マーケティングニュースまとめ(2025年11月5日〜11月11日) 

マーケティングニュースまとめ(2025年11月5日〜11月11日) 

 
マーケティング領域では、海外展開の実務支援、ECの対話化、未来予測ツール、顧客体験の高度化、そしてデータ活用の表彰と、実装フェーズの動きが目立ちました。中小企業経営者が押さえておくべき重要なニュースは、電通×DIのベトナム市場進出支援の開始、Firework JapanのAI Shopping Agent国内展開、電通の「未来曼荼羅 中国版」提供、Brazeの次世代CXイベント、primeNumber「DATA AWARD」受賞発表です。 それぞれが“すぐ動ける実務”と直結しており、販路拡大・EC転換・将来設計・CX運用・データ経営の改善に直結します。
 

目次

1. 電通×DI、ベトナム市場進出支援を開始:調査→実証→拡張で“売れる機運”を捉える

概要

電通とドリームインキュベータは11月11日、ベトナム市場進出支援サービスの提供開始を発表しました。現地法人と連携し、生活者調査からチャネル・価格設計、PoC(概念実証)による検証、拡張までを一貫支援する内容です。発表では、2024年の同国の実質GDP成長率が約7.1%と高水準にあることにも触れ、若い人口動態を背景にした成長機会を示しています。サービスは、dentsu X VietnamとDIの現地チームが中心となり、生活者の購買行動や価値観の変化を反映したブランド設計、チャネル戦略、コミュニケーション運用までを対象とします。調査で仮説を立て、PoCで「買われる瞬間」を見極め、拡張段階でロイヤルティや再購入の仕組みまで伴走する実務型の構成が特徴です。
 

中小企業への影響

中小企業にとっての価値は、過度な初期投資を避けつつ、市場適合を素早く見極められる点です。机上の戦略に依存せず、現地での“なぜ買う/いつ買う”を行動データで検証し、勝ち筋のみへ資源を集中できます。販売だけでなく、現地の決済・配送・返品の体験品質を日本水準に寄せること、顧客の声を製品改善に循環させること、成果指標を売上だけでなく再購入率やCAC回収期間などのコホートで管理することが重要になります。ベトナムは都市化とデジタル導入が進む一方、地域差や文化差も大きく、国内の常識が通用しない場面があります。こうした違いを前提に、決済手段、配送スピード、返品対応の“安心感”を整えてから広告を厚くする順序が有効です。さらに、現地の口コミやリファラルが購買を後押しするため、体験の質を高める投資は広告効率にも波及します。
 

経営者の視点

導入はライトローンチが現実的です。①顧客の「買う理由/買わない理由」をインタビューで言語化、②価格・訴求・チャネル別に数週間で小さなPoC、③勝ち筋のみを残して販促・在庫を拡張、の順で段階投資を徹底しましょう。初期は現地パートナーの既存チャネルを活かしてテスト販売し、広告はリターゲティングとリファラルを中心にミニマムで開始。KPIは「再購入率」「CAC回収期間」「推奨意向」を中核に据え、短期の獲得効率と長期の利益性の両立を図りましょう。現地での学びは、価格・パッケージ・導入サポートなどの改善に直結させ、プロダクトとコミュニケーションの両輪で磨き込む姿勢が長い成功に繋がります。
 

参考リンク

電通とドリームインキュベータ、ベトナム市場進出支援サービスを提供開始
 

2. Firework Japanが「AI Shopping Agent」国内展開:PDPを“対話可能な売り場”へ

概要

Firework Japanは11月10日、商品詳細ページ(PDP)上でAIが顧客の相談に回答する「AI Shopping Agent」を日本市場で本格展開すると発表しました。ユーザーはページを離れずにチャットで質問でき、動画・テキスト・レビュー・製品情報など最大10種類のナレッジを束ねたリッチな回答を即時に受け取れます。海外の導入データでは、カート追加率が31.2%(非導入6.4%)、コンバージョン率が13.5%(同2.0%)とされ、PDP体験の改善が売上に直結することを示しています。
 

中小企業への影響

中小企業のECでは、集客よりも「最後の意思決定の詰まり」がボトルネックになることが多く、PDPの接客品質を高めることが費用対効果の高い投資になります。よくある質問(サイズ・互換性・使い方)を動画やQ&Aに変換して学習させ、比較表やレビューを根拠として提示する、在庫・配送・保証の不安を即時に解消する設計が有効です。チャットのやり取りをデータ化して離脱の多い質問を特定し、PDP自体を継続的に改善する“学習する売り場”へ育てれば、広告費の無駄も減らせます。実店舗を持つ企業は、店頭スタッフのヒアリング順序や提案フレーズをスクリプト化してAIに移植することで、オンラインの接客質を底上げできます。B2B商材や高単価商品では、チャット内で見積作成や担当者引き継ぎまで繋げると商談化率が向上します。
 

