生成AIニュースまとめ(2025年10月20日〜10月26日)
生成AI(ジェネレーティブAI)分野で、国内の実装とインフラ拡充が一気に進んだ期間でした。中小企業経営者が押さえておくべき重要なニュースは、NTTの国産LLM「tsuzumi 2」提供開始、さくらインターネットのB200搭載マネージドスパコン提供、ソフトバンク×JDSCのAIエージェント提携、日立×Gen-AXの成熟度診断サービス、富士通のプライベート領域対応「Generative AI Platform」正式提供です。日本語特化モデル、国内GPUリソース、業務自動化エージェント、評価・ガバナンス基盤、セキュアな実行環境という5つのピースが揃い、試行から定着へと移る準備が整いました。費用対効果とセキュリティの両立が可能になり、まずはRAGと部門横断の省力化から成果を出しやすい局面です。
1. NTT、国産LLM「tsuzumi 2」を提供開始 日本語タスクの精度と運用性を強化
概要
NTTは10月20日、国産大規模言語モデル「tsuzumi 2」の提供開始を発表しました。前モデルから文脈理解や長文処理、日本語固有表現の扱いを強化し、検索拡張(RAG)・要約・情報抽出・対話の業務頻出タスクで精度を底上げしています。学習データの権利管理や日本語品質にも配慮し、新聞等の著作物データの扱いを含めデータ主権に目配りした運用を前提とするのが特徴です。クラウド/オンプレ/プライベートクラウドに対応し、ゼロトラスト運用や監査ログ出力など企業のセキュリティ要件に合わせた導入が可能です。NTTはグループ各社のソリューションと組み合わせ、自治体・金融・医療・製造での実装を加速するとしています。さらに、今後は自律連携するエージェント群の研究成果も実装に反映していく方針です。
中小企業への影響
日本語の読み書きが多い現場では、社内文書の要約・FAQ化、議事録整理、契約書の条項抽出、見積・請求の自動起票など“地味だが時間を奪う作業”を確実に短縮できます。軽量設計により推論コストが抑えやすく、既存の文書管理(SharePoint、Box等)やRPA、ワークフローとも繋げやすいのが利点です。海外モデルと比べてデータ取り扱いの説明責任を果たしやすく、社内規程や監査対応の観点でも導入稟議を通しやすくなります。日本語に最適化された意図解釈は、問い合わせ対応ボットや社内検索の満足度向上にも直結します。
経営者の視点
まずはRAGで社内文書を活用する小規模案件から始め、30/60/90日で効果検証→対象部門を広げる段階導入が堅実です。評価用データ(正解例)を用意して精度・TCOを検証し、出力様式(定型文/JSON)や確認・承認フローを先に決めると定着が早まります。併せてガードレール(禁則語、参照元明示、根拠提示)を設定し、ヒューマン・イン・ザ・ループで品質を担保しましょう。比較検討では、海外モデルとのトータルコスト、データ境界、保守体制を同じ土俵で整理し、社内説明を円滑に進めます。
参考リンク
NTTニュースリリース:更なる進化を遂げたNTT版LLM「tsuzumi 2」の提供開始
2. さくらインターネット、B200搭載のマネージドスパコン「さくらONE」を提供開始
概要
さくらインターネットは10月20日、生成AIの学習・推論に最適化したマネージドスーパーコンピューター「さくらONE」でNVIDIA Blackwell世代B200搭載モデルの提供を開始しました。1台あたりGPU8基のサーバーを最大48台まで並列利用でき、合計384GPU規模の計算資源を国内データセンターから即時に確保可能です。CPUはIntel Xeon 6960P×2、DDR5メモリは最大72TB、並列ファイルシステムはLustreを採用。既存のH200モデルと同一プラットフォーム上で運用でき、共通ストレージでデータを共有。ジョブスケジューラや監視を含む運用一括支援、短期予約など柔軟な調達が特長です。学習中の異常検知やリトライ設計など、運用面の“落とし穴”もサービス側でケアされる点が現場に効きます。
中小企業への影響
