マーケティングニュースまとめ(2025年12月17日〜12月23日)
マーケティングの現場は、AIが顧客接点を変え、データ活用とプライバシー対応が同時に進むフェーズに入りました。
2025年12月17日〜12月23日に押さえておきたい重要なニュースは、①ChatGPT上で企業サービスを動かす体制整備、②SmartNewsの閲読データを使った潜在興味分析、③位置情報広告の精度向上と来店計測、④AIエージェントによる施策自動化、⑤Cookie同意ツール運用の実務課題、の5つです。
中小企業経営者にとっては「新しい集客導線に備える」「少人数でも回るデータ運用にする」「信頼を損なわないプライバシー対応を整える」ことが、成約につながる土台になります。
1. ChatGPTが新しい接客導線に? 電通グループが「Apps in ChatGPT」対応の開発体制を始動
概要
国内電通グループ(電通総研・電通・電通デジタル)は、ChatGPTの新機能「Apps in ChatGPT」に対応した、企業向けアプリケーションの開発体制を本格始動しました。企業のサービスやデータベース、外部APIをChatGPTに直接つなぎ、対話の流れの中で「商品検索→比較→購入」「予約」「FAQ対応」などを一気通貫で提供できるようにする構想です。加えて、国内企業向けワークショップやPoC(試行検証)支援プログラムも予定されています。
中小企業への影響
これまでの“導線”は、検索→サイト→問い合わせ→購入が基本でした。今後は、顧客がChatGPT上で情報収集から行動まで完結する場面が増え、自社情報がAI経由でどう参照されるかが重要になります。中小企業でも、(1)商品情報・料金・在庫・予約枠・FAQを「1か所に集約」する、(2)更新頻度が高い項目(価格改定、キャンペーン、休業日)を優先して整備する、(3)社内の言い回しを統一して誤解を減らす――といった準備が、機会損失を減らします。さらに、問い合わせフォームだけでなく「見積条件のヒアリング」や「来店予約の空き確認」など、会話に向いた部分を切り出せば、小さな会社でも差別化の余地があります。一方で、社内データ連携にはセキュリティと権限設計が欠かせず、丸投げは危険です。
経営者の視点
まずは“全部AI化”ではなく、成果が読みやすい用途から始めるのが現実的です。例として、問い合わせが多い「価格・納期・保証」「見積もり前の条件整理」「予約変更」などは、データが整理できれば価値が出やすい領域です。経営者としては、①AIに渡す情報の正本(マスター)をどこに置くか、②更新責任者を誰にするか、③人の確認が必要な境界線(例:契約条件・法務・医療)を決めるか、を先に押さえておくと失敗しにくいです。加えて、導入後は「問い合わせ削減」だけでなく「成約率」「平均単価」「リピート」など、売上につながる指標で効果を確認し、会話ログから“つまずき”を見つけて改善する運用が重要になります。
参考リンク
電通総研:国内電通グループ、OpenAI「Apps in ChatGPT」に対応する独自アプリケーション開発体制を始動
2. SmartNewsの閲読データで“潜在興味”を可視化:データクリーンルーム分析支援が開始
概要
スマートニュースは、ニュースアプリ「SmartNews」上の記事閲読行動データを活用し、生活者の潜在的な興味・関心を可視化・分析できる「SmartNews Ads Dynamic Affinity」の提供を開始しました。閲読傾向や広告接触履歴といった同社の独自データを用い、興味関心を約800カテゴリでAIスコア化して動的に分析します。分析はデータクリーンルーム(個人を特定しない統計処理・安全な環境)で行い、第一弾として博報堂・Hakuhodo DY ONEと連携して広告主の分析支援を進めるとしています。
中小企業への影響
3rdパーティCookieなど外部データが使いにくくなる流れの中で、媒体が持つ「行動データ」をどう活かすかが勝負になっています。中小企業は大規模な調査をしづらい反面、媒体の分析支援や代理店の知見を借りることで、少ない予算でも“当たりやすい相手”に絞る可能性が出ます。たとえば、いきなり購入を迫る広告よりも、潜在層に「比較のポイント」「失敗しない選び方」など学び系の訴求を当てて、指名検索や問い合わせにつなげる設計がしやすくなります。注意点は、セグメントが細かいほど母数が小さくなり、配信量が出ない・単価が上がることがある点です。
