生成AIニュースまとめ(2025年11月24日〜11月30日)
生成AI(ジェネレーティブAI)をめぐり、日本国内でも事業や政策の動きが相次いでいます。この期間は、国産の大規模言語モデル(LLM)の提供開始、ECサイト向けの生成AI検索サービス、スライド生成AIのセキュリティ強化、最新AIモデルへの対応、そして学習データの透明性をめぐる議論など、中小企業にとって見逃せないテーマが並びました。
中小企業経営者が押さえておくべき重要なニュースは、①さくらインターネットによる国産LLM「PLaMo 2.0」提供、②ecbeingの生成AIサイト内検索「デジサルAIサーチ」、③スライド生成AI「ReDeck」の東京リージョン移行、④JAPAN AIによるGemini 3 Pro/Nano Banana Pro対応、⑤日本新聞協会によるAI基本計画への提言の5つです。それぞれのポイントと、中小企業経営にとっての意味合いを分かりやすく解説します。
1. 純国産LLM「PLaMo 2.0」採用で、国産生成AI基盤がさらに進化
概要
さくらインターネットは、生成AI向け推論API基盤「さくらのAI Engine」で、Preferred Networks(PFN)が開発した純国産の大規模言語モデル「PLaMo 2.0-31B Instructed」の提供を開始しました。
本モデルは日本語性能を重視してフルスクラッチで開発され、日本のデータセンターで稼働することから、日本国内で処理を完結させたい企業ニーズに応える構成になっています。汎用的な文章生成から定型業務の自動化、複数のAIを組み合わせたAIエージェント(複数のAIが連携して仕事を進める仕組み)の中核まで、幅広い用途で活用できる点が特徴です。
中小企業への影響
中小企業にとっては、「海外のAIは便利だが情報漏えいが心配」「日本語の微妙なニュアンスがうまく伝わらない」といった不安を和らげる選択肢が増えたと言えます。国内データセンターで動く国産モデルであれば、取引先情報や社内資料を扱うケースでも説明がしやすく、社内からの心理的な抵抗も下げやすくなります。
また、「さくらのAI Engine」のサービスとして提供されることで、自社でサーバーを用意したり、モデルを細かくチューニングしたりしなくても、クラウド経由で利用できる点は中小企業向きです。API連携(システム同士をつなぐ仕組み)を使えば、社内ナレッジ検索やFAQボットなども比較的短期間で構築でき、自社専用の「社内向けチャットAI」のような環境を、国産モデルで実現しやすくなります。
経営者の視点
経営者としては、「将来どのAIを標準にしていくか」を考えるうえで、国産モデルの動向を押さえておくことが重要です。いきなり大規模な投資をする必要はありませんが、まずは一部の業務で試験導入して、精度や使い勝手、コスト感を社内で確認しておくと、他社が動き出したときに素早くキャッチアップできます。
特に、営業メールや提案書のたたき台作成、社内マニュアルの要約、議事録の整理、問い合わせの一次回答など、「人がゼロから書いていたが、文章パターンがある程度決まっている」業務は相性が良い領域です。国産モデルを選ぶこと自体が、取引先や顧客に対して「データの扱いに配慮している会社」というメッセージにもなるため、セキュリティと生産性向上を両立できる選択肢として検討する価値があります。
参考リンク
さくらインターネット:「さくらのAI Engine」でPFN「PLaMo 2.0-31B Instructedモデル」を提供開始
2. ECサイト内検索を生成AIで強化、ecbeingが「デジサルAIサーチ」提供開始
概要
ECサイト構築プラットフォームを展開するecbeingは、サイト内検索を生成AIで最適化する新サービス「デジサルAIサーチ」の提供を開始しました。