経営者の視点

導入は既存CMSに埋め込む小規模構成から始め、在庫・配送システムとの連携は段階拡張が現実的です。KPIはコンバージョン率だけでなく、推奨商品クリック率、サイズ交換率の低下、顧客満足コメントの増加など体験の質も追いましょう。誤回答を防ぐため、回答の根拠へのリンクや重要情報の原文提示を徹底し、ブランド信頼を守る運用ルールを先に定義してください。季節の特集ページを“会話可能”にする取り組みも有効で、「予算1万円のプレゼント」「肌質に合わせたおすすめ」のような目的ベースの相談にすぐ応えられる状態を作ると、回遊が購入に変わります。最後に、外部任せにせず社内に小さな“PDP最適化チーム”を置き、商品登録と同時にQ&Aや動画を整えるフローを仕組み化すると改善が止まりません。さらに、返品理由の上位をチャットの“先回り回答”に反映し、交換・返品の手続をその場で案内できるようにすると、体験の不満が減ります。A/Bテストは件名やボタン色よりも“問いかけの切り口”に集中し、「何に使いますか?」「誰向けですか?」など利用シーン起点の導線を磨くと、適切な商品提案がしやすくなります。
 

参考リンク

Firework Japan、AI Shopping Agentの日本市場展開を開始(ECzine)
 

3. 電通「未来曼荼羅 中国版」を提供開始:2030年を先読みし中国ビジネスを設計

概要

電通は11月10日、2030年の中国市場を先読みする中期未来予測ツール「電通未来曼荼羅 中国版」の提供開始を発表しました。国内で活用されてきたフレームを、中国特有の社会課題や生活者意識に合わせて再構成したもので、人口・社会経済・科学技術・まち自然などの横断トレンドを体系化。現地の生活者データや社会動向を踏まえ、未来起点で新規事業やサービス開発を進めるための視点を提供するのが狙いです。電通クリエイティブ・チャイナと共同制作され、現地クライアントだけでなく新規参入や事業拡大を目指す海外企業の活用も想定されています。ツール活用に合わせて、コンサルティングやセミナーの提供も行われる予定です。
 

中小企業への影響

中小企業が中国向けの販売・調達・提携を検討する際、短期の需要や規制だけでなく、中長期の構造変化を織り込んだ「選択と集中」が鍵になります。本ツールは、越境EC、現地D2C、パートナー販売といった多様なチャネル選択を、生活者の価値観や都市ごとの消費多様化、データ保護や物流の潮流と結びつけて地図化するのに有効です。外部環境の変動に備え、楽観・中位・慎重の三つのシナリオで需要・為替・規制・物流コストを仮置きし、各シナリオでも継続できる価格帯と粗利・在庫回転を逆算する発想が、無理のない成長計画につながります。また、広告プラットフォームの規約変更や決済・与信の枠組み、越境データの取り扱いなど、非市場要因の影響を事前に棚卸ししておくと被害を最小化できます。これらを前提に、価格設定・在庫配置・物流設計を“変動しても続けられる範囲”でデザインしておくと、急な外部ショックにも耐えやすくなります。
 

経営者の視点

実務では、①主要都市のターゲット群ごとの価値仮説(健康志向・安全志向・節約志向など)を定義、②限定SKUやセットでオンライン試験販売、③リピーター獲得の導線を優先投資、の順が現実解です。意思決定ルールとして「在庫の逃し先」「代替チャネル」「価格調整の許容幅」をあらかじめ定義し、変動時の現場判断を高速化しましょう。「どのトレンドに賭けるか」と同時に「捨てる領域」を明確にし、毎月の学習で仮説と投資を更新する仕組みづくりが重要です。学びを最大化するには、短いイテレーションで「仮説→検証→意思決定」を回すこと。試験販売の結果は、コピー・画像・価格・レビュー獲得などの要素に分解して原因を特定し、勝ちパターンだけを残して拡張してください。データは「都市×顧客群×チャネル」の粒度で蓄積し、次の実験に使い回すとスピードが上がります。
 

参考リンク

電通、中期未来予測ツール「電通未来曼荼羅」の中国版を提供開始
 

4. Brazeイベント告知:日本KFC・サンリオ・カカクコムが語る“次世代CX”の実務

概要

Brazeは11月7日、次世代の顧客体験(CX)をテーマに、日本KFC、サンリオ、カカクコムなどが登壇するイベントを案内しました。モバイルアプリやメッセージ配信、アプリ内体験の最適化など、行動データに基づくパーソナライゼーションやリアルタイム検証の実務が議論される見込みです。大規模事業者の先進事例は、少人数チームでも取り入れられる運用の型に落とし込めるのが利点です。参加各社の共通テーマは、「チャネルを横断した顧客理解と、現場運用に落とし込む仕組み化」です。イベントをきっかけに、顧客データの活用と施策の改善サイクルを見直す好機と言えます。
 