経営者の視点
“興味関心”は変化します。だからこそ、経営者は「誰に」「どんな段階の情報」を届けたいのかを先に言語化し、配信→反応→次の打ち手のサイクルを短く回すことが大切です。実務では、①自社の顧客を「初回」「検討中」「既存」に分け、②それぞれに必要なコンテンツ(導入事例、価格の考え方、保証・サポート)を用意し、③広告は“入口”として設計する、が基本です。個人情報に触れない分析が前提になるほど、自社が持つ1stパーティデータ(顧客台帳、問い合わせ履歴)を整える価値が上がります。
また、媒体内の分析結果を鵜呑みにせず、自社サイト側でも「資料請求→商談化」など最終成果まで追える計測設計(UTM、フォーム項目、CRM登録)を用意しておくと、広告費の判断がブレにくくなります。
参考リンク
PR TIMES:スマートニュース、記事閲読行動データを活用したマーケティング分析ソリューション「SmartNews Ads Dynamic Affinity」を提供開始
3. 1m単位の地点ターゲティングと来店計測:位置情報広告「LocAD X」が大幅アップデート
概要
フリークアウトは、西日本新聞メディアラボとデジタルマーケティング領域で戦略的業務提携を開始したと発表されました。フリークアウトが持つ位置情報データと広告配信基盤を、西日本新聞メディアラボの位置情報広告サービス「LocAD X」に実装し、機能を大幅にアップデートします。具体的には、ディスプレイ広告で1m単位からの地点ターゲティングが可能になり、GPSを活用した来店計測も強化されます。西日本新聞メディアラボは地域新聞社ネットワークを活用し、小売・有店舗事業者や行政のDX推進にもつなげる狙いです。
中小企業への影響
店舗型ビジネスにとって「広告を出した結果、来店につながったか」は永遠の課題です。地点ターゲティングと来店計測がセットになると、たとえば「競合店の近くで広告を見た人が自店に来たか」「イベント会場周辺で配信して集客できたか」といった仮説検証がしやすくなります。小さな店舗でも、配布チラシやSNS投稿と違い、配信エリアを細かく切ってテストできるのは魅力です。ただし来店計測は万能ではなく、天候・季節・交通事情など外部要因の影響も受けます。数字だけで判断せず、実際の売上や客単価、曜日別の混雑とセットで見ましょう。
また、位置情報を扱う施策は“気味悪い”と感じられやすい領域でもあります。配信設計は過度に追いかけず、訴求は「近くで使えるメリット(当日限定、空席あり、駐車場情報)」のように、生活者にとって納得感のある形に寄せると炎上リスクを下げられます。
経営者の視点
位置情報広告は「配信→来店」までの距離が短い分、クリエイティブと店頭体験が噛み合っていないと失速します。経営者としては、①配信地点ごとに“来る理由”を変える(例:駅前は回転重視、住宅地はまとめ買い)、②来店後に次回につなげる仕組み(LINE友だち登録、会員カード、レビュー依頼)を用意する、③計測結果を見てエリアを絞り込む、の順で改善すると投資対効果が出やすいです。まずは小額で2〜3パターンだけ試し、勝ち筋が見えたら拡張するのが安全です。
参考リンク
Web担当者Forum:フリークアウトと西日本新聞メディアラボが提携、位置情報広告「LocAD X」で地域DX加速
4. メール施策349ステップをAIで短縮:Hightouch Agentsが国内提供開始
概要
NTTドコモのマーケティング領域の子会社DearOneは、コンポーザブルCDP「Hightouch」の新機能としてAIエージェント「Hightouch Agents」を日本国内で提供開始しました。施策に必要なデータ分析、セグメント作成、効果検証、レポート作成までを会話形式の指示で自動化し、マーケターの手作業を減らして施策の数とスピードを高める狙いです。背景として、メール施策を1つ実行するまでに349ステップが必要だった事例が紹介され、こうした作業を大幅に効率化するために機能が開発されたと説明されています。またHightouchはDWHを中心に据え、広告・CRM・MAなどへデータを連携する「リバースETL」やA/Bテスト支援なども特徴に挙げています。
中小企業への影響