ECサイト内のコンテンツを生成AIで横断的に検索し、商品だけでなくコーディネート記事や特集ページもまとめて提案できる仕組みです。サイト上には「AI検索」ボタンを設置し、専用ページでユーザーが会話形式で相談しながら商品や情報を探せるのが特徴です。導入作業はボタンとタグの設置が中心で、最短1週間程度で利用開始できるとされています。
中小企業への影響
従来のサイト内検索は、「商品名を正確に入力しないとヒットしない」「記事コンテンツが埋もれてしまう」といった課題がありました。中小規模のECサイトでは、高機能な検索エンジンを入れようとしてもコストがネックになり、類義語登録やチューニングに手が回らないケースも多いのが実情です。
「デジサルAIサーチ」は、生成AIが言葉の揺れを吸収し、ユーザーのあいまいな表現から意図をくみ取ってくれるため、「ふんわりしたニーズしか言えないお客様」にも対応しやすくなります。さらに、導入企業のデータでは、AIと対話しながら商品を探したユーザーの注文率が従来より大きく向上したという結果も紹介されています。
広告費を増やさなくても、検索に来たお客様を逃さずに売上を底上げできる可能性がある点は、中小企業にとって大きなメリットと言えます。
経営者の視点
経営者としては、自社サイトの「検索からの離脱」がどれくらいあるかを一度確認してみるとよいでしょう。検索結果に満足できずに離脱しているユーザーが多い場合、こうした生成AI検索は売上改善の有力な打ち手になり得ます。
テスト導入の際は、特定カテゴリだけAI検索を有効にしたり、特定のランディングページからのみ誘導したりする形で、小さく始めるのがおすすめです。ABテストで「AI検索あり/なし」を比べれば、CVR(成約率)の違いや客単価への影響が見えてきます。
すぐに導入しない場合でも、「よくある質問」「送料や納期の情報」「人気のコーディネート記事」など、AIが答えやすい情報を整理しておくと、将来の導入時にスムーズです。あくまでAIは接客を支援するツールなので、誤回答が出たときの対応ルールや、有人チャット・電話への引き継ぎ方も含めて設計しておくと安心です。
参考リンク
PR TIMES:ecbeingが生成AIサイト内検索「デジサルAIサーチ」を提供開始
3. スライド生成AI「ReDeck」、Geminiの東京リージョン移行でセキュリティ強化
概要
資料作成支援事業を手がけるストリームラインは、スライド生成AIサービス「ReDeck」で利用するGoogleの生成AIモデル「Gemini」について、データ送信先を海外リージョンから東京リージョンへ全面移行したと発表しました。
従来から保存データはAWS東京リージョンで管理していましたが、今回の変更により、AI生成時のデータ送信も含めて、情報の保管から処理までがすべて日本国内で完結する構成になりました。ReDeckは、既存のPowerPoint資料と載せたい情報を組み合わせて、新しい提案書やホワイトペーパーを自動生成できるスライド生成AIサービスで、資料作成時間の大幅削減をうたっています。
中小企業への影響
エンタープライズ企業や官公庁では、「AIに投げたデータがどこで処理されるのか」「国外のクラウドに出ていかないか」が導入可否を分けるチェック項目になっています。中小企業でも、取引先からのセキュリティチェックシートでデータの保管場所や送信先を聞かれることが増えており、生成AIを使った資料作成に慎重になっているケースは少なくありません。
ReDeckでは、ひな形となる既存スライドのレイアウトを活かしつつ文章部分を自動生成できるため、「全てを一から作る」作業が減ります。提案書作成のボトルネックになっていた構成案づくりや文章のたたき台作成をAIに任せられる点が強みで、人が行うのは最終的な表現の調整や、自社ならではの事例・数字の追加といった付加価値部分に集中できるようになります。
経営者の視点
経営者の立場では、まず「誰が、どのくらい資料作成に時間を使っているか」を棚卸ししてみることが重要です。営業資料や提案書、社内説明用スライドなどに多くの工数が割かれている場合、ReDeckのようなスライド生成AIは有力な打ち手になります。
