です。

参考リンク

AWS、2つの「生成AI実用化支援プログラム」支援プランを開始 – EnterpriseZine


4. シャープ、新型AQUOSスマホに生成AI機能を搭載

概要

シャープが発表した新しいスマートフォン「AQUOS R10」(7月上旬発売予定)と「AQUOS wish5」(6月下旬発売予定)は、ビジネスパーソンにも役立つ生成AI機能を搭載しています。特にAQUOS R10では、通話中の会話からキーワードを自動抽出しメモに残す「電話アシスタント」機能が採用され、メモ内に日時が含まれる場合はカレンダーへの予定登録を自動提案します。また、画像生成AI技術を応用し、撮影写真に写り込んだ不要な物体をワンタッチで除去できる編集機能も強化。シャープはGoogleの生成AI「Gemini」を活用すると同時に、自社開発技術も組み込んでいます。

中小企業への影響

最新スマートフォンへの生成AI搭載は、ビジネスの現場での生産性向上につながるでしょう。例えば、経営者や営業担当者がAQUOS R10を利用すれば、会話内容の要点を自動で記録してくれるため、打ち合わせや商談後のメモ漏れ防止に役立ちます。日程調整も通話中に自動提案されることで、スケジュール管理の手間が軽減されるでしょう。中小企業では人手が限られているため、スマホの賢い機能を活用して業務効率化を図れる点は大きなメリットです。また、写真から不要物を消せる機能は、商品画像や現場写真のクオリティ向上に寄与します。社内に専門のデザイナーがいなくても、ある程度AIが画像加工を自動化してくれるので、マーケティング素材の作成もスピーディーになるでしょう。ただし、これらAI機能は精度向上の途上でもあります。誤認識や誤削除も起こり得るため、最終的な確認は人間が行うなど上手に補完することで、便利さと安心感の両立が可能です。

経営者の視点

経営者は、身近なツールに搭載されたAI機能にも注目しましょう。スマートフォンは従業員が日常的に使う道具ですから、最新機種へのリプレース時には業務に役立つAI機能を評価ポイントに入れるとよいです。例えば、「通話内容の自動メモ」は顧客との電話商談を多くこなす業種で威力を発揮します。導入する際は、録音やデータ保存に関する社内ルールも整備し、プライバシーや情報管理に配慮することを忘れずに。さらに、社内でこうした機能の活用法を共有し、デジタルリテラシーを高める研修を行うのも有効です。スマホのAI機能は今後ますます進化し、翻訳や資料要約など様々な業務支援に広がるでしょう。経営トップ自ら新機能を試してみて、自社での活用シーンを見極めることが大切です。新しい技術に前向きに触れ、小さな効率化の積み重ねから全体の生産性向上につなげていきましょう。

参考リンク

シャープ「AQUOS R10」を発表、ライカカメラ監修の2眼+スペクトルセンサー搭載 – ケータイ Watch


5. 専門業務にAI活用:税関手続を支援する新サービス

概要

NECは6月、貿易業務の一部を支援する生成AIサービス「AI税番判定サポート」の提供を開始しました。輸出入の通関手続きでは、商品ごとに定められた「輸出入統計品目番号(通称:税番)」を特定する必要があります。この税番は世界共通の分類コードで約1万種類もあり、熟練の通関士でも判定に経験と時間を要する作業です。新サービスは生成AI技術を使い、商品の説明から適切な税番候補と根拠条文をAIが提示。最終的な税番決定は人間が行いつつも、候補絞り込みと情報提供を自動化することで、判定に要する手間と時間を大幅削減できます。慢性的な通関士不足や技能継承の課題に対応するソリューションとして期待されています。

中小企業への影響

貿易業務に携わる中小企業にとって、このAIサービスは実務効率と正確性の向上に寄与しそうです。税番ミスは関税計算の誤りや通関遅延を招きかねませんが、AI税番判定サポートを使えば社内の一般社員でもAIの提案をもとに税番を選定しやすくなり、確認作業の回数減少やリードタイム短縮が期待できます。また、AIが根拠を提示するため、担当者の学習ツールとしても役立ち、徐々に社内で知見が蓄積されるでしょう。注意点としては、AIの提案に完全依存しない体制づくりです。最終判断は人間が行う前提とはいえ、誤った候補が提示される可能性もゼロではありません。従って、このサービスをダブルチェック要員として位置付け、人とAIの併用で業務精度を高めることが重要です。

経営者の視点

経営者は、専門知識が要求される領域へ積極的にAIを導入する決断が求められます。まず、自社の業務フローを見直し、高度なノウハウがボトルネックになっている箇所を洗い出してみましょう。今回の通関業務のようにエキスパート不足が顕著な分野では、AIを第二のスタッフとして活用するのは有効な戦略です。導入にあたっては、現場担当者への教育と運用ルール策定を並行して行い、「AIの提示結果を必ず2人以上で確認する」「AIの精度向上のためフィードバックを記録する」といった手順を定めておくと、安心してAIを使いこなす社内文化が醸成できます。経営層は導入効果を定期測定し、コスト削減や業務時間短縮の数値を共有することで、他の業務へのAI展開も促進されるはずです。人とAIの協働で生産性向上を図ることが、中小企業が直面する人材不足問題の解決策の一つとなります。

参考リンク

NEC/輸出入の品目分類を生成AIで支援するサービス提供開始 – LNEWS


まとめ

今回取り上げたニュースからは、生成AIをめぐる技術革新と制度整備が同時進行で進んでいることが分かります。米国の判決や政策提言に見るように、社会はAIを受容しつつ秩序立てる段階に入りつつあります。また、日本企業による支援策や新製品の登場は、最新AIがより身近で実用的な形でビジネスに浸透してきている兆しと言えるでしょう。一方で、その恩恵を最大限生かすには企業側の準備と対応も不可欠です。中小企業経営者は、技術トレンドをキャッチアップするとともに、自社で何が活用できるか積極的に模索する姿勢が求められます。具体的には、公的プロジェクトへの参加や新サービスの試験導入、社内人材の育成とルール整備など、できることから着手しましょう。生成AIは今後もビジネスのあらゆる場面へと急速に広がっていくでしょう。チャンスとリスクを正しく見極め、自社の成長に結び付ける俊敏かつ柔軟な経営判断を行うことが重要です。

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