少人数でマーケティングを回す会社ほど、「レポート作成に追われて改善が進まない」「担当者の勘に依存して再現性がない」状態になりがちです。AIエージェント型のツールは、分析やレポートの“型”を作りやすく、属人化を減らす効果があります。一方で、データが散らばっているとAIは賢く動けません。中小企業が現実的に取り組むなら、①顧客データ(問い合わせ・購入・解約)を1つの台帳にまとめる、②施策名やキャンペーンIDをルール化する、③KPIを「商談数」「粗利」など経営指標に接続する、の順で整備すると投資が無駄になりにくいです。
経営者の視点
AIで自動化が進むほど、経営者の役割は「どの判断をAIに任せ、どこを人が握るか」を決めることになります。たとえば、配信停止や値引きなど顧客体験に直結する判断は人が最終確認し、レポートの集計や異常検知はAIに任せる、といった線引きです。導入時は、①まず1チャネル(メールなど)に限定して運用を回す、②“良い結果”だけでなく“悪化のサイン”を拾えるレポート設計にする、③改善会議の頻度を上げて学習速度を上げる、がポイントです。AIは魔法ではなく、データと意思決定の仕組みが揃って初めて効きます。
参考リンク
PR TIMES:DearOne、コンポーザブルCDP『Hightouch』の新機能「Hightouch Agents」を国内提供開始
5. Cookie同意のリアル:不明Cookie・みなし同意・データ欠損にどう向き合うか
概要
キヤノンマーケティングジャパン、SUBARU、リコーの担当者がCookie同意ツール(CMP:Consent Management Platform)の導入背景や運用実態を語ったイベントレポートが公開されました。日本ではCookie同意は法的義務ではない一方、個人情報保護の観点や将来的な規制強化を見据えて導入する企業が増えています。記事では、CMPの役割(バナー表示、同意取得・記録・管理)や、日本企業での設置状況に関する調査結果が紹介されています。さらに導入時に発生しやすい課題として、正体不明のCookieが大量に見つかる問題、×ボタンで閉じた場合を同意扱いにする「みなし同意」の是非、同意取得によって計測データが欠損する問題など、現場のリアルが具体的に語られています。
中小企業への影響
小規模企業でも、Web集客をする以上はプライバシー対応が“信頼”に直結します。特に、GTMや各種プラグインを追加していると、意図しないCookieが増えやすく、知らないうちにリスクを抱えがちです。記事では、導入時に全体で100〜200個のCookieがあり、そのうち10〜20個が不明だったという事例も出ています。こうした状況は、マーケティングの精度以前に「何を集めているのか説明できない」状態になり、問い合わせ対応や取引審査で不利になることがあります。対応の第一歩は、(1)使っているタグ・ツールを棚卸しする、(2)本当に必要なものだけ残す、(3)ユーザーが選べる同意設計にする、です。
経営者の視点
Cookie同意は“法律対応”だけでなく、顧客に対する姿勢そのものです。経営者としては、①同意率を上げるために×で閉じても同意扱いにするのか、②同意が減って計測が欠けた時にどう意思決定するのか、③誰が定期スキャンと是正を回すのか、を事前に決める必要があります。記事では、不明Cookieの調査にAIを使って効率化する例も紹介されていますが、重要なのは「増やさない運用」です。新しい広告タグを入れる時は、目的・取得データ・保管先・停止手順までセットで承認するルールを作ると、後から慌てずに済みます。
参考リンク
Web担当者Forum:「Cookie同意」対応の実態は? ツールを導入したキヤノンMJ、SUBARU、リコーが赤裸々に意見交換
まとめ
この期間のニュースで共通するキーワードは、「AIが入口になる」「1stパーティデータの価値が上がる」「計測が細かくなるほどプライバシー配慮が必須」の3つです。
特別な投資をする前に、次の“足元”を整えるだけでも、マーケティングの成果は安定しやすくなります。
- 自社情報を整える:商品・料金・納期・FAQ・予約などを1か所に集約し、更新責任者を決める
- データを整える:顧客台帳と問い合わせ履歴を統合し、施策名・キャンペーンIDのルールを作る
- プライバシーを整える:タグ棚卸し→不要なツール削減→同意設計(説明できる形)にする
小さく試して、数字と顧客の反応で判断する――この積み重ねが、信頼と成約を同時に伸ばす近道です。

