生成AIニュースまとめ(2025年10月27日〜11月2日)

生成AIニュースまとめ(2025年10月27日〜11月2日)

生成AI(ジェネレーティブAI)をめぐって、国内では実務に直結する発表が相次ぎました。中小企業経営者が押さえておくべき重要なニュースは、①ソフトバンク系による日本語特化LLM「Sarashina」の公開、②滋賀県が全庁約6,000名で生成AIを本格運用し始めたこと、③出版社やクリエイター団体が生成AIと著作権の扱いを明確にする共同声明を出したこと、④広告制作をAIで安全に行える「DDDAI Studio」のリリース、⑤IR動画を自動で作れる「NoLang」の新機能追加の5つです。今回は2025年10月27日〜11月2日の国内ニュースから、経営判断に役立つポイントだけを抜き出して解説します。

目次

1. ソフトバンクが国産LLM「Sarashina」を公開、国内完結型の生成AIが前進

概要

ソフトバンクの生成AI子会社SB Intuitionsは10月29日、日本語に特化した国産LLM「Sarashina(サラシナ)」を公開し、通信業界向け生成AI基盤「Large Telecom Model(LTM)」に組み込むと発表しました。国内で学習から運用まで完結でき、専門用語を含む日本語の長文も高精度で処理できる点が特徴です。さらに業界ごとのチューニングモデルも順次そろえる計画で、自治体・医療・製造などデータを外に出しにくい分野にも広げていくとしています。国産モデル間の連携が進むことで、国内だけで完結するAIエコシステムの形成が一歩進んだかたちです。同日には通信事業者向けの説明会も行われ、早期の商用展開を目指すとしています。

中小企業への影響

日本語に強い国産モデルが増えると、英語前提の海外サービスに比べて導入やカスタマイズのハードルが下がります。特に顧客情報や図面、契約書などを扱う業種では、クラウドに上げにくかったデータを社内完結でAIに読み込ませやすくなります。通信業だけでなく、地域金融や自治体向けの派生サービスが後追いで出てくる可能性も高く、取引先が「国産でないと不可」としている企業への提案材料にもなります。価格面でも国内事業者が競合することで利用料が抑えられる期待があり、小さく複数のPoCを回しやすくなります。

経営者の視点

「生成AIを試したいが情報漏えいが怖い」という理由で止まっていた企業は、国内完結型の提供形態を優先して検討すべき段階に来ています。まずは社内にある日本語ドキュメントの検索・要約・回答といった業務から着手し、効果が確認できたら営業支援やカスタマーサポートなど外部向けの活用に広げると安全です。導入時には費用だけでなく、データの保管場所や再学習に使われるかどうか、障害対応の連絡先などを契約で明確にし、長期的に使える体制を整えておきましょう。社内でAI活用の責任者を一人決めて、進捗と成果を毎月確認すると定着しやすくなります。

参考リンク

ソフトバンク株式会社:通信業界向け生成AI基盤モデル「Large Telecom Model」が国産LLM「Sarashina」に対応

2. 滋賀県が職員約6,000名に生成AIを展開、自治体での本格利用が加速

概要

NTTドコモビジネスは10月30日、滋賀県庁の約6,000人の職員が使う業務環境に自治体向け生成AIサービス「exaBase 生成AI for 自治体」を一括導入したと公表しました。エクサウィザーズ傘下のExa Enterprise AIと連携し、県が保有する独自データを安全に参照できるRAG(検索拡張生成)環境を構築したのが特徴です。2025年5月の資本業務提携後では初の大型自治体案件で、他県への横展開を見据えたショーケース的位置付けとしています。10月から本格運用を開始し、文章の要約や企画書のたたき台づくり、条例案の比較などで職員の事務負担を軽くする狙いがあります。庁内研修も同時に進め、利用部門を段階的に広げていく計画です。

中小企業への影響

自治体がここまで大規模に生成AIを採用したことで、県や市町の調達基準に「生成AIに対応していること」が盛り込まれる可能性が高まりました。自治体と取引のある中小企業は、見積書や仕様書の作成をAI支援前提で効率化できるようにしておくと、納期や価格で優位に立てます。また、地方の中小企業でも「県が使っているのと同じ仕組み」という説明ができるため、社内の理解を得やすくなります。自治体向けに業務マニュアル整備や研修を行っている事業者にとっては、生成AIの使い方教育を新メニューとして販売するチャンスにもなります。