そのうえで、情報セキュリティポリシーや取引先の要求事項を確認し、「国内リージョン完結」「送信データは学習に利用しない」といった要件を満たしているかをチェックすると安心です。いきなり全社展開するのではなく、営業部やマーケティング部など資料の多い部門でパイロット導入し、仕上がり品質と工数削減効果を数値で確認することをおすすめします。
あわせて、「AIが作ったスライドは必ず人がレビューする」「数字や固有名詞は必ず一次情報で確認する」といった社内ルールを決めておくと、品質トラブルも避けやすくなります。ツール導入そのものを目的にせず、「1案件あたりの資料作成時間を◯%減らす」「提案書の作成本数を◯倍にする」など具体的な目標を置くことで、投資対効果を高めやすくなります。
参考リンク
PR TIMES:スライド生成AI「ReDeck」で利用するGeminiモデルが東京リージョンへ全面移行
4. JAPAN AIが「Gemini 3 Pro」「Nano Banana Pro」に対応、テキストと画像生成が高度化
概要
JAPAN AI株式会社は、自社の生成AIプラットフォームで利用できるモデルとして、Googleの最新大規模言語モデル「Gemini 3 Pro」と、高精細な画像生成・編集に対応する「Nano Banana Pro」への対応を発表しました。
Gemini 3 Proは、複雑な情報の分析や判断に強みを持ち、コード生成や画面・UIの読み取り精度、外部ツールとの連携性が向上したとされています。Nano Banana Proは2K〜4K解像度の画像生成に対応し、照明やカメラアングル、アスペクト比などを細かく指定できるほか、複数画像をまとめて編集・合成できるのが特徴とされています。
中小企業への影響
これにより、JAPAN AIのサービス上で、テキストと画像の両面から高度な生成AI機能を使えるようになります。会議の議事録から図解入りレポートを作成したり、提案資料用の体制図やイメージ画像を短時間で生成したりすることが現実的になります。
また、テキストと画像を組み合わせたクリエイティブ生成に強いことから、WebサイトやLP、オンライン広告のバナー案を複数パターン出し、反応のよいものを選ぶといった運用とも相性が良いでしょう。論理的な分析に強いGemini 3 Proと、表現力の高いNano Banana Proを組み合わせれば、「データ分析から示唆出し」「ビジュアルを含む提案作成」までを一気通貫で支援する形も見えてきます。
これまで外部の制作会社や社内デザイナーに依頼していた軽微なデザイン作業の一部を、ビジネス担当者自身がAIを使ってこなせるようになれば、「ラフ案はAIで素早く作り、最後の仕上げだけ専門家に任せる」という新しい役割分担も可能です。限られた人員で多くの資料やコンテンツを作らなければならない中小企業にとって、生産性と表現力を同時に高められるアップデートと言えます。
経営者の視点
経営者としては、「自社で本格的な画像生成まで必要か」「まずはテキスト生成から試すか」を整理したうえで、段階的な活用プランを描くことが大切です。最初から全ての高度な機能を使いこなす必要はありません。営業資料や社内報、採用ページなど、アウトプット頻度が高い領域に対象を絞り、「どの作業をAIに任せると効果が大きいか」を現場と一緒に洗い出してみましょう。
とくに画像生成については、商用利用の可否やクレジット表記の要否など、サービスごとに条件が異なります。自社ブランドのロゴや製品写真を使った生成・編集を行う場合には、ブランドガイドラインと照らし合わせつつ、どこまでAIに任せてよいかを事前に決めておくと安心です。小さく試しながら「どこまで任せられるか」を見極めていく姿勢が、失敗コストを抑えつつ成果を積み重ねる近道になります。
参考リンク
PR TIMES:JAPAN AIが「Nano Banana Pro」と「Gemini 3 Pro」に対応
5. 日本新聞協会がAI基本計画に意見、学習データの透明性と報道コンテンツ保護を要請
概要