GPUの在庫確保や初期投資、人材確保が障壁だった微調整(ファインチューニング)や大規模推論に、国産の即戦力インフラという選択肢が加わります。研究開発が主眼の企業はH200、生成AI重視の企業はB200と用途で使い分け可能。国内完結のため、機密データやNDA案件でもデータ所在を説明しやすく、法令順守の観点でも安心材料となります。共通ストレージにより学習・評価・推論のワンパス運用がしやすく、コラボも進みます。
経営者の視点
「学習が本当に必要か」を見極め、まずはRAG+小規模微調整で成果検証→必要に応じ学習規模を増やす段階導入が堅実です。学習目的・品質指標(精度/再現率/コスト)・上限予算を事前に定義し、アイドル時間の少ない予約で無駄を抑制。MLOps運用は外部のマネージド機能に頼り、社内はデータ品質管理とユースケース設計に集中すると投資効率が高まります。社外秘データを扱う場合は、アクセス権限・監査ログ・削除ポリシーを契約前に明文化しましょう。
参考リンク
INTERNET Watch:さくらインターネット、「NVIDIA Blackwell GPU」採用でマネージドスーパーコンピューター「さくらONE」提供開始
3. ソフトバンク×JDSC、AIエージェント領域で資本・業務提携 実行型AIの社会実装を加速
概要
ソフトバンクとJDSCは10月20日、AIエージェント開発での中長期的協業を目的に資本・業務提携を締結しました。ソフトバンクの子会社Gen-AXや社内外のAIソリューション群、JDSCの産業課題知見と実装力を組み合わせ、製造・流通・金融・自治体などへ横展開する計画です。エージェントは、対話だけでなく外部システムと連携して自動で手続きを進める実行型AI。例えば、問い合わせを受けて在庫照会→見積作成→受注登録→配送手配まで行う一連の処理を担当します。提携により、要件定義・PoC・運用までの一気通貫体制を整え、事業化スピードを高める狙いがあります。また、CRMやERP、在庫管理、決済ゲートウェイといった既存システムのAPIと連携しやすい設計を志向しており、既に蓄積されたテンプレート類やコネクタの横展開で、規模の小さな企業でも短期間での立ち上げが可能になると見込まれます。
中小企業への影響
テンプレート化された業務オーケストレーションが整うほど、導入の敷居とコストは下がります。受発注や在庫照会、請求・督促、見積作成、営業メール送付、入金消込など部門横断の反復作業を自動連携できると、事務の“待ち時間”が消え、現場の手離れが進みます。共通部品の活用により、開発会社に依存し過ぎず、短納期での小刻み改善が可能になる点も追い風です。結果として、残業削減や属人化解消といった副次効果も期待できます。
経営者の視点
まずは自社の定型判断(if/then)と例外処理を棚卸しし、責任範囲・監査ログ・権限設計を明確化。SLA(応答時間/成功率)と人的フォールバックを契約に織り込んだうえで、限定範囲で自動実行→人確認→完全自動へ段階移行すると安全です。KPIは「処理時間」「人的介在率」「エラー再実行率」を起点に置き、投資対効果を四半期で可視化しましょう。社内の合意形成には、1分デモ動画と簡易ROI試算、加えて監査用の操作履歴の提示が効果的です。
参考リンク
ソフトバンク:JDSCとAIエージェント開発に関する資本・業務提携を締結(2025年10月20日)
4. 日立×Gen-AX、生成AI活用の成熟度を可視化する診断サービスを発表
概要
日立とGen-AXは10月22日、企業の生成AI活用の成熟度や効果を客観評価する診断サービスを発表しました。導入目的、データ基盤、モデル選定、セキュリティ/ガバナンス、運用体制、人材スキルなどをスコア化し、現状の課題と優先度を可視化。評価結果に基づき、短期・中期で取り組むべき施策とロードマップ、推進体制の在り方までを整理します。部門ごとに進度が違う状況でも、共通物差しにより合意形成と横串での進捗管理を促す点が特徴です。評価の“見える化”は、限られた人員でも優先順位に集中できる環境づくりに直結します。
中小企業への影響