経営者の視点

公共分野での実績ができると、同じサービスが民間にも一気に広がるのが日本の特徴です。自社でも総務・人事・経理など横断業務での生成AI活用を早めに試し、「自治体への提案書を10分で作れる」「議事録を自動で要約して議会風に整形できる」といった具体的な成果を社内に見せましょう。RAGを使う場合は、社内文書のタグ付けや更新ルールをきちんと決めておくことが将来のトラブル防止になります。自治体案件は情報セキュリティの要求が高いため、ISMSやプライバシーマークなどの認証取得も並行して検討すると営業上有利です。県や市が今後行うであろう民間企業との共同実証に、地域企業として積極的に手を挙げる姿勢も示しておきたいところです。

参考リンク

NTTドコモビジネス:生成AIを滋賀県全庁約6,000名に導入

3. 出版社・クリエイター団体が生成AIと権利のあり方で共同声明、オプトイン徹底を要請

概要

日本漫画家協会や講談社・集英社・KADOKAWAなど主要な出版社・団体は10月31日、「生成AI時代の創作と権利のあり方に関する共同声明」を公表し、AI事業者に対して著作物を学習させる際は権利者からの事前許諾(オプトイン)を徹底するよう求めました。権利者が後から「使わないでほしい」と申請するオプトアウト方式は、著作権の原則に反するとの考えも示しています。無断で学習された結果として、アニメや漫画のキャラクターに酷似した画像・動画が生成される事例が出ていることを受け、学習データの透明性を高め、権利者の意向を尊重するよう訴えたものです。生成AIの利便性よりも、創作者の権利保護を優先する姿勢を国内の大手が明確に示した点が重要です。

中小企業への影響

キャラクターや既存作品に近いビジュアルを生成AIで使っている企業は、今後、取引先から「どのAIサービスで作ったのか」「学習データは権利処理されているのか」と確認される可能性があります。特に出版・アニメ・ゲーム業界と仕事をしている制作会社やグッズメーカーは、契約書の中にAI生成物に関する項目が追加されることを想定しておくべきです。自社のプロモーションでAI画像を使う場合でも、人気作品に似たキャラクターを安易に使うと炎上や差し止めのリスクが高まります。

経営者の視点

今回の声明はAIの利用を否定しているわけではなく、「誰の作品を学習に使い、どのような生成物を公開してよいのかを明確にせよ」という要請です。中小企業でも、社内規程に「生成AIで作成した画像・動画・文章は、権利が不明なものを公開しない」「有名キャラクターに似たものは社外用に使わない」といった最低限のルールを入れておきましょう。外部の制作会社にAI生成を依頼する際には、生成に使ったサービス名と利用規約、権利処理の方法を納品書と一緒に出してもらうと後々安心です。クライアントからの問合せにすぐ回答できる体制を整えておくことが、これからの受注競争での信頼につながります。顧客ごとに利用を許可しているAIサービスをリスト化しておくと、現場が迷わずに済みます。

参考リンク

日本漫画家協会ほか:生成AI時代の創作と権利のあり方に関する共同声明

4. 広告制作を生成AIで安全に行う「DDDAI Studio」が登場、地方の制作会社にもチャンス

概要

Mavericksと大広WEDOは11月1日、生成AIを活用して広告制作の素材づくりを効率化するシステム「DDDAI Studio」を共同開発し、正式に提供を開始したと発表しました。オンプレミス環境でも動作するため、未公開の製品画像やタレント写真を社外に出さずに、構図や背景を変えたさまざまなパターンを一気に生成できるのが売りです。広告制作の現場で課題になっていた「狙ったビジュアルを安定的に出す」「同一人物で複数のシーンを作る」といったニーズに対応できるとしています。生成した画像や過去の制作物はシステム内で一元管理され、チームで再利用できるため、ナレッジの属人化も防げます。