日本新聞協会は、政府が策定を進めている「人工知能基本計画骨子」と「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針骨子」に対する意見書を11月27日に提出しました。
生成AIの学習や回答生成に報道コンテンツが無断で使われている懸念を示し、AI事業者に対して、どのようなデータを学習に利用しているのかを明らかにする仕組みや、権利者への適切な対価還元の枠組みを整備するよう求めています。また、検索結果からユーザーが元サイトを訪れない「ゼロクリックサーチ」が広がることで、報道機関の収入と情報提供機能が損なわれかねない点も問題として指摘しました。
中小企業への影響
一見すると大手メディアとAI企業の話に見えますが、生成AIを業務に使う中小企業にとっても無関係ではありません。今後、AIサービスを選ぶ際には、「どのようなデータを学習に使っているか」「権利処理や対価還元をどう考えているか」といった点が、品質だけでなくコンプライアンス面からも重要な比較軸になっていくと考えられます。
また、自社でWeb上の情報を収集・学習させるような仕組みを作る場合、著作権や利用規約に配慮したデータ利用が求められる流れが一層強まりそうです。社内ブログやニュースレターの文章を生成AIに書かせる場合でも、他社の記事や有料レポートをそのまま貼り付けて要約させるような使い方は避け、自社で権利を持つ資料や、引用ルールを確認できる情報を中心に活用する必要があります。
経営者の視点
経営者としては、まず現在利用している生成AIサービスについて、利用規約やプライバシーポリシーを改めて確認し、「学習データの扱い」「生成物の権利」の考え方を把握しておくことが重要です。そのうえで、自社のAI活用方針として、
① 著作権や機密情報に配慮した入力ルール
② 生成物のチェックプロセス
③ 取引先から質問されたときに説明できる最低限の社内ポリシー
の3点を整備しておくと安心です。
あわせて、社員向けに「こんな入力はNG」「この範囲ならOK」といった具体例ベースのガイドラインを共有しておくと、現場レベルでの迷いを減らせます。特に、クリエイティブ制作や情報発信の担当者は生成AIとの接点が多いため、疑問点を相談できる窓口を決めたり、定期的に利用状況をレビューしたりする仕組みを用意しておくとよいでしょう。ルールや法律が変わったときにアップデートしやすい体制を作っておくことが、長期的なリスク管理につながります。
参考リンク
日本新聞協会:「AI基本計画骨子」「適正性確保に関する指針骨子」に対する意見を表明
まとめ
生成AIをめぐる動きを振り返ると、技術(国産LLMや最新モデル)、サービス(EC検索やスライド生成)、そしてルール(学習データの透明性や権利保護)が同時に進んでいることが分かります。中小企業にとっては、「何となく便利そうだから使う」段階から、「どのツールをどの目的で、どんなルールのもとで使うか」をはっきりさせる段階に入ってきたと言えます。
経営者としては、次の3点を意識しておくとよいでしょう。
- 小さく試し、数字で効果を確認すること
- 資料作成時間、CVR、問い合わせ対応時間など、具体的な指標で効果を測る。
- セキュリティと権利の観点を早めに押さえること
- データの保管場所・送信先、学習データの扱い、生成物の権利について、ベンダーの考え方を確認する。
- 社内ルールと教育をセットで進めること
- 入力NG例/OK例、レビュー方法、トラブル時の対応フローを簡潔に共有する。
生成AIは、うまく活用すれば人手不足の補完や、少人数での高付加価値ビジネスを支える強力な味方になります。一方で、なんとなく導入すると、コストやリスクだけが増えてしまう可能性もあります。今回のニュースをきっかけに、自社の業務のどこに生成AIを組み込むと効果が大きいか、一度洗い出してみてください。
今後も、国内外の動きを追いながら、中小企業の経営に役立つ生成AIニュースを分かりやすくお伝えしていきます。