中小企業への影響

中小企業にとってのポイントは三つ。第一に、断片的なメール施策から脱却し、アプリ・LINE・メール・店舗を“同じ顧客文脈”で繋ぐこと。第二に、成果指標を開封率からLTV・継続率・客単価へ移し、短期の反応と長期の利益性を両立させること。第三に、メッセージの量より「文脈の合致」を重視することです。小売・飲食では、購買履歴×行動ログでセグメントを作り、再来店やアップセルの“最適なタイミング”にだけ配信するだけでも成果が変わります。また、アプリの棚に情報を積み上げる“在庫型コンテンツ”と、プッシュやメールで流す“フロー型コンテンツ”を役割分担し、顧客の課題解決に直結する情報を最短導線で届けると体験満足が向上します。店頭スタッフの知見をデジタルに移植する取り組み(例:定番質問のトークスクリプト化)も、オンラインの体験品質を高めます。
 

経営者の視点

実装は、①施策カレンダーを月単位で作る、②週次でA/B結果と問い合わせ内容を振り返る、③勝ちパターンをテンプレ化し再利用する、のルーチン化から始めましょう。イベント・新商品の告知では、「誰に何を伝えると買うのか」の仮説を事前に立て、コピーやクリエイティブの言い回しを少額テストで磨き込むと媒体費の効率が上がります。全体のブランド約束から逸脱しないガードレール(トーン&マナー、価格ポジション)を定め、現場とデジタルが同じダッシュボードで意思決定できる体制を作ると、少人数でも回せます。KPIは配信量やフォロワー数ではなく、「再来店率」「会員化率」「チャーン低減」「店舗×ECの相互送客」のような行動の変化に置きましょう。少人数体制では、毎月“やらないことリスト”を明確にして集中するのがコツです。まずは最重要の再来店トリガーを1~2個だけ定義し、それを阻む摩擦(会員連携の不具合、押し売り感、在庫切れ)を一つずつ除去してください。学びの蓄積は翌月の成果を底上げします。
 

参考リンク

Braze、次世代CXをテーマにイベント開催!日本KFC、サンリオ、カカクコムなどが登壇(MarkeZine)
 

5. primeNumber「DATA AWARD」発表:大阪ガス・ベースフード・ZAICOを表彰

概要

primeNumberは11月5日、データによる価値創造に取り組む企業を顕彰する「DATA AWARD」の受賞企業を公表しました。「DATA INNOVATION AWARD」に大阪ガス、「DATA DRIVEN AWARD」にベースフード、「DATA GROWTH AWARD」にZAICOが選出。大阪ガスは生成AIの早期導入を含むデータ基盤整備と知見発信、ベースフードは需要予測誤差(MAPE)を10%未満に抑えるなど事業成果への直結、ZAICOは短期間での実用的データ基盤構築と全社的なデータ文化浸透、オンボーディング直後の解約率の大幅低減などが評価されています。受賞企業による事例発表は11月26日の「primeNumber DATA SUMMIT」で予定され、取り組みの詳細が公開されます。
 

中小企業への影響

中小企業にとって重要なのは、“使う前提でつくる”姿勢です。完璧なDWH構築よりも、まずはKPI設計と業務プロセスの整流化を先に行い、現場と経営会議のダッシュボードを最短で回す。解約・欠品など収益に直結するボトルネック領域から改善を始めると、成果が数字に出ます。さらに、需要予測や在庫の異常検知を“今日わかる”粒度で可視化できれば、広告費や仕入の判断が精緻化され、利益率の改善にも波及します。一方で、データ活用の初期段階では“データが揃うまで意思決定できない”状態に陥りがちです。意思決定に必要な最小限のデータと指標に限定し、運用しながら拡張する考え方が、スピードと品質の両立に有効です。
 

経営者の視点

実務では、①指標の定義書を整備して語彙を統一、②権限設計で「誰が何を見るか」を明確化、③データ品質アラート(欠損・遅延)と定義変更ログ、④ダッシュボードの棚卸しを月次で実施し属人化を防ぎましょう。人材が限られる企業ほど、可視化のリズムを経営が主導して作ることが肝要です。初期は粗い設計でも構いません。「今日の受注」「今週の解約予兆」「来月の在庫切れリスク」が一画面で見えるだけで会議が進み、LTVが見えることで獲得単価の上限を根拠を持って調整できるようになります。勝ち方を社内広報で共有し、組織の習慣にしていきましょう。また、現場にとって“意味のある単位”で指標を見せる工夫(SKU×店舗、プラン×オンボーディング日など)を行い、原因→打ち手→結果を1サイクルで検証することが重要です。外部ベンダー任せにせず、社内の“データ責任者”を置き、会議での活用をドライブすると、投資効果が最大化します。
 

参考リンク

primeNumber「DATA AWARD」受賞企業を発表(MarkeZine)
 

まとめ

 
今回取り上げた動きは、“予算を増やす前に体験と仕組みを磨く”という共通項に収れんします。海外では段階投資で勝ち筋を見極め、ECではPDPを対話可能にして詰まりを解消し、未来予測で選択と集中を進め、CX運用はチャネル横断の文脈統一、データ活用は“使う前提”で最小構成から着手する――この順序が成果を早めます。今後は、AI活用とオムニチャネル運用の成熟度が競争力を左右します。自社の強みと顧客の“買う理由”が交わる点に資源を集中し、毎月の学習サイクルで改善を積み上げていきましょう。次回も、実行に移しやすい国内のマーケティング動向を厳選してお届けします。

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