「何からやるべきか」の迷いが時間とコストの損失につながっていましたが、診断により投資の順番を決めやすくなります。例えば、モデル導入前にデータ品質の是正(重複/欠損/正規化)や権限設計、ログ/監査の仕組みを先行整備すべきケースが明確化。ユースケースは、要約→抽出→起票→自動実行の順で小さく試して早く学ぶことが推奨されます。人材育成・運用基準・セキュリティに費用を先行投入する判断もしやすくなります。結果として、失敗コストの最小化と社内説明の迅速化が期待できます。補助金・助成金の活用可否も、事前に整理しやすくなります。
経営者の視点
30/60/90日のマイルストーンでKPI(処理時間、エラー率、コスト、満足度)を設定し、改善サイクルを回す体制を設計しましょう。ガイドライン・テンプレート・再現可能な評価手順を共有資産化し、社外パートナーとは成果物の帰属と保守責任、データの利用範囲、学習に供する際の取り扱いを契約で明確に。診断は目的ではなく手段です。結果で投資の中止・継続・拡大を機械的に判断し、惰性で続けない意思決定プロセスを確立してください。最後に、役員レビューの定例化と現場のフィードバック窓口をセットで整えると、全社最適が実現しやすくなります。
参考リンク
日立ニュースリリース:Gen-AXと生成AI活用成熟度の可視化・診断サービスを発表(2025年10月22日)
5. 富士通、プライベート領域対応の「Generative AI Platform」を正式提供
概要
富士通は10月24日、クラウド型の「Generative AI Platform」を正式提供したと発表しました。顧客データをプライベート領域で管理できる点が特徴で、RAG用データやプロンプト履歴を顧客ごとに分離。推論用のGPUサーバーは共有基盤として提供し、個別構築に比べて初期費用を抑えながら、機密情報を扱う業務でも生成AIを活用できます。国内データセンターから提供され、ベクトル検索やアクセス制御、監査ログ出力など、企業利用に必要な部品を備えています。オンデマンドでのスケールアウトが可能で、繁忙期のみ計算資源を増強する運用にも向きます。RAG用のベクトルDBを前提に、社内文書検索やFAQ基盤を短納期で立ち上げやすい構成です。
中小企業への影響
「機密データを外に置きたくない」「でも費用は抑えたい」という相反する要請に対し、データは個別、計算は共有という形でバランスを取れる選択肢です。チャット相談、契約書・図面・マニュアルの検索、問い合わせ対応の自動化など、守りのDXから導入しやすく、RAGの改善で即効性のある効果が期待できます。将来のモデル入れ替えにも対応しやすく、ロックイン回避にも寄与します。セキュリティレビューの観点でも、国内完結は社内合意を取りやすい材料です。内部監査やISMSの観点でも、ログの完全性を担保できる点は安心材料です。
経営者の視点
機密度の高いデータから順にデータ整備(正規化/匿名化)を進め、アクセス権限・監査・保持期間を明文化。PoCでは「回答の根拠提示」「誤答率」「運用工数」をKPI化し、数週間での可否判断を徹底しましょう。既存のSaaS/ファイル基盤との連携は重要性と効果で優先順位をつけ、効果が薄い自前開発は避けるのが得策です。セキュリティレビューはゼロトラストの観点で、内部脅威も前提に検討してください。最後に、利用規模に応じた費用上限と撤退条件を契約に明記しておくと健全です。
参考リンク
Impress Cloud Watch:富士通、データをプライベート領域に保存し、共有型GPUサーバーでコストを抑えた生成AIサービスを提供
まとめ
生成AIの実装は、モデル(tsuzumi 2)×インフラ(さくらONE)×業務自動化(エージェント)×評価と統治(成熟度診断)×安全な実行環境(富士通プラットフォーム)という組み合わせで前進しました。経営者の皆さまは、(1) RAG+要約で即効性のあるテーマを選ぶ、(2) 30/60/90日でKPIと撤退条件を定める、(3) データ権限・監査を先に整える、(4) 成果が出たら自動実行の範囲を段階拡大、という順で取り組むのが近道です。次回は、各社の導入事例と費用感の最新動向を整理します。社内の“最初の一歩”を一緒に設計していきましょう。