中小企業への影響

これまで大手広告会社しか回せなかったビジュアル制作の手数が、生成AIを使うことで地方の制作会社や広報部でもこなせるようになります。自社商品を撮影する余裕がない場合でも、プロのカンプに近い素材を短時間に準備できるため、ECやSNSでの告知スピードを上げられます。オンプレ対応であれば、顧客の未公開資料を預かっても安心して制作できるため、製造業や金融機関など情報管理が厳しい業種との取引拡大にもつながります。広告・デザイン系の中小企業にとっては「生成AIで制作をしてもデータは外に出さない」という説明ができること自体が、営業の新しい切り口になります。

経営者の視点

生成AIを広告制作に組み込むときのポイントは「クリエイティブは自動化しても、ブランドの判断は人が行う」ことです。AIで大量に作った案の中から、最終的にどのトーン・どの表現を採用するのかは経営やマーケティングの責任として残します。制作会社であれば、生成AIを使った制作時間の短縮分を「提案数の増加」や「動画・ARなど新しい表現の追加」に振り向け、価格競争でなく価値提案で勝てるようにしましょう。社内での運用ルールやチェックリストを作成し、生成画像が著作権や商標を侵害していないか、人の目で最終確認をする工程も必ず入れてください。

参考リンク

PR TIMES:生成AIを活用した広告制作支援システム「DDDAI Studio」- Mavericksと大広 WEDOが共同開発し、正式リリース

5. IR動画を自動生成する「NoLang」が多言語対応、投資家向け情報発信を省力化

概要

生成AIスタートアップのMavericksは11月2日、動画生成AI「NoLang(ノーラング)」にIR資料から多言語のIR動画を自動生成できる新機能を追加したと発表しました。決算説明のPDFやスライドをアップロードすると、AIアバターが内容を読み上げる動画を自動で作成し、日本語と英語で同時に出力できます。経営者本人に似せたアバターや音声を登録しておけば、本人が撮影に出られない場合でも“社長が説明している”動画を短時間で用意できます。東京証券取引所が2025年7月からIR体制の整備を全上場企業に求める方針を示していることを受け、動画による情報開示のニーズがさらに高まると見込まれます。

中小企業への影響

IR動画というと上場企業向けのイメージが強いですが、資金調達を考えている中小企業や、地域金融機関に事業を説明する機会が多い企業でも活用できます。日本語と英語をワンクリックで作れるため、海外の取引先や投資家に向けた会社案内動画としても再利用できます。撮影やナレーターの手配が不要になることで、月次決算やキャンペーンのたびに最新情報を動画で出すといった“継続的な発信”がやりやすくなります。制作を外部に出すと1本数十万円かかるケースでも、生成AIであれば内容の修正に応じた本数を短時間で用意でき、スピードとコストの両方で優位に立てます。

経営者の視点

動画による情報発信は「見られるまでが大変」「毎回同じクオリティを維持するのが大変」という課題があります。生成AIで台本から動画まで自動化できるようになった今こそ、どの情報を動画にするか、どこから先は人が説明するかを整理しておきましょう。採用や社内教育、商品説明などにも横展開できるため、まずは社長メッセージや会社の強みを動画テンプレートとして作成し、必要なときに内容だけ差し替える運用にすると効果が高いです。金融機関や投資家に提出する前には、開示してよい情報かを必ずチェックし、生成した英語字幕に誤訳がないかも確認してください。

参考リンク

PR TIMES:動画生成AI「NoLang」で、IR動画の作成を完全自動化。PDF資料から多言語IR動画を自動生成する新機能を搭載

まとめ

生成AIの動きは、技術そのものよりも「誰がどの規模で実運用を始めたか」で見ていくと、自社にとってのタイミングが分かりやすくなります。今回は自治体・通信・広告・IRというバラバラな分野で導入が進み、国産モデルもそろい始めました。経営者の方は①社内で使うときのルールづくり、②試験導入する部署と案件の選定、③生成した成果物の権利確認――の3点を早めに着手してください。そうすることで、新しいニュースが出るたびにすぐ自社に当てはめて判断できるようになります。次回も最新の国内動向を整理してお届けします。

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